運がいいな
とりあえず飲み物でも飲みながら、と思ったので朝に作っておいた冷たい香草ハーブのお茶(あれなのとアレなのとアレな感じもハーブだが、合わせると普通のお茶になる)を出す。
そして以前作っておいたクッキーをお茶うけ用のお菓子として机の上に置いてから、僕も椅子に座り、
「それでウィルワードさん、お話とは?」
「そうですね幾つか謝らなければならない事もあるのですが……先にもう一度お礼を言わせて頂きます。ウィーゼを助けて頂きありがとうございました」
「? ウィーゼという魔族とお知り合いなのですか?」
「僕を捨てた大切な恋人です」
それはもう嬉しそうに告げるウィルワードに、今捨てられたと言っていたような、いや、この人はそういう趣味が? いやいや、でも、え? と僕は混乱していたけれどそこでウィルワードが更に笑みを深くして、
「一緒に眠らずに最後まで足?くと告げた気丈な人なのです。その時僕は彼に“捨てられ”てしまいましたが。それでも僕は未だに未練がましく好きなままなんですよ。なので約束を交わすために倒したとはいえ、あの力を手に入れるためにウィーゼ自身が蝕まれていましたから、結果として止める事になりましたから、お礼を」
「は、はあ……」
「この世界歪みという崩壊の力をそのまま吸収して、クロヴィスにまとめてぶつける予定だったようです。歪み自体は、そのままの状態では魔族も力として蓄える事は出来ない……しかも、sぽのままでは世界を崩壊に導く物なので、この世界に存在するウィーゼ自身を傷つける事になっていましたから」
「そうだったのですか。……でも今の話を聞いていると全部僕の話を見ていたように聞こえますが」
「ええ、彼らからは見えない位置に、僕の人形を一体設置して全て見て聞いていましたから」
誰にも気付かれずにそれをやっているらしい。
確かに凄い魔法使いなのかも、ゲーム内でも、その凄さは切々と伝わってくるように描写をされていたしと僕は思っているとそこで、
「でもやはり異世界から来て、そしてそれを隠していたのですね。そうだなと思っていたのですが」
「……どうしてそう思ったのですか?」
僕の受け答えに何処か無理があったのだろうか、もう少し気をつけないとと思って僕がウィルワードに聞くと、彼は肩をすくめて、
「“時間・空間”系の魔力の探知も幾らかは出来ますからね。魔力も強いですし。それに僕の知らない魔法も使っていましたし、僕が伝えるはずの無い“人形”を持っていたり、他にもこの世界の人間にしては色々尊いようでしたし何より……あのクロヴィスにそこまでなびいていませんでしたし、嫌ってもいませんでしたしね」
「? そういえばクロヴィス、女の子にモテモテだったような。後は魔族に嫌われていたし」
「どちらかの強い感情をこの世界の人間は抱く物なのですよ。僕は、好意の様な物の方でしたが。でも陽斗はクロヴィスへの態度は普通の友人に接する様な感じでしたからね」
「それは、まあ。恩人でもあったけれど、僕が嫌がるのに戦闘に連れて行くし」
「そのあたりも魔法使いとしてはおかしいですしね。戦闘は、獲物が来たぞ、ひゃっは―、と言って襲いかかるのが魔法使いなのに、陽斗は逃げていましたしね」
その魔法使い感は間違っていると思うと、僕は言いたかった。
もっとキラキラした可愛いものであったはずなのにそんな……と黙ってしまう僕にウィルワードはさらに、
「そもそも“過去”が無いようでしたしね。ディアナ学園の塔が幾つあるか聞いたでしょう? それが本当は3本しかないのですよ」
「……」
どうやらあの質問自体が僕への罠だったらしい。
この人油断も隙もないなと思って、けれど“過去”が無いと他の口から言われると余計それを僕は感じさせられてしまう。
意識が遠のいていきそうな不安を僕は感じているも、ウィルワードは更に僕に、
