少しお話ししませんか?
陽斗のいない家では、食事をする時の椅子にクロヴィスが座っていた。
そのすぐ傍にフィオレも座っていた。
特に理由はないが、フィオレは何となくクロヴィスの近くにいたかった。
タマとリリスは、先ほどリリスが杖を舐められて喘いでいたが、一瞬の隙を突いて逃走していたのだ。
ちなみにクロヴィスは椅子に座って何をしていたかといえば、
「今日はこちらの“戦闘”の依頼と、こちらの“戦闘”の依頼を合わせるか。だがこの辺りにはスライムと触手がいたな。……どちらを選ぶか」
といった内容を時折小さく呟きながら、真剣に依頼を考えているようだった。
ただいまの呟きと今までの出来事から推定するに、スライムか触手に陽斗は襲われる事になるだろう未来が容易に想像できた。
なのでフィオレはこころよく、陽斗とクロヴィスを送り出すと心に決めていたのはいいとして。
そこで依頼の書かれたカードから顔を上げたクロヴィスがフィオレを見た。
「どうしてずっとそこにいる?」
「いえ、何となく」
「……そうか」
短い会話だったが、珍しくクロヴィスから話しかけてもらえた事がフィオレには何となく嬉しかった。
それに気付いたクロヴィスが、何か珍しい物を見る様にフィオレを見て、
「……前から聞きたかったが、どうして俺を仲間にしたいと思った?」
「それはその実力があれば当然かと!」
このクロヴィスの技を一度でも見たならば、その圧倒的な実力に魅入られる事だろう。
もっともフィオレは、
「それに何となく懐かしい様な惹かれる気持ちがあって、誘いました」
「……それでアンジェロにはそれを話したのか?」
「はい。……というか、僕達の事を覚えていたんですね」
覚えていないとクロヴィスが答えていたがどうやら覚えていたらしい。
何だか嬉しい事が続くなとフィオレが思っているとそこで、
「それでフィオレは、アンジェロがお前が誘ったお前目当ての仲間を陰で撃退していたのは知っているか?」
「……え?」
そんな話知らないと思ってフィオレは呟いたが、そこでフィオレは思いだした。
仲間に誘った時は好意的だったのに、次に会った時は、
「化け物にでも出会ったかのような悲鳴を上げて逃げられたり、視線を合わせただけで逃走された……」
そんなに僕の態度は良くなかったのだろうかと密かにフィオレは悩んでいたが、まさか全てアンジェロの仕業だったとは。
今更知った驚愕の事実だがそこでフィオレはそれならばと気付いて顔を蒼白にしながら、
「クロヴィスもアンジェロに嫌がらせを?」
「いや、俺が興味がないのが分かったらしく、何もしてこなかった」
それはそれでフィオレは凹んでしまう。
こう見えても自身の戦闘能力は磨いてきたつもりなのだが、クロヴィスのお眼鏡にはかなわなかったらしい。
そうフィオレが心の中でいじけているとそこで、
「……その仲間にフィオレが誘った男達は、大抵フィオレ狙いで誘っているようだったからな。もっともアンジェロの事は、独占欲の強い男の醜悪さは愚かしいほどだなと俺は鼻で笑っていたが。……いざ自分の立場になると笑えないものだ」
どうやら仲間に逃げられたのも含めていじけていると思ったのかクロヴィスが、彼なりに慰めてくれているようだった。
それと同時に、フィオレは今の発言から、それほどまでにクロヴィスは陽斗を思っているのだと知る。
見ていてもそれを感じるが、言葉にするとそれを余計に感じるとフィオレは心の中で思う。
ただいまの話を聞いて、
「でもそれなら何故、今回は仲間になるのを許してくれたのか。あのアンジェロは」
「陽斗なら、襲う側になれないという直感めいたものがあったのだろう」
クロヴィスの身も蓋もない答えを聞きながらフィオレは妙に納得してしまった。
陽斗は確かにフィオレを襲う事はないだろう。
