危機的な状況
ライは、タマとリリスと一緒に歩いていた。
途中、喉が渇いたのでヤシの実を2つと、この辺りのサボテンの花からとれる“鱗花の蜜”を少量購入して飲みながら歩いて行く。
食べ物は変わったものがあって美味しそう。
“爆発スイカ”も売っていて切られて売られていたが、ここの砂漠のものは甘くない品種だと以前聞いていたので避ける。
そうやって探して行くも見つからない。
なので先ほどからリリスを頭の上に乗せて楽しそうに歩くタマを見ながらライは、
「タマ様も探してください。陽斗には色々良い物を探して来てあげていたんでしょう?」
「みゅ~、確かに僕は“運”がいいのは認めるのですが、魔力の濃密な波長などを感じ取って取ってきている部分もあるのですにゃ」
「ではそういった気配はどこから感じますか?」
「そうだにゃ~、あそこの闘技場のような場所? にそれを感じるにゃ?」
確かにこのオアシス都市にはそこまで大きくないが円形の闘技場のようなものが少し離れた所に見える。
それを見ながらライは、
「あそこまで行くのもちょっと遠くて面倒そうですね。でも仕方がない、確認してきますか」
「……何だかんだ言って、ライはお人好しですにゃ」
「まあ、フィオレも一緒にいると楽しいしね。あれ?」
そこでライはその闘技場に向かっていく最中、細い路地に入った所で壁にはられた紙に気づく。
3枚ほど同じ紙がはられているのにライは気づいた。
折角なので一枚壁から引き剥がしてそれを読みながら細い路地を行き、ライは闘技場に向かう。
「ふーん、踊りのコンテストか」
描かれているのは、薄い布をまとってアクセサリーをつけて踊る男性の姿だ。
じっとそれを見ていたライ。
「今日の夜なんだ。……これ、でたら賞金がもらえるのかな」
「……ライ、まじめに探すにゃ」
「でもお金は大事だし踊って歌える僕なら、トップを狙っても……あれ?」
「どうしたにゃ?」
そこでライはある項目の所で目を留める。
コンテストの賞品と描かれたそこには、
「“紫の砂漠の薔薇”だって。それも3つも。これは出るに越したことはないね」
「砂漠に出て地道に探す訳にはいかないのにゃ?」
「貴重なもののようだから、これに出るのも選択肢の一つとしてはいいんじゃないかな?」
「にゃ~ん。リリスもでてみるにゃ?」
さり気なく誘うタマに、リリスが頭の上でパンチを繰り出してぽこぽこ丸の頭を叩いていたのはいいとして。
そこでライは歩く足を止めた。
前方や後方の路地に、ちらりと見える顔を隠すように布をかぶった男たち。
自然とライの口に笑みが浮かぶ。
一体誰を狙って待ち伏せし、そしてつけていたのだろうと。
普通の人間に擬態をしているとはいえ、こう見えてもライは“深淵の魔族”の一人である。
しかも一緒にいる“猫”は、“深淵の魔族”の中でも“貴族”と言われる力の強い種族。
それに対して、ロープを用意しているのだからライ達を捕らえる予定なのだろう
身の程知らずが……そう小さく笑って、ライは魔法を使おうとした所で、後ろからライは誰かに抱きしめられた。
「残念だけれど、この子は僕が先約しているから諦めてくれないかな?」
優しげな声を聞きながら、ライの口がへの字に曲がる。
せっかく気分よく倒してやろうと思った所で、それを潰された挙句、会いたくもない人物に遭遇してしまったのである。
というよりは何故ここにいるとライは思いながら、
「フェンリル王子、どうしてこちらに?」
「ん? ちょっと用があってね。それで、君たちは諦めてくれると嬉しいな」
そう告げるフェンリル王子に、ライを狙っていたらしい彼らはいなくなる。
とりあえずは、迷惑以外の何物でもなく、この前の温泉街でのことも含めて会いたくもなかった人物であるものの、助けてくれたらしいことはライにもわかったので、
「助けていただきありがとうございました。ですが僕も探しているものがありますのでこの辺で放していただけないでしょうか?」
「けれど闘技場の方に行くのだろう? そして賞品の、“紫の砂漠の薔薇”が必要なんだろう?」
「……独り言は言うものではありませんね」
自分の失態にうんざりとするように呟くライに、耳元でフェンリルが囁いた。
「それでコンテストには出る気があるのかな?」
「……賞品は砂漠で手軽に出るものであるなら、そちらに行きたいかな。特に、貴方が期待に満ちた声で僕にささやいてきますので」