「ただ、ミレニアムちゃんの代わりが陽斗とは、いえ、その逆だとは思いませんでした。ミレニアムちゃんはにはただ才能があるしそういった関係の様な物があるのかなといった程度の重要性しか感じていませんでしたから。でも同じ学校出身という過去が存在した事になっているのも、彼女と似た役目を持っているからなのでしょうか」
僕の“過去”はそうであったと全ての人や、出来事、文書までもがそう変化させられているのだ。
けれどその“過去”には本当の僕はおらず、ただそうだったという偽の記憶があるだけだ。
そう考えていると、更に頭がくらくらしてきて、そこで、
「……えっとリリス?」
ふわふわと飛んできたリリスとタマが僕の膝の上に乗る。
しかもそのまま僕を見上げた二人は、
「「それでも、僕は陽斗が好きだって事実は変わらないから(にゃ)」」
「……ありがとう」
多分僕が不安そうな顔をしていたから慰めてくれたのだろう。
やはり家の猫と杖は最高だと思いながら僕も微笑む。
それと共に僕の中にある心の中に引っかかっていたそれは、ほどけて消えた。
やはり異世界から来て以後、居心地は良いけれど嘘をついた状態でいるのは、僕にとって無意識のうちに重みになっていたのかもしれない。
そこでウィルワードが楽しげに笑う。
「慕われているね。いいことだよ。きっと君がこの世界を気に入ればクロヴィスもこの世界に愛着を再び戻せるかもしれない」
「……僕は、確かに少ないけれど、クロヴィスはこの世界に愛着を持っていると思います」
「……そうだね。君がここに来るまで、結局は、この世界を滅ぼしていなかったし」
「ウィルワードさんが巻き込んだから仕方がなくと言っているけれど、クロヴィスは結局は巻き込まれて、手伝ってくれて、そして僕の戦闘のためと言いつつ蘇らせようとしたりして……それは、まだこの世界にクロヴィスが迷っている、愛着や未練があるから、そうだとは思いませんか?」
ウィルワードは大きく目を見開き、苦笑した。
「そうだね、そうだ。友人を名乗っておきながらそんなことにも僕は、気づかなかったのか」
笑うウィルワード。
それから深々と嘆息して、
「君だから、クロヴィスは一目惚れして、今も大切に溺愛しているのかもしれないね」
「その割にはもうちょっと戦闘も手加減して欲しいかなと」
「そうだね。……さて、他にも聞いて君という人間を知ろうと思ったけれど止めるよ。だって、君ならクロヴィスの感情を変えられる、それとも既に変えているのかもしれない」
「そうだといいと思います」
そうすれば、フィオレも他の人達も傷つかずにすむのだ。
そんな僕を見て、魔族たちとの会話を全部聞いていて事情を知っているウィルワードは優しげに微笑み、
「あとこれから出来る限り君たちのサポートはさせてもらおうと思う。戦闘も僕は得意な方だし」
「それは助かります。まずアンジェロの解呪からですから、次に行くのは砂漠です。南にあるあの“メルリア砂漠”です」
「ちょっと距離があるから明日かな? では明日の朝僕もここに来るよ」
「よろしくお願いします」
伝説の魔法使いの力を見れる時が来た。
ゲーム内では出てこなかったので実力は不明なままなのだ。
そういった意味でちょっとだけワクワクしている僕だが、そこで何処か楽しそうなライと目が合って僕はあることを思い出した。
「ライ、行きにもいったけれど、酷いよ。僕のこと知っていてわざと、陽斗は強いんだね、とか、普通の人間とは思えないよとか、聞いてきたんじゃないか」
「だって可愛い反応をするし。しかも監視も含めてここにいたら、タマ様をペットにしているし、獣人だって気付いていそうなのも含めて色々突っ込みどころが合ったし。魔力が強いからそういった幻覚が効かないのかも」
「そうなんだ。は! そういえばさっきの会話で、フィオレは実は、タマやライに気付いている?」
「僕は気づかれたけれど、タマ様は微妙かもね。さっき会話していたけれどもう忘れているかも。タマ様の魔法ってそういうものだし」
「そうなんだ……」
「とまあ、そんな感じだからこれかも仲良くしてくれると嬉しいな。陽斗も僕は気に入っているし」