そう言った意味でもアンジェロは、陽斗はフィオレの友達にたりうると判断したのだろう。
何だかアンジェロの手のひらで踊っている気がしてちょっとだけフィオレはむっとしていたが、すぐにこの前の台詞を思いだし、アンジェロは今は大丈夫だろうかと不安が襲う。と、
「何か不安でもあるのか?」
「アンジェロが大丈夫かと」
「心配するだけ無駄だろう」
容赦のないクロヴィスの一言に、フィオレは目を瞬かせて、次におかしくなってしまう。
それもそうですねとフィオレは笑いをこらえながら答えた。
あのアンジェロがそんなへまを踏むはずがないと、一番良く知っているのはフィオレのはずなのに、珍しくフィオレは不安を覚えてしまったのだ。
そこでクロヴィスがふっと小さく笑う。
陽斗に見せていた何処か優しげな表情に似ている。
ただそこまで甘いものではなかったが、そこでクロヴィスが、
「フィオレ、その力は、古の司祭達に“神”が与えた“力の片鱗”だ。それは生命に作用する。植物を育てたり、食べ物が動き出すのも全てその影響だ」
「! 古の司祭……そのあたりの話は知りませんでした」
「……そうか」
「でもクロヴィスもその力が……いえ、何でもないです」
以前怒らせたばかりなのだ。
余計な事を調子に乗って言ってはいけないと慌てて口をつぐむフィオレだが、
「……俺の力もその古の司祭達に関係している」
「! そうなのですか」
「けれどあまりその話はしたくない。せいぜいするとしたら……陽斗とするくらいにしたい」
「そう、ですか」
どうやらその力はクロヴィスは嫌いであるらしい。
だからあれほどまでに怒ったのだろうかとフィオレが思っているとそこでクロヴィスが、
「その力がフィオレは好きか?」
「……もちろんです。ただ、他の人には気持ち悪がられるからあまり言いたく無くて。同じ力を持っている人にも僕は出会った事がないから、つい、クロヴィスが同じ力があると喜んでしまいました」
フィオレのその言葉にクロヴィスは一瞬瞳を揺らしてから瞳をつむり、
「……陽斗に話してみろ。陽斗は多分、受け入れる」
「……そうですね」
そういった受け答えをして、確かにそうだとフィオレはそう思う。
あの陽斗は、気付けば当り前のように昔からの“友達”であるかのように、フィオレと受け答えをして接している。
しかも陽斗はあの“深淵の魔族”であるライや……そしてタマも受け入れているのだ。
異常だと思うけれどここで暮らしてみてフィオレは、そう言った恐ろしいものでもきちんと感情があって会話できるものなのだと知る。
そして意外に気さくで、そして生きている人間特有の性格の悪さもある。
「ここは不思議な気がします」
「……そうだな。陽斗がいるから、か。陽斗がいるから今の状況が出来あがっている」
陽斗と名前を呟くたびにクロヴィスはとても幸せそうだ。
陽斗の前ではよく意地悪そうな顔をしているが、彼がいない場所では素直に表情に出すのだろう。
微妙に歪んでいる気もするが、アンジェロも時々フィオレがいない場所でそういった表情をしてフィオレの名前を呟いているのを見た事があったので、こういった所はとても良く似ているなとフィオレはクロヴィスを見て思った。
そこで勢いよく、家の扉が開かれた、
「クロヴィス、ちょっと一緒に来て欲しいのだけれど構わないかな!」
突如現れたウィルワードの姿に、真っ蒼になりながらその存在を見なかった事にするかのようにクロヴィスは顔をそむけたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
以前からこのウィルワードに対してクロヴィスは、色々とおかしかった。
確かにこの前巨大な何かに襲われたが、よくよく考えれ、その魔法の素晴らしさにフィオレは気づいたのだ。
緻密な魔法、その素晴らしさは尊敬に値する人物であるとフィオレは思っていた。