「ほとんどでないから彼らも君のような美少年を捕まえようとしているのだと思うのだけれどね?」
「そんなに貴重なのですか?」
「そうだよ? 賞金なんて目じゃないくらいにね?」
陽斗たちに伝えて今後どうするかを話し合う必要がありそうだなとライが思っていると、
「もし僕と一緒に来るなら、衣装から何から全て揃えて出場させてあげるよ?」
フェンリルの言葉に、ライはフェンリルの腕から逃げようとする。だって、
「どうせ貴方好みの格好をさせる気でしょう?」
「もちろん。それに何の問題があるのかな?」
「……陽斗達と相談させてください。他にも出る人がいそうですから」
「へぇ、そんなにあの商品が必要なのかな?」
「フィオレの恋人が呪いをかけられて、その解呪に必要な材料なんです」
特に隠しておくこともないだろうと思ってそう告げるとフェンリルが後ろで沈黙した。
嫌な沈黙だとライが機嫌を悪くしているとそこで、
「なるほど、ライは随分と友達思いなんだね」
「……え?」
自分では気づいていなかったそれを聞かされて、けれどここに来たのは陽斗の監視のためで、だったらここまで真面目に闘技場まで見に行こうとする必要もなくて……ライは気づいていなかった心情の変化に困惑する。と、
「いや、そうか。でも、そうなってきた君もますます好みだね」
「……早く嫌いになってください」
ライはそう、フェンリルに言い返すことしか出来なかったのだった。
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ウィルワードとフィオレは一緒に襲ってきた人間たちを倒していた。
ウィルワードは一斉に人形を使って攻撃し、即座に全員倒してしまう。
けれど何度も襲われるので、一人意識がなくならない程度に叩きのめしてからウィルワードは、
「どうして襲ってきたのか、教えていただけますか?」
と脅して、聞き出すと……どうやら狙いはフィオレらしい。
先ほどまでウィルワードの戦闘能力に目を輝かせていたフィオレは、目を瞬かせた。
「僕が、ですか?」
「うん、何でも踊りのコンテストには美形の少年がいいそうで、それでまだ登録していなさそうな少年を狙ったらしいね」
「……なんですかその踊りのコンテストって」
フィオレが嘆息しながら、ウィルワードが指差す。
側の木の棒には一枚の紙がはられていた。
くだらないと思ってみたフィオレは、次の瞬間その紙の前に走りより、見間違えではないのかというかのように大きく目を見開いてそれを見る。
フィオレの目が真っ先に釘付けになったのは、賞品だった。
「! これがあれば」
それを覗きこんだウィルワードが、おや? と呟き、
「うん、大勝利だね。どうする? 一回集まったほうがいいかな? クロヴィス達がいるから大丈夫そうだとはいえ、この調子だと陽斗達も襲われていそうだけれど」
「……貴重な材料なら、探すよりもこれに出たほうがはやいか?」
「それは分かりませんが、フィオレも美人ですから出てみるのも手かもしれませんね。2位の子でも一つは手に入るみたいですし」
「一つでも手に入れば十分だ。よし、僕は、アンジェロのために……恥ずかしいが、挑戦する!」
「そうそう、それがいいですよ~」
人事のようにウィルワードが、やる気になっているフィオレに相槌を打ったのだった。
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一時間後、予定の場所に集まった僕達だけれど。
そこにどうしてかウィルワードがいなかった。
ちょっと気になる事があったので先に戻っていてくれとフィオレは言われて、ここに先に戻ってきたらしい。
そしてフィオレから、フィオレ達も襲われたような話を聞いて僕は、
「フィオレとライも襲われたんだ」
「ああ、僕が美少年だから出したいと思うのは当然だけれど、あの方法はないと思う」
フィオレがそう言い切ったので、そうですねと適当に僕は答えた。
僕の場合は、クロヴィスが何故か全員叩きのめしてくれたのだけれど。
戦闘なのに僕に戦わせないのは珍しいなと思っていた。
そしてその後二回ほど襲われてクロヴィスがその理由を一人に問い詰めた結果、理由は分かった。
クロヴィスに出てみるかと聞かれたけれど、今は材料を探すのが先決だと僕は上手く断ったのだ。
そして今に至るのだけれど、フィオレと話していてそこで僕はひとつ気になる事があったので、フィオレに聞いてみた。