「でもライはタマの知り合いなんだね」
「うん、タマのお父様が僕は好きだったし」
さらっと注ぎた言葉にタマが僕の膝の上で凍りつき、
「悪趣味なのにゃ」
「そんなことはないよ。優しいし」
「あんな呪いも開発したりするし他にも、何だか怖くなった部分があって、僕は逃げ出したんだにゃ」
「……そうですか」
「そういったのに僕は敏感なんだにゃ。だから同じ魔族でもウィーゼ? のあれをまとっている時は警戒してしまったにゃ。それよりも警戒したのは、あのクロヴィスが危険なものを見せた時も、もっと危険な気がしたにゃ」
「タマ様、危険が危険な感じになっています」
「それだけ危険にゃ。父様達が焦っていた理由も分かった。でもきっと陽斗ならなんとかなると思うにゃ」
にゃんと膝の上で啼いたタマ。
それに僕は勇気付けられたのだった。
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それらの会話を、フィオレはこっそり階段の傍で聞き耳を立てていた。
「陽斗が異世界から来て、クロヴィスは世界を滅ぼそうとする“何か”で、でも陽斗はそんなクロヴィスを説得しようとしている。でもクロヴィスの正体を告げる事も出来ないし、陽斗は自分が異世界から来ていて色々知っているのを隠さないといけない。……ややこしい、でも」
フィオレは自分の記憶すらも塗り替えられていたのに驚く。
魔法関係には自身があったがそれを超越しているのは、クロヴィスらしい。
でも先ほどの会話も含めてクロヴィスはもっと……感情的な存在だと思う。
そしてこの世界に存在する陽斗の記録は偽物だとしても、あの力は本物で、フィオレが出会った陽斗という人間を、フィオレは自分の目で見て、一緒にいて感じてとってみて……信頼できる気の置けない友人だと認識している。
更に付け加えるなら、アンジェロを助けてくれようともしている恩人でもあるのだ。
だから、フィオレも出来る限り協力しようと思う。
「まずは僕も何も聞いていなくて、気付かないふりをしておくのが一番か。タマもやっぱり魔族だったが、僕のイメージしていた伝え聞く魔族像とはあのタマもライも全く違っていた。もっとも、アンジェロにあんな呪いをかけた魔族は、伝え聞く魔族その物としか思えないが」
集団と個では別の顔を持つ場合があるのはフィオレも分かっている。
だから、ライとタマも今はこうやって話をしているけれど実際は違うのかもしれない。
けれど、その時はその時だ。
「……僕の感じ取った物を信じよう」
フィオレはそう小さく呟き、その場をそっと後にする。
すでに陽斗達は食べ物の話題という関係ない雑談に話を移していたのだった。
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後片付けをしながら僕は一人、食事用の椅子に座ってぼんやりとしていた。
石板の位置がずれていたのは全部設置されていたから。
つまり異世界だからだった。
「異世界だったんだ」
ゲームの世界に入った気がしたけれど、違っていたのはやはり異世界だからだったようだ。
そしてこれからクロヴィスを説得しないといけない。
あの時は、よく言い返せたものだ。
「我ながらよく頭が働いたなって、思う。皆を守るために必死だったんだ。でも僕が“魔王”ね、そんな柄じゃないと思うんだけれどな」
そう小さく呟いてしばらくぼんやりしているとそこで扉が開いた。
現れたのはクロヴィスだ。
だからいつものように僕は微笑んで、
「お帰り、クロヴィス」
「ただいま。どうしたんだこんな所で」
「何だかぼんやりしちゃって」
「それはそうだろう、魔族と戦ったんだからな」
そうだねと僕は頷きながら椅子に座った僕はぼんやりしていると、僕の背後にクロヴィスがやってきて僕を後ろから抱きしめる。そして、
「陽斗はこの世界が気に入ったか」
聞いてくるクロヴィスに、もしかしてこうやって聞いてくるのもクロヴィスなりに思う所があるのかなと思って嬉しく思いながら、