そこでクロヴィスが、ふうっと深呼吸をして息を吐いてから、
「ウィルワード、今日は陽斗と後で“戦闘”の依頼をこなす事になっている。悪いが一緒に行く事は出来ない。出来れば永遠に俺を誘わないで欲しい」
「酷言い草だな。折角いい事を教えてあげようかな、と思ったのに」
「ウィルワード。お前の言ういい事は、今までいい事だった試しが無い」
「そんな風に僕が思われていたとは思わなかったな。よし、ではヒントをあげよう。陽斗の気配が君は今感じられるかい?」
「……なんだと?」
「いや、魔族の気配が感じるので覗きに行ったら、陽斗らしき人が見えたからとりあえずここに立ち寄って……みたんだけれどな」
あはははと笑っているウィルワードだがフィオレはそれが信じられない。
あの一瞬、クロヴィスから今まで感じた事がない恐ろしい物を感じ取る。
だから動けずにいて、今も動けない。
すでにクロヴィスはここにはいない。
ウィルワードが全ての言葉をいう前に走って行ってしまった。とそこで、
「いやー、好きな相手だと、クロヴィスは一途だね」
「何があったのですか?」
「陽斗が“深淵の魔族”に襲われているかも、かな?」
「! たすけに行かないと」
「クロヴィスがものすごく怒っているから、近づかない方が良い。巻き込まれるかもしれないし。それにクロヴィスに気付かれないように気配を自然に消す魔法を使ってわざわざ接触しているあたりで、更にクロヴィスの神経を逆なでしているかもだし。……陽斗にはまだ知られたくない様ですからね」
「あの、一体何の話ですか?」
「君はクロヴィスが妙だとは思った事はありますか?」
「異様に強い、という意味では」
「ふむ。そこまでですか……アンジェロの方が一枚上手ですね。うっすら気付いていましたし、だからこそああなってしまい、フィオレには申し訳ない事をしてしまいました」
「……何の事ですか?」
ウィルワードの言い草にフィオレは嫌な予感を覚える。
そんなフィオレにウィルワードは、
「ぎりぎりで回収したのですが、僕にできるのはそこまででした」
一つの人形を出したかと思うとそこから煙が出て、大きな人型を作りどさりと床に落ちる。
それはフィオレにとってよく知っている人物。。
瞳を閉じたアンジェロだった。
けれど顔には細い蔓の様な物が先端を丸め、その途中地中で七枚の花弁を持つ花のような模様を浮かび上がらせている。
見た事もないそれにフィオレは、
「これは一体……アンジェロは……」
「魔法の呪いの様です。“深淵の魔族”を探っていたようなのですが、貴方の関係でそれを止めようとしていたようなのですが、やり方を少し間違えてしまったようです」
「やり方って……」
「たまたま近くにいたのでぎりぎりで僕が秘密裏に回収しました。魔法的な呪いで他の人間に感染しない分、複雑な解除が必要で解析に時間がかかるタイプの物です」
「ウィ、ウィルワードさん、何とかなりませんか、アンジェロが!」
「こんな物は僕も見た事がない……一応はこれから解析を行いますが、期待しないでください」
「僕にも何か手伝える事はありますか?」
「そうですね……まずはベッドに寝かせる所からですね」
そう呟いて二人で背負うようにして階段を上がり、あいているベッドにアンジェロを横にならせる。
そこで、とてとてと音がした。
「何だか変な気配がするにゃ。……これは」
やってきたのはぐったりとしたリリスを背に乗せたタマだったが、そんなタマにウィルワードが、
「この呪いに見覚えがありますか?」
「……解除の出来ない呪い、魔族が開発していた呪い“眠りの華”の一つ。でも何でこの人が?」
「魔族の邪魔になる事をしたようですね」
「……みんなピリピリしていて嫌なんだにゃ。あ、フィオレの前でこの会話は不味いにゃ」
「あれ? まだお話ししていなかったのですか?」