「フィオレ、その手に持っている紙は何なのかな」
「ああ、踊りのコンテストがあるらしいから」
「……まるでフィオレが出ると言っているように聞こえるんですが」
「何を言っている。陽斗も出るんだ」
あたりまえだと言わんばかりに、フィオレがそう僕に告げた。
けれど僕はフィオレの紙に描かれたアレな姿の踊り子の姿に絶望しながら、
「お、横暴だ! な、何で僕まで……」
「少しでも賞品を手に入れる可能性を増やしたいからな。陽斗はこう見えても可愛いし」
「いやいやいや、賞品て……賞品?」
あれっと思って僕が繰り返すとフィオレが紙を僕に見せてきて指をさす。
そこには賞品として、“紫の砂漠の薔薇”と書かれている。つまり、
「これを手に入れれば材料は全部揃う?」
「全部?」
「う、うん、もう一つはさっき太鼓をあげたら、“砂漠人形”がくれたんだ」
そこでフィオレが僕の肩を掴んで、
「よくやった、陽斗。よし、この調子で次はコンテストに出るぞ!」
「い、嫌だよ、そんな格好なんて恥ずかしいし!」
「でも僕とライもやるんだから、一緒にやろう!」
「え? ライも出るの?」
妙に協力的だなと僕が思っていると、先ほど歩いている時に合流したらしいフェンリルが、
「友人のフィオレのためだから少しくらいはいいそうだよ」
「ライ、ありがとう! それにひきかえ陽斗は……」
フィオレが冷たい目で僕を見ている。
この薄情者と言うかのような責める視線に僕はクロヴィスの後ろに隠れようとしたが、何故か襟首を掴まれてクロヴィスの前に向かい合うように立たされて、
「折角だから出てこい」
「な、なんで……」
「温泉街で俺に肩を流させなかった仕返しだ」
「そんな!」
「嫌がろうが服を?いて着せればいいだけだから、諦めろ」
クロヴィスが僕を裏切った。
でも僕はあんな格好で踊りたくなんてない。
そこではっと僕は閃いた。
「さ、砂漠で材料を見つけられたらでなくていいんだよね?」
今から砂漠に出て調べれば見つけられると僕は思った。
確かフィオレの能力がわかった後でのイベントで、育てると呪われて猫耳が生える植物があったといったどうでもいい情報が焦る僕の頭を駆け巡るが、今は関係ない。
けれどそんな必死になってそれから逃れようとする僕にフィオレが、
「登録の時間が迫っているから、陽斗、諦めろ」
「ふ、服とかはどうするんですか!」
「安心しろ、ライの恋人のフェンリルが全て用意してくれている」
ライが恋人じゃないと小さくブツブツ文句を言っていたが、追い詰められているフィオレの目を見ていて僕は、
「う、うう……今回だけだからね」
「さすが親友! よし、じゃあ早速、登録しに行くぞ!」
そう言ってフィオレが元気一杯に手を上げたのだった。
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ウィルワードは気配を追って、細い路地を抜けていく。
「確かこの辺りだった気がしましたが、見間違いでしょうか」
「……見間違いではないでしょうね」
通りすぎようとした細い路地を更に入り込んだ場所から、ウィルワードの目的の人影が現れる。
それにウィルワードは微笑み、
「ウィーゼ、久しぶりです」
「少し前に会ったばかりでしょう。大体……」
そこでウィーゼは言葉を切り、花がほころぶように微笑み、
「ウィルワード、僕は貴方を捨てたんですよ?」
「捨てられても僕が好きでいるのは構わないでしょう?」
「……新しい恋人を見つければよかったのに」
「……そういった無理難題をウィーゼが言うから、僕は引きこもって冬眠する羽目になるんですよ?」
「そういえばそうでしたね」
クスクス笑うウィーゼをウィルワードは近づき、そのまま抱きしめる。
ウィーゼも大人しく抱きしめられている。
しばらく抱きしめられていたウィーゼがウィルワードの腕の中で、
「……また会えて良かった」
「……僕も昔と同じウィーゼに会えて良かったです。あれはウィーゼの体に負荷がかかり過ぎますから」
「でも僕はまた、あの魔法を使おうと考えています」
「陽斗との期限までは待てませんか?」
はっとしたようにウィーゼがウィルワードを見上げる。
優しげなほほ笑みを浮かべたウィルワードが、ウィーゼの額に軽く口付けをしてから、
「この前の出来事は、人形を通して全部見ていましたから」
