ジョイント・フューネラル
「どうしてそんなに泣けるんですか?」
嫌味とかではなく、素朴な疑問。
ハッピー・テロリスト被害者の葬儀になるべく出るようにしていた柏崎竜也が、参列者たちの中で一番泣いている人間になる事は少なくなかった。
今回もまたしかりであり、否応なくその存在は浮きまくっていた。
「もしかしてハッピー・テロリストに殺されたから泣いてるんじゃ」
「はい…」
「なんだかんだ言って三人とも幸せだったんだろうな、あんな殺され方をして」
ハッピー・テロリストに殺される事が幸せだと言うのか。
あの日可夫婦が福田周子を事実上退学に追い込み、そしてその罪を渡仲礼二郎がもみ消したのが全ての悪の根源だと言うのか。確かにそれは業腹だが、だからと言ってハッピー・テロリストの悪行を正当化する事が出来るのか。
それと、こんな雑な葬儀も。
「直葬ですか」
「まあそうですね。その後は三人とも散骨する事になっています」
「海に帰るんですね」
「ええまあ」
十万円もかかっていない直葬。
参列者は家族を含めても数名。
戒名も何もなし。
その後は海への散骨。
そんな葬儀にのこのこやって来る竜也も竜也だったが、それ以上に葬儀をやる方もやる方だった。
「で、柏崎さんはこの後の」
「はい、渡仲礼二郎さんの葬儀にも出ますので」
「奥様もそんな人だと知ってたら離婚してたって、あんなのと夫婦であり娘やお孫さんの関係者でありたくないって死後離婚も考えてるそうで」
「哀れな事です」
「ハッピー・テロリストの被害者だからですか、奥様と兄妹しか来ないような葬儀なのに」
いわゆる精進落としすらない、ビジネスライクそのものな火葬。
一応散骨代だけはかけるつもりのようだが、その狙いが何なのかはわかっている。
(責任を押し付ける気か…いやいっそその方がまだましかもしれないのが……)
家族どころか親族の誰も遺骨を引き取ろうとせず、海に流す。
無縁仏とほとんど同じ扱いであり、無縁仏のようにその寺の僧侶に供養される事もない。それこそ機械的な死としてのそれでしかなく、その後一切顧みる事もない。位牌さえもあるかないか怪しく、文字通り何もかもを抹消する気らしい。
しかしそれは、あの町の住民を始めとした関係者の狂騒ぶりに比べればまだましかもしれない。
それこそ一億総懺悔と言わんばかりにあわてふためき、こぞって頭を下げ何らかの形で金銭的補償も行おうとしているらしい。福田家の親は娘に任せますで済ませているが、福田周子の反応はあまり悪くないらしい。
確かに、日可夫婦がやったのならば二人ともとんでもない悪党だし渡仲礼二郎は真実を探ろうともせず福田周子を犯人だと決め付けて退学に追い込んだ悪人かでないとしても相当な愚物だが、それでも死ねばすべて神仏のはずだ。
「柏崎さんってカッコイイ人ですね」
その事を口にしたら、日可夫婦の妻である奈美の妹だと言う女性に全く抑揚のない口調でそう言われた。どうにもならない大悪党にまでそんなセリフを吐ける聖人君子サマだと言う嫌味でしかなく、その後日可奈美こと才川奈美が子ども時代から現在までずっと自分たちに対して為して来た悪行をつらつらと聞かされた。その挙句福田周子さんとは別の意味で泣いてくれる人がいるだなんて姉は幸せだなと、やはり抑揚の全くない声で言われた。
「あーかわいそう、あーかわいそう」
「…静かにしなさい」
字面はともかくとして、口調は全く茶化したそれだった者もいる。誰だと思って目を三角にすると、渡仲礼二郎の孫だと言う四歳の少年だった。実父母からただ美味しいご飯が食べられるからって聞いてやって来ていたその少年は最近ゲームで覚えたと言うそのフレーズを連呼し、そして誰も止めようとしていない。
自分が止めようとすると目線がこっちに移り、余計なことすんじゃねえよええかっこしいと言う圧が体を包む。やむなく静かにすべきだと言う言葉で逃げるしかなく、柏崎竜也の存在はただのよそ者以上に部外者として強調される事となる。
「福田周子さんの事を憎んでいるのですか」
「まさか」
「でなければ彼女から人生を奪った三人を」
「憎いのはハッピー・テロリストとか言う殺戮集団だけです。法も何も顧みずただ自分勝手に善悪を決め、人生を終えさせる大悪党、いや本気で世界征服を狙うような輩に負けられないだけです」
世界征服。
つい口を付いて出てしまった言葉だがそれほど間違っているとは思わない。
まるでその後の人生を知っているかのように放たれる光線。それは文字通りお前の人生は我々の掌中にあると言う証であり、既存の国家と言う枠組みに対する宣戦布告以外の何だと言うのか。何様だか分からない存在が人生を決められる権利などどこにあると言うのか。それこそ神にでもなったつもりだろうか。
(神……)
そう、ハッピー・テロリストは既に神になってしまっている事を柏崎竜也は知ってしまっていたのである。