「そうなんだにゃ。薄々気づかれていただけにや。そうだにゃ、フィオレ」
タマが聞くとフィオレは頷く。
けれどそれ以上、タマには魔族関係の事はフィオレは聞かなかった。
正確には聞けなかった。
今はアンジェロについて聞くのがフィオレには精一杯で、
「それで、この呪いにかかるとどうなるんだ、タマ」
「……確か以前聞いた話だと、一輪の花になってしまうそうですにゃ。ただ痛みは少なく眠るようにそうなってしまうそうですにゃ」
「そんな……」
思わずベッドに寝かせていたアンジェロの手を握ってしまうフィオレ。
そんなフィオレにウィルワードは、
「解析を行ってみます。ただ、これはあくまでも可能性ですが……」
「何ですか、何がですか!」
可能性でいい。
アンジェロを助けるためなら、フィオレは何だってする。
そんな決意を秘めているとそこでウィルワードが、
「……もしかしたら陽斗はしっているかもしれない」
「解除できない新しい呪いなのに?」
「あの子は特別だから。ただ何処まで知っているかは僕にも分からないけれど、戻ってきたら聞いてみるといい」
「では今すぐにでも陽斗を連れてきます!」
「いえ、ここで待っていましょう。“深淵の魔族”が接触していますし」
「陽斗が彼らに連れて行かれてしまうかもしれないのでは?」
「それはありませんね……クロヴィスが凄い形相で取り戻しに行きましたし。だからそれまでここで待っていた方が行き違いになりません」
「そう、ですね。そう……僕とした事が取り乱し過ぎですね」
フィオレがそう呟くと、ウィルワードに軽くポンポンと頭を撫ぜられる。
それにほんの少し動揺が収まって、フィオレはぎゅっと先ほどよりも強くアンジェロの手を握ったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
クロヴィスは走っていた。
陽斗を奪い返すためだ。
こんな小さな油断で失いかけるとは思わなかった。
「やはり、攫って閉じ込めるか」
小さく呟いて、もう少しこれまでのような穏やかで楽しい時を過ごしたいとクロヴィスは思ってしまう。
まさか今更こんな感情が自分に浮かんでくるなんて思わなかった。
これも全部、陽斗のせいなのだ。
「だから、責任を取ってもらわないといけないな」
そう小さく笑いながら、“深淵の魔族”にもしもクロヴィスの正体を告げられていたらとぞっとする。
だがすぐに怖がる必要はないとクロヴィスは嗤い、
「もしも知ってしまったのなら、この時間は終了だ。初めから決めていたように連れさればいい」
好意を持って欲しい、そんな遊びの感覚だった。
何時だって自分の物に出来るなら……陽斗にクロヴィスを好きになって欲しい。
そのために色々と陽斗に力を与え、他にも……。
それに一緒にいたいからという理由だけでなく、自身の身を守れる力をつけさせたいと思って、“戦闘”にもよく連れて行った。
時折妙な道具を取り出していたがあれは、時間・空間に関わる物、クロヴィスと同じ力を含む、この世界では珍しいだけでなく、使える事が異常な代物だった、
クロヴィスを倒すために呼ばれただけあって同じ力を持っているのだろう。
だから即座に壊したのだ。
きっとそんな力を持っていると知られたなら、この世界での陽斗の居心地が悪くなってしまう。
だから石切り場で、服を変える、服のあった空間を転移させる“空間・時間”に関する魔法を使われた時は冷や汗が出た。
上手く陽斗は誤魔化していたが、あれはその力だ。
そしてクロヴィスの与えた力と陽斗の奇妙な融合の仕方をしているのに、当事者である陽斗は全く気付いていないのだ。
そんな理由もあって、否、理由も作ってクロヴィスは陽斗の傍にいた。
「渡さない、絶対に」
そうクロヴィスは小さく呟いて、途中の魔物を蹴散らして陽斗の元に向かう。