「全く油断も隙もないですね。でも、全然気づきませんでした」
「日々改良を加えたものですからね。もっとも、三年のブランクがあるのでその間に魔法が進歩してしまえば気づかれてしまいますが、まだまだ大丈夫だったようですね」
「あまり悪さをすると……取り返しの付かないことになりますよ?」
「例えばどんな?」
「そうですね……貴方を連れ去って、僕だけのものにしてしまうとか?」
クスクスと笑うウィーゼはウィルワードは更に優しげな表情になり、
「僕に会いたかったですか? 僕が眠っている間」
「そう……ですね。何度も見に行ってしまいましたからね。未練がましく」
「では、これを機によりを戻してもらえると嬉しいかな?」
「……駄目です。また貴方はあそこで、一人で眠ることになるかもしれませんし」
「陽斗がクロヴィスを止めてくれるから大丈夫ですよ」
それを聞いたウィーぜが沈黙して、それから、
「本当にそれは可能だと思いますか? 確かに僕が見ていてもあの二人はとても仲が良さそうですが……」
「ええ、もちろん。だからウィーゼも安心していればいい」
「……ウィルワード、貴方が言うのであればそうなのでしょうね。僕はあのクロヴィスと、陽斗に出会う前から何度も会っていますが、未だに信じられない」
「僕も陽斗にあう前も、会った後もどちらも知っているからこそ、大丈夫だと、陽斗を信じられるのです」
黙ってしまうウィーゼ。
クロヴィスは実は誤解されがちなんだよなと、ウィルワードは無理やり押し付けた親友の称号がゆえに思う。
そこでウィーゼが可笑しそうに笑って、
「そういえば貴方のことを真面目な人だというと、ルーザリオン様に微妙な顔をされるのですが何故でしょう」
「ははは、ウィーゼの前では僕は、とても“いい子”だからね」
「他の人の前では“悪い子”なのですか?」
「好奇心旺盛なだけさ」
冗談めかして答えるウィルワードにウィーぜが小さく笑ってから、そのまま自分からキスをする。
そのキスはすぐに離れるが、名残惜しそうにウィーゼはウィルワードを見て、
「また会いましょう、ウィルワード」
「ええ、また。……ウィーゼは陽斗たちを監視していますしね」
「そうですね」
「たまには一緒に食事でもどうですか?」
「……そのうちに」
そう答えて、ウィーゼはその場から姿を消したのだった。
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フェンリル王子が用意してくれた客室。
そこに今晩は泊まってもいいらしい。
そしてここで衣装に着替えるとの事だったけれど、
僕は、目の前に現れたその絶望を覚える様なそれに涙目になった。
それぞれにあった服そうだと言って、ライにフェンリルが進めたのは青を基調とした物、フィオレは緑色が自分にあっていると言って緑を基調とした物を選んでいた。
そして僕にクロヴィスがすすめたのは……ピンク色だ。
「どうして僕がこんなピンク色……」
「陽斗には似合うと俺は断言する」
楽しそうに言うクロヴィスを恨めしそうに見上げながら、僕は目の前の衣装に目を落とした。
細い金色の糸で刺繍が施され、金色の鎖には所々に歯車のようなモチーフの金細工や宝石が彩られてキラキラと明かりの光を反射している。
非常に綺麗で、高価なものなのかなとおもわさせられる物もある。
特に細い金属性の腕輪は複数本腕に付け、頭に飾る花飾りには宝石がちりばめられている。
どれもが高級品であり、女の子がきていて踊るならば僕も手放しで喜んだだろうけれど、着るのは僕なのだ。こんな、
「紐みたいな衣装、着たくない」
僕が愚痴るとクロヴィスが、
「もうフィオレもライもきているぞ?」
「これは着るじゃない! つけるだ! ……やっぱり僕、出場取りやめする」
「いいからつけろ。俺の命令だ」
「……やっぱり逃げてやるぅうう」
僕は逃走しようとした。
だが即座にクロヴィスに手頸を掴まれて後ろから抱きしめられる様にして、
「それで、俺に逆らうのか?」
「さ、逆らうも何も……だってこんな服、嫌だし」
「でも俺は見たいから駄目だ」
「横暴だ! うぐっ、戦闘に僕を連れだすみたいに凄く嬉しそうな顔をしている。……クロヴィスらしいと思うけれど」
クロヴィスは、僕が嫌がる事でも戦闘といったクロヴィスが“楽しい”と思う事は僕が涙目になってもするのだ。
よくよく考えると、スライムや触手に襲われても助けるのがちょっと遅かったし!
