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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
スペシャルターゲット ニュー・リリジョン

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ニュー・リリジョン

 あの合同葬の数日前、福田周子は自分のコンビニから離れた店のコピー機に百円玉を突っ込んでいた。


 その百円玉が全て消化されると、周子は十と一枚の用紙を鞄に突っ込み、嬉々として店を去る。その背中は、十二年間の人生で一番真っすぐだった。


「とりあえずオリジナルは私の部屋に貼る。もし気に入ってくれたならば配る。私の人生を切り開いてくれた存在が、教えてくれたこと……」


 福田周子は、二十八にしてついに人生が開かれたと思った。

 ついに道を見つけたと思った。だから、そのための教えを考えていた。

 あの偽善者の言うような、安っぽいヒューマニズムなどには負けない。


 その決意は、もはやタイムマシンでもなければ覆しようのないほどに強固だった。




一 人生清く正しく生きる事

二 いつでもお迎えがあると構えて生きる事

三 自分の人生を誰に知られても構わぬようにする事

四 他者に迷惑をかけた時には素直に非を認める事

五 巧詐は拙誠に如かずであると肝に銘じる事

六 不誠実な存在は幸福の手前で全てを失うと心得る事

七 四を踏みにじりし際にはいつ無惨な死を遂げても構わぬと覚悟を決める事

八 害意のための害意を為す者はもはや死を覚悟していると捉える事

九 純粋無垢なる物は美であると共に醜である可能性も加味する事

十 故人の遺志を決して証拠もなく勝手に推量せぬ事




 この十か条、と言うか十戒を刻んだ文章。

 彼女はこの十か条を盾に、これから生きて行く決意を固めた。


(ようやく、皆わかってくれた。これから私は、私の人生を生き直す。誰にも邪魔されない人生を。誠実に、清く、正しく)


 彼女の人生の時計を動かし、新たなる1ページを刻ませた存在。

 それは紛れもなくハッピー・テロリストであり、彼女はもはやハッピー・テロリストの信徒だった、

 叔母だけでなく父も母も、彼女を止める事はしない。元々の理解者であった叔母だけでなく、実父母も彼女の変化を喜び十二年越しの戦いが勝利と言う形で終結した事を表向きにはともかく内心喜んでいた。安堵の時がようやく来たと感動し、年齢より老けた肌を撫で合っている。

 

 どうにも揺るがしようのない事実が、そこにあった。




※※※※※※




「大粛清ですよ」


 柏崎竜也は部下からの報告を、黙って聞く事しかできなかった。


 十二年前の冤罪事件は福田周子らの母校の信用を大きく揺るがし、当時の校長を含むほとんどの教員は福田家に賠償金を払い謝罪会見を行い、さらに当時の教育委員会のメンバーも次々と謝罪に追い込まれた。それどころか警察の人間すらも相談を受ける労力を怠ったとして当時の地元警察署の署長が戒告処分を受け、地元の弁護士さえも二の足を踏んだ事を詫びていた。


「ハッピー・テロリストの犠牲者になりたくないんでしょうか」

「世の中はええかっこしいとええかっこしいで出来ている。ええかっこしいだからこそ謝って誠意を見せ、他の人間の前では人に迷惑をかけない自分を演じる」

「それで…」

「ハッピー・テロリストは必要のない人間の頭まで撃った。警察内部にまでその一撃は浸透してしまった」

「世界征服を狙っていると」

「少なくとも可能ではある。連中は人生の終わりを決める事以外何も求めない。もちろんそれが最大の傲慢だが、無私公正と捉えられたらとんでもない事になる」


 無私公正。何と言う輝かしい響きだろう。少なくとも彼らは殺害の際に

『本日〇時〇分、我々は○○○○を殺害しました。

 全ては○○○○の幸(・)福(・)の(・)た(・)め(・)であり、ひいてはこ(・)の(・)国(・)、(・)否(・)こ(・)の(・)世(・)界(・)に(・)住(・)ま(・)う(・)全(・)て(・)の(・)人(・)類(・)の(・)た(・)め(・)にです。我々はこれよりもまた、皆(・)様(・)の(・)幸(・)福(・)と(・)正(・)義(・)の(・)た(・)め(・)に動き続けます。

 ハッピー・テロリスト』

 とか言う事を臆面もなく公言している。全く正当化できない言い訳だが、もしこのまま放置していたらどうなるか。




 また、あの福田周子のような人間が出かねない。




(これが教義か…!)




 福田周子の部屋で見てしまった、あの十戒。

 それは彼女の考えた人生訓と言うより、いつ何時死が来るか分からずかつその死に携わった人間により人生が暴かれて行くと言う現実に即した教え。

 その現実を作ったのは誰か。答えはどう考えても明白だ。


 だがもし仮にハッピー・テロリストが存在しなければ、どこかで福田周子は渡仲礼二郎や日可明夫・奈美夫婦らを殺していたかもしれない。復讐と言う何も生まない行いに人生の全てを捧げ、何も残らない人生を送る事になる。それに比べれば現状はまだ、本人に取ってはましなのかもしれない。


 最悪と、最悪。


 少なくとも柏崎竜也にとってはそうだった。


 いずれ目を覚まさせると啖呵を切ってはみたが、これではハッピー・テロリストが消えたと同時に心中しかねない。


「負けない、負けるわけには行かない…………」


 今日出勤するに当たり警察署がとても小さく頼りなく見えたのは気のせいだと言わんばかりに放った声が、小さく消える。


 その目の光は、降水確率0%の正午の北極星の輝きにも負けていた。

明後日は出雲駅伝か…って訳でもないですが明日はお休みです。

また明後日からハッピー・テロリストをお楽しみください。

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