シュート・アンド・シュート
「しかし先生がなぜまた…」
「あらぬ噂が立ってるらしいな、ったく迷惑な連中だよ」
「とにかく今日ちゃんと頑張りましょうね」
「先生のためにもな」
大事な人の死を、思わなかった訳ではない。だがそれでも、その前に自分がやるべき事をやりそれから故人を見送っても遅くはない。
日可明夫と才川改め日可奈美夫婦は、予定通りに結婚式を挙行する事を決めた。
「で、返事は」
「一応招待した存在に連絡したけど、来ないのは福田だけだって」
「やっぱりね。あんな事しといて顔を出せるほど面の皮厚くないよね」
「お前も言うよな。でも見たんだろ、たまたまフラッと旅行した先であいつが暗い顔でコンビニのレジ打ってたの」
「酒屋上がりのチェーン店でも何でもない、それこそ吹けば飛ぶような店で」
「お前知ってて」
奈美は口元を緩め、明夫も続く。
昔から堅苦しくていけ好かない女だった奴がああして家族諸共落ちぶれているのを見ると気持ちよくてたまらない。もう少し愛想よく過ごしていればああもならなかったのに、どうして笑顔一つ作ろうとせずつまらなそうな顔で登下校していたのか。部活も何だかよく分からない堅苦しいとこにいて数字と向き合ってばかりで、こっちがいくら誘っても何も反応しない。
そのくせほんのちょっとやってやっただけであの大騒ぎと来ている。楽しくて楽しくて仕方がなかったし、あんなほんのちょっとの刺激だけであそこまで壊れるんならどっちみちそこまで。
二人ともそう思っていた。
(まあ実際福田周子があんなに抵抗したも分かるよ…実際やってねえもん)
あの生きていても何の楽しみもなさそうな奴に少しばかり刺激的なイベントを与えてやったと言うのに、結局本質は変わらない。素直に私がやりましたって言うんならその時は可能な限り温かく迎えてやったと言うのに、全く異世界から来た存在はどうあがいても変えられないと言う現実に人知れず絶望してみたりした。
「あーあ、テンテンソクも知らねえままに…」
「本当、もったいない人生の送り方よね…ああかわいそう、ああかわいそう!」
テンテンソクこと「『10秒待って!』転生悪役令息は『10秒』スキルで破滅を回避します」と言う最近話題のラノベの話をする二人の顔は、希望に満ちていた。
そして、結婚式当日。
大安吉日。
当然のごとく誰よりも早く会場にやって来た二人。
日可家・才川家結婚式場の文字が躍り、二人の門出を祝おうとしている。
「しかし…」
「何」
「何か字が薄いんだよな」
「確かに…」
「後で改善するように言っとかないとな」
お客様として会場の不備を突いてしまう明夫。ある意味仕事のやりがいを感じこれからこのホテルを日本一のそれにしてやると言う意欲に満ち溢れた彼の目は、幸せに浮かれ上がったそれとは別の意味で輝いていた。
この後タキシードとウェディングドレスを身にまとう二人はこの時点でも既に綺麗であり、万人に拍手喝采を受けるに値する姿だった。
中では明夫の同僚たちが既に祝儀袋を受け取る準備を整え、明夫と同じぐらい目を輝かせている。
(俺たちの人生を守ってくれた先生のためにも…)
あの時、福田周子を徹底的に叩いてくれた渡仲礼二郎。
ついぞ自分たちを責める事はなかった、最高の恩師。
故人となってしまったその恩師の遺影は既に式場に入っており、スピーチの際に帰って来ない存在に対する御礼と追悼の意を述べる。これで自分たちの心証も良くなると言う寸法だ。
全ては完璧だ。
「あっ!」
今日と言う日を迎えようとしていた二人。
その二人のうち日可明夫はその同僚の声を最後に、後頭部に風穴を空けられた。そしてそのまま物言えぬ死体となり、二度と心臓が脈を打つ事もなかった。
「あなた!」
そして日可奈美もまた夫が倒れる方向を向くと同時に左側から撃たれ、そのまま横倒しになった。そっちはまだわずかに息があったが口からものすごい勢いで血を吐き、ホテルの玄関の前のアスファルトを真っ赤に濡らし、救急車に乗せられた際には既にこの世の存在ではなくなっていた。
二人の頭を撃ち抜いた、真っ赤なレーザー。
そしてほどなく出た、犯行声明。
それだけで、彼らの罪を証明するには十分すぎた。
「本日9時2分、我々は日可明夫及び日可奈美を殺害しました。
全ては日可明夫及び日可奈美の幸福のためであり、ひいてはこの国、否この世界に住まう全ての人類のためにです。
我々はこれよりもまた、皆様の幸福と正義のために動き続けます。
ハッピー・テロリスト」