そこで後ろからクロヴィスが、何処か不思議そうな声音で、
「俺らしいってどんなだ?」
「優しいけれど、意地悪なんだ。僕にこんな物を着せようとしてくる。でも友達思いな所もある?」
「……最後は聞かなかった事にしておこう。そう、だな。陽斗には優しくしていたからな」
「? こうやって、アンジェロを癒すお手伝いにも一緒についてきてくれているし、優しいんじゃないのかな?」
「……」
「クロヴィスって、俺様イケメンみたいに崇拝されているけれど、結構、傲慢という意味では無くて感情豊かだと思う」
「……」
クロヴィスが沈黙してしまった。
僕は変な事を言ってしまったかなと僕が思っていると、クロヴィスが深く息を吐いて、
「……陽斗が普段俺をどう思っているのか分かった。それで、その服を引き裂かれたくなかったら大人しくきろ」
「! 僕、クロヴィスが気に入らない事をいったかな?」
「いや、嬉しくなった。だから着ろ」
「! ちょ、それって不条理、タマ、リリス、助けて……」
僕は一番のペットと杖に助けを求めた。
すると二人はいい笑顔で僕の方を見て、
「「にゃーん」」
「にゃーんじゃなくて! そもそもリリスは猫じゃなくて、杖だし! あ、ウィルワードさん」
そこでウィルワードがやってきたので僕は彼にも助けを求めたのだけれど、
「陽斗なら似合いそうなのでいいと思いますよ?」
「そんな!」
「今日ほどお前を親友だと思った事はない、ウィルワード」
クロヴィスが嘆く僕を尻目に、よくやったというかのようにウィルワードをほめたたえる。
やはりクロヴィスの親友を名乗るだけあって、彼も僕の“敵”であったようだ。
そう思ってそろりと逃げ出そうとした所で僕はクロヴィスに襟首を掴まれ、
「どうやら俺がじきじきに手伝ってやらないといけないようだな」
「ひ、ひぃ、や、やだぁあああ」
悲鳴を上げている内に僕はいとも容易に服を脱がされてしまう。
一応抵抗しているはずなのに抵抗は無意味ともいえる速度で服を脱がされてそして……衣装という名の紐をつけられてしまう。
しかも髪飾りやら、ペンダントやら、耳飾りやら……次々と手際よく僕につけていく。
そして全てを付け終えたクロヴィスは、ひと仕事を終えたとでもいうかのような爽やかな頬笑みで、
「陽斗、似合っているぞ」
「こんな物にあってたまるか! ……フィオレ、ありがとう」
そこで僕はフィオレに透明な液体を差し出され、とりあえずそれを一口。
僕の意識はそこで、ぷつんと切れてしまったのだった。
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僕は、はっと目を覚ました。
何故か椅子に座らせられていて、目の前には心配そうにのぞきこむフィオレと、機嫌の良さそうなクロヴィスが瞳に映る。
「あれ? コンテストは?」
変だなと思って僕がフィオレに聞くと、
「コンテストは終わった」
「え? 僕記憶がない……」
「陽斗が1位、僕とライが同時票で2位だった」
「! なんで!?」
フィオレは更に僕から視線をそらしながら、
「陽斗にお酒を飲ませたんだ。そうしたら……いや何でもない」
「な、何があったんですか!」
「仕方がなかったんだ、仕方がなかったんだよ!」
「ぼ、僕は一体何をしたんですか!?」
そこでフィオレはふうとおおきく溜息をついて、
「他の男に言い寄られた時、『僕の恋人はクロヴィスだけ』って言っていたから」
「……」
「しかも抱きつくよな感じでクロヴィスを誘惑するように体を密着して見せつけていた」
「……嘘だ」
「嘘じゃない。というかお酒を飲ませるとこんな子供っぽい陽斗があんな妖艶になるなんて」
「いや、妖艶って、え?」
「まあ、お酒を飲むのはクロヴィスの前だけにしておいた方が良い。うん」
本当に僕は何をしていたんですかと、僕はフィオレから聞き出そうとするけれど、フィオレはかたくなに話そうとしない。
ウィルワードも、リリスもタマも、傍にいた全員に聞いても答えてもらえない。