「同じ質問だよ?」
「答えろ」
「……すきだよ。皆も、クロヴィスもいるしね」
そう答えるとクロヴィスは、何時もよりもほんの少し優しく微笑んだ気がしたのだった。
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そんなこんなで、空いている部屋でアンジェロを寝かせていたフィオレにご飯を持っていく事にした。
アンジェロがには野菜スープとベーコン、ミルクとチーズ、香草で作ったリゾットを。
飲み物として、体力と魔力を回復する栄養剤(呪いも幾らか緩和するらしい)……と共に、“風藍ブドウ”の果実を搾ったジュースを持っていく。
フィオレの分は僕達と同じでもいいかと思って、とりあえずは他の人に食べられてしまわないよう別に取り分けてある。
今日はハンバーグを使った、ロコモコ風のご飯だ。
皆は今美味しいと食べているはずである。
というわけでご飯を持ってきた僕に、先ほどからアンジエロの手を握り締めて魔力を注いでいる? らしいフィオレが、顔を上げて、
「陽斗、しばらくこの部屋に居させてもらっていいか?」
「それは良いけれど」
「ありがとう。ここの部屋は……いや、この家自体が自然と魔力が集まっている様な気がする。だからアンジェロも体が楽なようなんだ」
「そうなんだ。このお家、いい場所だったのかな?」
「恐らくは。それは食事?」
「うん、アンジェロの分。フィオレの分は別に用意してあるから。後で食べると良いよ」
「そうさせてもらう。何から何まで……」
「別に良いよ“友達”だもの」
「そうだな、“友達”だから」
そう友達だと言い合って僕とフィオレは何となく恥ずかしいような変な気持ちになって笑ってしまう。
そんな僕達をアンジェロは微笑ましそうに見ている。
それに気付いたらしいフィオレが、それがさらに恥ずかしくなったのか慌てる様に僕から栄養剤を取り上げて、
「アンジェロ、まずは栄養剤だ。これを飲んで回復しろ」
「では、フィオレに口移しで飲ませて欲しいですね」
アンジェロが、微笑みながら要求した。
フィオレが冷たい顔でアンジェロを見てから、手にもつ栄養剤の瓶に目を落とす。
硝子の瓶には、緑色の透明な液体が入っている。
ゲーム内でもとても貴重な材料を幾つも使った特別な栄養剤だったりするので、この世界でも効果はてき面……だと僕は思いたい。
その瓶をじっと見ていたフィオレが、意を決したようにそれを口に付け、一気に半量ほど口に含み、僕の目の前でアンジェロと唇を重ねた。
何となく見てはいけないような気がして僕は、慌ててみないように目を隠す。
それから少しして様子を見ると……何故か上半身を起こしたアンジェロが、フィオレに濃厚なキスをしている最中だった。
フィオレが慌てて逃げようとしているようだが、腕を掴まれて逃げられないようだ。
ぴちゃぴちゃとした唾液の絡まるような音がして、濃厚なキスをしているのは分かるが、そこでフィオレの体から力が抜けそうになった所でアンジェロが唇を放し、
「ごちそう様です」
「……アーン―ジェーロォォォォォ」
ごちそうさまという言葉から少しして正気に戻ったらしいフィオレが呪詛めいた声を上げる。
今キスされたことでフィオレは頭に血が上ってしまい気づいていないようなのだが、僕は驚いた。
「アンジェロ、もう起き上がれるの?」
「そのようですね。まだ体がふらふらしますので戦闘のお手伝いは出来そうにありませんが」
「でもどうしてだろう。この栄養剤の効果かな? ……そういえば呪いも幾らか緩和する、という効果もあった気がする」
「それにこの家には魔力が集まりやすいようですから、体が動かしやすいのでしょう。というわけで、フィオレ。私の看病をせずに、呪いを解く材料を取りに行くお手伝いをお願いしてもよろしいですか?」
そこで微笑みながらフィオレにアンジェロは告げる。
何でだろうと僕が思っているとフィオレが絶望したような顔で、