やがて、涙目になりかかっている陽斗と“深淵の魔族”の二人+一人を見つけたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
僕はライと途中ではぐれた。
はぐれた事にした方が話しが都合が良いのでという事でそうなって先に家に帰っているはずだった。
そして現在僕は、ルーザリオンに聞きたくない現実を突き付けられて涙目になっていた。
喜々として話す彼に僕は恨めしさが増す。
必要だから観測していたからとはいえ、こんな風にネチネチと言わなくてもいいと思うのだと僕が思っていると、
「陽斗、大丈夫か!」
「クロヴィス!」
「どうしたこんな涙目になって」
怒ったようにクロヴィスが僕に言いながら“深淵の魔族”を睨みつけるが、そんなクロヴィスに僕は、
「……ミレニアムちゃんが、結婚して子供まで出来ていちゃいちゃしている」
「……」
「それを事細かく、あそこにいる魔族がネチネチ僕に話すんだ!」
「魔族と戦ったりはしなかったのか?」
「あそこにいる魔族、ウィーゼは僕が倒したから」
「……一人で倒せたのか」
「うん、倒しちゃった。それは良いんだけれど、ミレニアムちゃんが……」
僕の代わりになるかもしれない彼女。
今は何も知らずに暮らしている。
今度子供が生まれるらしい。
それを延々とルーザリオンは僕が涙目になるのを見て喜ぶように語るのだ。
公式設定ドSは伊達ではない。
そしてその話を聞いていた僕は悲しい気持ちと共に、微妙に僕は複雑な気持ちになった。
そう、大量に貢いだ……ではなくグッズか……。
それも含めて心が折れそうだ。
あんなに夢中だったのに……そう僕が涙目になっていると、そこでクロヴィスに振り向かされて、表情を消したクロヴィスに嫌な予感を覚えるとともに顎を抑えられる。
しかも逃げられなくされたかと思うとそのまま唇を重ねられて、
「んんっ」
すぐさま唇を割られて舌を絡め取られて、今まで経験した事のないくらいに激しくされてしまう。
何で僕こんな目に! と思っている内に快感に流された頭がぼんやりとしてきて、そのまま僕は意識を失ったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
あまりにもアホな答えにクロヴィスは頭痛を覚えながら、倒れ込んだ陽斗を抱きあげてそのまま去ろうとして……立ち止まる。
そこでくるりと振り返り、陽斗の見た事のないような冷たい笑みを浮かべ、
「陽斗はお前達には渡さない」
そう一言告げて嗤い、その場を去っていく。
そしてその笑みを見たルーザリオンとクラウズは凍りついていた。
「威嚇だけであの威圧感か」
クラウズの言葉にルーザリオンが頷く。
相変わらずの恐ろしい相手だ。
彼相手に勝負を仕掛けるなど、愚かな行為なのでは……そう思っているとそこでウィーゼが小さく呻いて目を覚ます。
そしてすぐに周りを見回して、
「……まさか」
「そのまさかだ。ウィーゼ、君は一瞬にして陽斗に倒された」
「そう、ですか」
ルーザリオンのその言葉に小さく嬉しそうにウィーゼが笑う。
だがすぐに陽斗との約束についてルーザリオンに聞いてウィーゼは顔をしかめる。
「クロヴィスに感情があるから、それを切っ掛けに諦めさせるらしい」
「無駄だと思いますが」
「私はそう思う。しかも、感情がある理由の一つに……お前の恋人のウィルワードにクロヴィスが巻き込まれるのをあげていた」
「……既に僕はウィルワードの恋人ではありません。僕は彼を……捨てたのですから。いえ、その話はおいておくとして、クロヴィスが巻き込まれる?」
「そうだ、おかしいだろう? あのウィルワードは……」
「ええ、優しくて良識的で強い繊細な人ですから、クロヴィスを巻き込むなど……ルーザリオン様、どうかされましたか?」