本当に僕は何をやっていたのですか!? と僕が思っているけれど、そこでクロヴィスが僕の傍にやってきて、
「俺の秘密を知っていると騒いでいたぞ?」
「え?」
「でも、本当のクロヴィスを知っているのは僕だけなんだと、俺を誘惑して来たぞ?」
「え? いや、あの……」
「酔っ払いの戯言だが……俺を見ていてくれている様な気がして何となく嬉しかった」
そう言って珍しく素直に微笑み僕に告げるクロヴィス。
僕は唐突に気付いた。
クロヴィスは、“神”であることを隠しているのは、僕が“神”としてではなく、クロヴィスとして見て、クロヴィスとして好きになって欲しいのではないのか?
だからずっとこんな風に隠して、線引きしてくれているのだろうか。
そう僕が考えているとそこで、
「だが、あんな風に誘ってくるとは……」
「そ、それは僕、記憶にないんだってば! そ、そうだ、そういえばライ達は?」
「……陽斗が起きたら訪ねて来てくれと、今隣の部屋にいるぞ」
僕が違う話しに持っていこうとしたのが気に入らないのか、すこし機嫌を悪くしたクロヴィスがそう答えたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
とりあえず、服だけは僕は着替えた。
だっていつまでもあんな格好でいるのは嫌だったし。
それに何となく、そう、何となくだけれどクロヴィスの視線が気になったので着替えてしまったのだ。
何処かしょんぼりしている様なクロヴィスの様子を気付かなかったふりをして、ライ達のいるらしき部屋を僕は訪ねる事にする。
軽く二回ほど扉を叩いてからドアを開けると、丁度、ライがあのコンテストに出る恰好のままフェンリルに押し倒された所だった。
長く細いライの生足の間にフェンリルが覆いかぶさるように入り込み、抵抗する腕をベッドに縫いとめてそのままキスをしようとしているという状況。
ただライもそこまで嫌がっているわけではなく、何処か物欲しそうに頬を染めている辺りまた……というのを目撃して瞬時に状況を理解した僕は、
「えっと……ごゆっくり」
空気を読んでそっと扉を閉めた。
これではしばらく中に入れないなと思っていると中で、放せ、んんっ、といった様なじたばたする音が聞こえて、やがて静かになってから部屋のドアが開いた。
「お待たせしてしまって申し訳ない。……しかし、そんな素振りを見せない陽斗があんな情熱的な行動を見せつけてくるとは思わなかったな。おかげで僕もあてられてしまって、ライに襲いかかろうとしてしまったよ」
「……襲いかかったくせに」
楽しそうなフェンリルの後ろでぽつりと恨めしそうなライの声が聞こえた。
けれどそこでくるりと振り返ったフェンリルが、
「つまり、もう少し先に進んでもいいということかな?」
「! ち、違う、この……嬉しそうに僕の腰に手を伸ばすな!」
僕はそっと再び扉を閉めようとした所で、ごすっと鈍い音がしてフェンリルがうずくまった。
どうやらライが腰のあたりに肘鉄を喰らわせたらしい。
そこでライが怒ったように一人で僕の方に来て、
「フェンリルは陽斗と二人きりで少し話したい事があるらしい」
「? 僕と、ですか?」
何かこの人と話す事があったのかなと僕が首をかしげていると、そこでクロヴィスが、
「何の話をする気だ?」
「いえ、“深淵の魔族”と接触したそうなので、少しお話を聞きたいかなと」
「……そうか。間違っても陽斗に手を出そうとするなよ?」
「しませんよ。僕が手を出したい相手はそこの部屋の隅で僕を威嚇していますし」
フェンリルが指差す先を僕が見ると、確かに部屋の隅でライが半眼でフェンリルを見ている。
そこで執事の様な男性がやってきてお食事ですと僕達に告げる。
それを聞いたフェンリルが、
「丁度食事の時間の様ですから、皆さん先に行っていて下さい」
そう促したフェンリルに、クロヴィスは何か言いたそうな顔をして、
「……余計な事を陽斗に言ったなら許さない」
「……心得ております」
フェンリルはそう答えたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