「そんな! アンジェロにご飯を作ってあげようと……」
「だからです」
即答するアンジェロを見て、意外にこの人容赦無いなと僕が思っているとそこでフィオレが瞳に涙を浮かべて、
「アンジェロのバカァあああ」
そう叫んで部屋から出て行ってしまう。
僕はどうしようかと思っているとそこで、
「ご飯を食べさせて貰う機会を失ってしまいましたね」
そんな風にアンジェロが呑気に呟いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
その後はフィオレも一緒にご飯を食べて、何故かフィオレはアンジェロの部屋に行って戻ってこないまま僕たちは眠り、次の日。
アンジェロはどうにかベッドから起き上がれて、一緒に朝食をとる。
フィオレが無言でもしゃもしゃパンとサラダを食べており、目の下がくまになっているのが気になったが、ここは突っ込んではいけない部分だなと僕は空気を読んだ。
食料品などはそこそこ買い込んであったし、長く家を開けるつもりもない……せいぜいい一泊か二泊、他の町に泊まる程度の予定だったのだ。
そしてウィルワードがやってきて、クロヴィスがげっそりとしていたので、
「やっぱりクロヴィスを振り回せる行動を僕は手に入れ、ふぎゅ、んんっ」
僕はクロヴィスにキスされてしまう。
嫌悪感は感じないからと言ってされるのに慣れているわけではないので、僕は抵抗した。
すると唇を放したクロヴィスが僕を見て、
「いい加減キス程度慣れろ」
「慣れるわけないじゃないか!」
「……やはりもう少し先に進んだほうが、慣れるだろうか」
「な、何をする気だ」
だがクロヴィスはふっと鬼畜な微笑みを浮かべるだけで答えない。
そして、“メルリア砂漠”にあるオアシス都市に向かうことにする。
必要な材料が高価とはいえお金でどうにかなるならその方がいい。
珍しい材料なので見つけにくいには見つけにくいのだけれど、もしも購入できなかった場合、そういった希少な材料を見つける探知機を僕は持っているのでその点は安心だ。
最後のほうで手に入ったので、一回しか使ったことのない道具。
だから二周目用として使う予定だった。
とはいえアンジェロの呪いを解くのが優先なのには変わりないので、購入できるに越したことはない。
さてそんなこんなで、街から出ている馬車に乗りまずはそのオアシス都市を目指す。
民家が見えなくなり森に向かい、やがてサラサラとした砂が波打つ場所を、馬車が行く。
この馬は砂漠越えの出来る特別な馬であるらしい。
そして淡黄色の砂の道には、途中途中で道しるべとして見るのは“砂漠人形”達である。
僕達が来ると手を振るように歓迎してくれる。
ちなみにこの人形達は砂漠越えのお守りとして使われた人形であり、行き来の際に落とされて砂漠の魔力によって動きはじめた、そう、精霊の一種なのである。
人と関わり合いがあるので妖精と分類していいのかもしれないが、こうやって道の両脇で道案内の様なものをしてくれるだけなので精霊と呼ばれているそうだ。
ちなみに砂漠の中には埋もれた帝国があり、悪霊達が時折太鼓をたたく音や武器をぶつけあう音が聞こえるのだとか。
僕達の世界であれば、熱膨張だか何かが関係していたような気がするが、ウィルワードさん曰く、夜は案内する人がいないので人形達がお礼に貰った太鼓などを叩いて遊んでいるのが原因らしい。
そして太鼓などの楽器や武器を渡すと、砂に埋もれてしまった変わった物や砂漠の宝石、水など色々な物と好感してくれる場合いがあるのだが、それを秘密にしておきたいので悪霊ということになっているそうだ。
「楽器のようなものは持っていなかったから、後でオアシス都市でで購入してあの人形の子達に渡したら欲しいものが手に入るかな?」
僕がそう呟くと、クロヴィスが嘆息して、
「欲しいものが出るまでそれを繰り返すのか?」
「楽器がいくらあっても、きっと足りないね」