「……いや、なんでもない。気にしないでくれ」
そう誤魔化したルーザリオンだが、彼は気付いてしまった。
ウィーゼの目に映るウィルワードは確かにそんなウィルワードで、案外ウィーゼの言うことを聞いていたし良識的だった気がする。
それがクロヴィスに当てはまるかは分からないが、
「期限は決まっている」
小さくルーザリオンは、それまでにうまくいくならそれに越したことはないと、先ほどのクロヴィスが放った威圧感に体を震わせたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
ゆさゆさゆさゆさ。
肩を揺らされて僕、はもうちょっとと答えた。
何かやけに気持ちが良い気がするのだ。
けれどその僕を揺り動かす力は更に激しくなって、同時に誰かに椅子に座らせられた気がする。
それと同時に誰かが離れて行って、それはそれで何となく……そう思っているのに更に僕は強く揺さぶられて眉を寄せる。
僕の名前を呼ぶ声が聞こえる気がする。
もうちょっと静かにしてよ、と僕が思っているとそこで揺さぶられるのが収まる。
このまままたゆっくり気持ちよく眠ってしまおうと思った所で、声が聞こえた。
「……スライムに襲わせるか」
「スライムは嫌!」
ぴくんと体が震えて僕の意識が危機に対して即座に覚醒した。
僕の目の前には、見覚えのある場所が広がっている。
つまり僕の家だ。
何時も食事をする場所という、とても良く知っている場所。
「あれ? 何で僕、自分の家に帰ってきたんだっけ?」
「途中で陽斗が僕からはぐれちゃって、クロヴィスが迎えに行ったらしいよ?」
「そう……だっけ?」
そこでほんの少し残っていたぼんやり感が完全に抜ける。
そう、僕は“深淵の魔族”と接触をして約束をしたのだ。
クロヴィスも含めて皆が好きだからその選択をして……。
と、僕の肩を誰かが叩いた。
振り返るとそこにはフィオレがいて、思いつめたような表情で、
「“眠りの華”という魔族の呪いについて陽斗はしっているか?」
「知っているけれど、何かあったの?」
その呪いは、魔物によって偶然アンジェロにもたらされるはずだった。
まだもう少し先の出来事なので、クロヴィスの件の期限よりは先になるだろうと僕は思っていた。
でもその名前が出てきたという事は、
「誰かがそれにかかったの?」
「アンジェロが、“深淵の魔族”にそれをかけられたらしい。……僕の関係で何かをしていてそれで……」
それを聞いて僕は、先ほど話していた“深淵の魔族”の事が思い浮かぶ。
確か、“羽虫”がどうのと言っていたのだ。
まさかフィオレを救うためにアンジェロが何かをして、返り討ちにあったのだろうか。と、
「陽斗、この呪いを解く方法を知らないか?」
「知ってる」
「! 早く解いてくれ! アンジェロが……」
「ただ材料が全部僕も持ってないから、とりあえず手持ちの物だけ使って、幾つか解除するね」
特別なイベントアイテムの材料はゲーム内では一個しか手に入らず、しかもそのゲーム内でのアンジェロの解呪で消費しているので持っていないが、今手元にあるのは二つ。
一つは新緑を落としたと呼ばれる森の宝石“初夏の宝石”である。
“惑う幻惑の森”と呼ばれる“上弦の森”と繋がった、普通では辿り着けない奇妙な森で、クロヴィスの別荘があったりするのだがそれは置いておくとして、他にも色々使える特殊な材料なので予備が二つほどあった。
本当は一つ見つけるだけでも難しい物だったのだけれど、何だかよく分からないけれど運よく幾つも見つかったのだ。
なのでそれを使ってと僕が思っていると、フィオレが驚いた顔をして、
「幾つかって……そんな呪いなのか?」
「うん、そうだよ。その解呪するための装置もあるし、とりあえず二つ解除できる。そこまですると、意識は回復するよ」
「そう……なのか。良かった……それで残りの材料は?」