部屋に二人っきりなって、フェンリルを僕は見上げた。
異国の王子設定でゲーム内ではチョロっと設定が出てきたくらいの人物だ。
物腰柔らかな感じだが、ライとの関係について色々と思わされるところがあるので僕が警戒をしていると、
「……君には手出しするつもりもないよ? 安心するといい」
「それは分かっています。……ライにあれだけああなわけですし」
「なるほど。……それで君を呼んだのは、異世界から呼び出したという君についての話だ」
「この前接触した“深淵の魔族”関連ではなく?」
ぎゅっとリリスの杖を握って僕が警戒するようにフェンリルを見上げると、フェンリルは苦笑をして、
「それは口実だよ。そもそも……“深淵の魔族”の上層部と、我々人間側の上層部は裏で繋がっているからね」
「そう、なのですか。だとしたら、フィオレがあんな目に遭うのも全部知っていると?」
「選択肢の一つとしては、仕方がないと思っている。ただ、今がその前段階だ。そもそも君が呼ばれたのは、クロヴィスと戦うためだったからね」
「……初めて会った時から知っていたのですか?」
偶然依頼を受けたあの時から、全部という意味で問いかけると、フェンリルは首を振り、
「あの依頼は本当に偶然だった。そしてセイレーンのライの事も。まさか君の所にいるとは思わなかった。僕達はただ、クロヴィスの様子を少し見ようという話になって、そのついでにセイレーンのライを攫おうかと考えていた所だ」
「……」
「もっとも君の所にいたのもあって手出しできなかったしそれに、ライも楽しそうだったからね。それを見ていたら、僕の気持も頑張ればライに通じるのではと思ってしまったよ」
「ライは感情豊かですよ、意外に性格が悪い所もあるし」
「そんなライは僕も見た事がなかった。でも君の前では違うようだね」
初めて会った時の印象と今では、ライへの印象は異なる気がしないでもない。
でもそれは、フィオレだってそうで、
「……きっと僕を“友達”だと思ってくれているから、そんな風に違うんだと思います。フィオレだって初めて会った時の印象はもっとツンツンしていたけれど、今は優しかったり弱かったり、抜けていたりする部分も全部僕は知っています」
「信頼できる“友達”だと君は認識されているのだろう。……君は不思議な子だね。あのクロヴィスさえも落とすのだから、それぐらいの事は出来ても不思議ではないのかな?」
「別に、それを狙ってやっているわけではないです」
「そうだね……何だか君と話していると、本当にクロヴィスを説得してしまいそうな気持ちになるね」
「せひ期待していて下さい」
僕が軽口をたたくように言い返すと、フェンリルは笑った。
実際にそういった結果を見せつけてやるつもりなのだ。
あれだけ散々、ミレニアムちゃんのいちゃいちゃ生活を、ネチネチと言いやがったあの公式ドSを絶対に許さない、絶対にだ。
そう心の中で僕が思っているとそこでフェンリルが、
「しかし、呼び出した君やクロヴィスも、我々側でも観測をしていたんだよ?」
「……そうですか」
この前の“深淵の魔族”の話で十分に慣れてしまったのでそこまで驚きはなかった僕だが、
「君が失敗して炎の塊を海を越えるほどに飛ばしていったのも知っている」
「……あれ、結局どこまで飛んでいったのですか?」
失敗したあの焔の魔法。
他にも目撃者がいるようではあったのだけれどそこでフェンリルは頬笑み、
「海の向こうの母国ですでに確認されている。その魔法から君の魔力量の推定が行われた。……“深淵の魔族”達にはまだ話していないがね」
「どうしてですか?」
「完全に彼らを我々は信用していないし、彼らもまた我々を信用していないのだよ」
疲れる関係だなと僕は思いながら、
「でも人間側と裏で、随分情報交換が進んでいるのですね。てっきり、あの空飛ぶ国だけだと思っていました」
「随分良く知っているね。やはりこの世界の秘密に関する話は大体君は知っているのか……」
「はい、一通りは」