そこまで運良く上手くいくなんて思えないし、そう呟いている内に僕たちは、オアシス都市にやってきたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
オアシス都市、“キスト”にやってきた僕達は、待ち合わせの場所を帰りの馬車が集まる待合所周辺とした。
そしてどんな風に別れたかというと、
僕とクロヴィス、タマとライとリリス、ウィルワードとフィオレの三組。
その分け方をしたのはクロヴィスが、
「俺は、陽斗以外に一緒に行動はしない」
「そうんなんだ、じゃあ僕とクロヴィスとウィルワード……うぐっ」
そこで僕はクロヴィスに口を手でふさがれて、
「俺と陽斗、タマとライとリリス、ウィルワードとフィオレの三組に分かれて探そう。それでいいな」
「僕は陽斗と一緒に回りたいけれど、駄目かな?」
そこでライがそう告げるとクロヴィスに睨まれたので、おー、怖い怖いと笑いながら要求に従った。
そういえばこうなると初めからライは分かっていただろうから、わざと聞いたのだろう。
ライは僕の監視を兼ねているから。
そんなことを考えている僕にそこでフィオレが、
「それでたしか集めるのは、“紫の砂漠の薔薇”と“星空の欠片を抱く砂漠の宝石(リビアングラス”でいいのか?」
「うん、とりあえず見つけた場所だけあとで教えてもらえればいい。確か売っているのって凄く高かったから」
なのでゲーム内ではわざわざ砂漠まで探しに行ったのだけれど、現在お金は限界に近い量なのである。
十分購入できるだけのお金はあるのだ。
問題なのは、これらがただの“砂漠の薔薇”や“砂漠の宝石”でないこと。
オアシス都市なので、水の魔力が湧いている所もあるので、そういった場所の近くに“砂漠の薔薇”は出来やすい。
ただそれに“何か”の要因が重ならないと“紫の砂漠の薔薇”はできない。
そして“砂漠の宝石”もそうで、砂漠に生じたその“砂漠の宝石(リビアングラス”に“何か”が生じないと出来ないらしい。
そういった貴重なものなので出てくる事自体がまれなのだ。
が、稀だからといって買うのでは駄目なのだ。
もしかしたなら2つくらいあって、片方はもう片方よりも安いかもしれないので、値段を見て集まることにする。
そうして僕達は別れてで店などを見て回る事になった。
人の多い街。
出店では雑貨の他に様々な食べ物や飲み物が売っている。
所々に、何時だかは分からないが、踊り子のコンテストのようなものがあるらしく、宣伝の紙がそこら中にはられている。
特に興味のなかった僕は、中身をよく見ることはなかった。
だって、載っていたイラストの踊り子は男性のもののようだったし。
そんなこんなで、途中、“甘いヤシ”と呼ばれる椰子の実を2つ購入して、クロヴィスと飲んだりしながら回っていくけれど、
「何だか全然ないね」
「そうだな。普通の“砂漠の薔薇”はあるようだが、それ以外は存在しないようだな」
「しかも普通の“砂漠の薔薇”も結構高いし」
そう呟いている僕達。
ひと通り見て回るも、気づけば出店の一番端のあたりまで来てしまう。
「全然ないな……よし、そこのお店で太鼓を買ってこよう」
「砂漠に探しには行かないのか?」
「え、えっと、砂漠は危険だし?」
「……久しぶりに縄の出番かな」
「ひ、必要だったら行くよ! でも今はすぐにでもアンジェロを癒やさないといけないわけで……」
そこで僕はクロヴィスに腕を掴まれて、近くの細い路地に連れ込まれる。
少し入っただけの路地は薄暗く、大通りの喧騒は遠くなる。
そんな場所に引きずり込まれた僕は、クロヴィスに片方の肩を掴まれて壁に押し付けられていた。
見上げるとクロヴィスが嗤っている。
その瞳に暗い情念がある気がして、僕は体をこわばらせてしまう。
それに気付いたらしいクロヴィスは更に笑みを深くして、
「そんなにアンジェロが、俺以外の男が気になるのか?」
「クロヴィス、そういった言い方はないと思う。フィオレは僕の友達で、そのフィオレの恋人であり、僕の知り合いだし、そんな人があんな風に呪いを受けたなら手伝いたいって思うのは当然じゃないか」