「あと三つ必要だけれど、二つは南の砂漠。一つは山のふもとで、今あの空飛ぶ国が停泊している山の傍の一角でとれるんだ。とりあえず、実際にどのあたりに停泊しているのかだけ確認して、一度家に戻ってきてアンジェロと治療、その後にあの空飛ぶ島に人形を返しに行こう」
大まかに日数を計算しても、最短で数日で行き来できる。
“深淵の魔族”との約束の期限に、あの空飛ぶ国に行っても十分余裕がある。
そう僕が思っているとそこでフィオレが僕の手を握り、
「早くアンジェロの治療を始めてくれ」
「ま、待って。この前の温泉街で手に入れたあの花が必要だからそれを持っていかないと!」
そう答えてこの前まいた種が成長した小さな花の一つを、僕は手折ったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
ベッドに横になっているアンジェロ。
布団をどけて、そのお腹の上にお王冠のような装置を乗せる。
その空洞化した中心の部分にその花と、“初夏の宝石”を入れて、以前行った魔法を選択画面から選択して、ポンと押す。
口から言葉が紡がれて、王冠の周りに光の輪が二重に描かれて、その内円上に光の大きめの粒が五つ、円に対して等間隔に五つほど浮かぶ。
その光の粒から線上の白い光が放たれて別の粒に繋がる。
星マークの様な方とが表示されるも、すぐにその内の二つが緑色とピンク色に輝くと共に消える。
同時にさらさらと内部に置いた花と宝石が砂の様に崩れ落ち、残った光の粒同士が結び三角形を描き出してからふっと消える。
これで一応は途中まで解除しているはずだと思って僕が道具を片づけて、フィオレが不安そうにアンジェロの手を握りながら顔を覗きこんでいると、
「……うう」
「アンジェロ!」
「……フィオレ?」
うっすらと開いた瞳でフィオレを見て、不思議そうにかすれた声でアンジェロはフィオレを呼ぶ。
それにフィオレは嬉しさに涙を浮かべながら、
「そうだ、良かった……意識が戻って」
「……私は、確か……そう、“深淵の魔族”に触れる事も出来ず……」
「アンジェロが無事ならそれでいい。僕にはそれが全てだ」
「フィオレ、私は……」
「解呪には、まだ必要な物があって、まだ動ける状態じゃないんだろう? 陽斗」
フィオレに問われて僕は頷く。
完全に呪いを解かないと動く事もままならないはずなのだ。
そこでフィオレはぎゅっとアンジェロの手を握って、
「いつも助けられてばかりだったから、今回は僕がアンジェロを助ける。だから大人しく養生していろ」
「……そう、ですね」
そこでどうにかというように首を動かして、アンジェロが僕を見た。
何かいいたそうに見えたけれど、口にした言葉は、
「フィオレをよろしくお願いします」
フィオレの心配であったらしい。
本当にアンジェロにとってフィオレはとても大切な人なのだと実感しながら僕は頷いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
フィオレはアンジェロと二人っきりにさせた。
何となく邪魔してはいけないような雰囲気だったから僕はその部屋を出て下に降りて行くと、そこにクロヴィスがいない。
なのでライと談笑していたウィルワードに、
「クロヴィスは何処に?」
「戦闘の依頼でアンジェロの件を片付けていると期限が来てしまう戦闘関連の依頼をこなしに行きました。あのあたり、触手が一杯いるのでいかずに済んで良かったですね」
「……そうなんですか」
何という場所に連れて行く気だったんだと僕が思っているとそこでウィルワードが、
「ウィーゼの事はありがとうございます。それも含めて少しお話ししませんか? クロヴィスも今はいませんし」
何か腹に一物ある様な笑みでウィルワードは僕にそう告げたのだった。