「でもだとすると、石板が“深淵の魔族”の手にあるのは不思議に感じなかったかな? あれは僕達側の物だから」
「僕の知っている話では、そういった情報はありませんでしたから」
ゲーム内では、単に特別な石板を知らず知らずのうちに集めていただけだったのだ。
でもそれを、ゲーム内の“クロヴィス”もすすめていた。
ゲーム内でも、そういえば、彼自身を見て欲しいと言っていたような……。
そんな事を考えているとフェンリルが、大体の事情は“深淵の魔族”から聞いているかのような口ぶりで、
「そうなのか、そこは君の知っている知識と、この世界の差異のようだね、なるほど」
やはり話は伝わっているようだと僕は思いながら、そこである違和感に気付いた。
「でも今の話では、人間側から僕に石板が提供された様に聞こえます」
「正確には人間から魔族側に、だね。随分昔に集められて僕の国の博物館に飾られていたのだけれど、おかげで今は複製物レプリカを飾らないといけなくなってしまった」
「魔族はわざと僕にそれを集めさせていたようですが?」
「そうだよ。そして僕達も観測していた。君が石板に触れて何かが起こるかも知れなかったからね。結果は何も起こらなかったけれど」
「何か起こるかもしれないのですか?」
僕は不安を感じて問いかけるとフェンリルは首を振り、
「分からない。召喚自体が、“初めて”の物だったから。小さなものでは試したが、大きな人間の様な物は初めてだったから。それでも失敗してでもいい、挑戦せざるおえないと思うほどに、我々は追い詰められていた」
「……でも僕は、絶対、必ず、説得してみせます」
「……期待している。それが一番いい方法なのは確かだろうからね」
そう笑ったフェンリルは、僕をじっと見てそれから、
「しかしあの話に聞くクロヴィスが、ここまで骨抜きになるとは。まあ、僕もライには夢中だから人の事は言えないが」
「骨抜きって……クロヴィスは僕に結構厳しい気がする」
「厳しい、厳しい、ね。そんな評価が下せるあたりで、君の前では随分とクロヴィスは、君に心を許しているのかもしれないね」
「もうちょっと甘くてもいいと思うのに」
「好きな子相手には意地悪をしてしまいたい時もあるのかもしれないな。ライと僕は情報交換した時も、ライの持っている情報は全部僕の手の内にあったけれど、それを隠して“情報交換”したからね。もっとも、つい少しこちら側の情報も流したけれどね」
「どんな、ですか?」
「陽斗を生贄としてクロヴィスに差し出して、愛玩させて、大人しくさせてみるのも手ではないかという話が出ている、といった事かな」
僕はその時どんな顔をしているのか分からなかった。
ただ、エロ的な意味で差し出されて、えっとつまり、
「僕、戦わなくてもいいってことでしょうか」
「今の状態だと、戦わせてすらもらえなさそうかな。後は暗殺も手ですが、そんな器用な事が君には出来なさそうですし……それに彼を殺せたとしてもこの世界がどうなるか分からない。だったら、君をクロヴィスが“溺愛”しているので、適当に与えておけば静かなのではという楽観論が大分出ている状態だ」
「……」
そこまで愛されている気がしないので、どうも彼らの認識が僕には奇妙に聞こえる。
けれど今のを聞きながら僕はある事に気付いた。
「あの、もしかして僕、“失敗”したらクロヴィスに貞操的な意味で危険な事に?」
「君もまんざらではないようだから良いのでは? お酒に酔った時、凄かったからね」
「い、いえ、僕、記憶にありませんから」
「記憶にない? それは……クロヴィスは、気の毒に」
「あの、僕、何をしたんでしょうか。誰も教えてくれないのですが」
「はははははは」
フェンリルは笑うだけで何も答えない。
本当に僕は一体どんな事をやっていたんですかと思う。
でもそれ以上に気になるのが、上手くクロヴィスを説得しないと、僕が性的な意味でとんでもない事になりそうな点である。
友達といった大切な人達を守る為が主目的だったのに、更に僕の貞操といった意味で危険なことになってしまいそうだという、危機的な状況に僕は気付いたのだった。