「……陽斗はお人好しだな。それで……もしも、そのアンジェロを俺が治したなら、陽斗は俺の“物”になるか?」
笑いながら告げたクロヴィス。
僕はクロヴィスにその力があるのも、クロヴィスが僕を好いているのも知っている。
きっと遠回しに、治す手助けをする代わりに僕を奪うと言っているのかもしれない。
よくよく思い出せば、僕を奪いたいというようなそんな言葉を、冗談めかして何度も聞いた気がする。
力を使うということは、僕が、僕達がクロヴィスの力を確実に知るということ。
それがクロヴィスの引いた線なのだろう。
でも僕はまだ嫌いではないけれどそこまで強い思いを自分が抱いているのか分からない。
クロヴィスが僕を想ってくれているからこそ、それに僕は誠実に応えたいと思う。
それに、こんな言い方はクロヴィスらしくない。つまり、
「それはクロヴィスが僕に、“戦闘”をしないで怠けていいよって事?」
「……」
「だって、必要な物を砂漠に取りに行かなくていいってことだよね。それはつまり“戦闘”しなくていいってことだよね?」
そう悪戯っぽく問いかけると、クロヴィスは目を瞬かせてから、
「確かにそうなってしまうな。俺としたことが陽斗を怠けさせてしまうとは、な」
クロヴィスは破顔する。
おかしそうに笑うクロヴィスを見ながら僕は、こんな風に心の底から楽しそうに笑うクロヴィスが一番“好き”だと思う。
何だか見ていると自然と笑みが溢れてくるのだ。
「なんだ、微笑ましそうな顔をして」
「ん? クロヴィスが“心の底”から楽しそうに笑っているのが嬉しくなっただけだよ」
そう答えると、クロヴィスが僕から顔を背けてしまう。
何でそんな風に背けるんだと思って回りこむと……そのまま僕は腕を掴まれて引き寄せられてキスされてしまう。
なんでだと僕が思っているとそこで唇を放されて、
「さて、折角だから少し砂漠を散策してこようか!」
「! で、でももう少し探して……」
「俺としたことが、陽斗に怠ける選択肢を与えそうになるとは思わなかった。だがそれを教えてくれたということは、陽斗が自分から“戦闘”をしたいとお願いしてきた。俺の洗脳の賜たまものだ、この調子で魔物を見た瞬間に襲いかかる普通の魔法使いを目指そうか」
「い、いやぁああああっ、というか何でロープがっ」
気づけばクロヴィスの手にはロープが握られて僕はぐるぐる巻に。
久しぶりにこんな目にあった僕は、せめてと思って、
「太鼓を、太鼓を買わせてください」
「……いいだろう。但し三個までだ」
と、クロヴィスに回数制限されてしまった僕は、太鼓を3つほど購入して街と砂漠の境界あたりにやってくる。
“砂漠人形”にお願いをしてみようと思ったのだ。
なので何処に人形がいるか探していると、僕の目の前の土から、人形が一体顔を出す。
青い帽子をかぶった人形で、そんな彼に僕は太鼓を一つ渡すと、トテトテと何処かに消えていったかと思うとすぐに同じような人形で赤と緑の帽子をそれぞれかぶった二人の仲間を連れてきた。
交換してくれないのかな? と思いつつその二人にも太鼓を渡す。
嬉しそうに人形は何処かに消えていく。
そのまま戻ってこない。
「貰ったまま戻ってきてくれないのかな?」
「そういう場合が結構多いらしいぞ? さて、諦めて“戦闘”に行こうか」
「う、うぐっ、後もう少しだけ」
そう僕が諦めきれずに待っていると……やがて三体のあの人形が何かを担いで僕の前に持ってくる。
それは緑色の透明な石で、中には赤や青、白などの斑点が見て取れる。
僕はそれが何なのかをすぐに見ぬいた。
「“星空の欠片を抱く砂漠の宝石”」
「……陽斗は運がいいな」
「うん。これ、貰っていいかな?」
そう僕が問いかけると、人形が頷くのでそれを僕は受け取った。
これで貴重な材料が一つ手に入った。
人形たちはそのまま砂の中に潜ってしまったのはいいとして、そこで僕達の周りを、顔を布で隠した人物たちが囲んだのだった。




