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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
スペシャルターゲット ニュー・リリジョン

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56/70

デス・クラス・リユニオン

今回は「スペシャル・ターゲット」として十月十日まで10話連続でお送りいたします。

「渡仲先生もあと三年で退職だよなー」

「そうね」


 日可《くさか》明夫は満面の笑みを浮かべていた。

 母校の三年四組の同窓会の会場であるホテル、今の自分の職場で明日行われるそのイベントにて主催者ではなく参加者として妻の奈美と共に恩師である渡仲礼二郎を囲む。六十二となった渡仲礼二郎は頭も薄くなっていたがあの穏やかな笑顔は変わらず、ほどなくして祖父になるらしい。

 明夫にとって、高校時代は楽しい思い出だった。奈美とラブラブカップルだったのもさる事ながら担任であった渡仲礼二郎は彼の小中高十二年間の学校生活の中で一番優秀な教師だった。


(ってかでなきゃ出世しねえよな、まあ当然の結果だよ)


 渡仲礼二郎は今や担任ではなく教頭であり、教師としてはそれこそ出世の頂点に近い。あの後大学に入り、出て、ホテルマンとなって六年。その間に出世栄達した彼を明夫は人生の師と呼ぶまでに至っていた。


 妻の奈美もまた、明夫と同じ顔をしていた。彼女は二年の夏休み明けから明夫と付き合い出し、大学時代少し離れたが奈美が郵便局員になってからまた付き合い出し、此度ようやくゴールインした。延々十年も何をやってんだとか言われる事もあったが、本人たちはそのタイミングをまったく恥じていなかった。


「この前見たでしょ、あれ。あの時決めたのよ」

「ああ見たよ。あの時の苦虫を嚙み潰したような顔。あれ見たらもう今しかないって思ってね」

「それで結婚式も決めたのよね。招待状も送ったしああ楽しみ!」

「事前演習にもなるし、今回は第三者として楽しもうじゃないか」


 同窓会をやる事になる職場で、その後結婚式をやる。既に予定は決まっており、夫婦としての初の共同作業として招待客の手配やメニュー、招待状の送付など最も楽しい時間を過ごしていた。

 メンバーはお互いの家族を除けば高校時代の同級生が主でそこまで重い物ではなくジミ婚と呼ぶにはやや微妙なほどの身の丈レベルの結婚式だった。その後は新婚旅行としてお互いの夢だった台湾へと三泊四日で行き、全てを満喫してこれからの生活を送る。


 二人は今、世界中の誰よりきっと幸福だった。




(今日も押しなべて事はなし…)


 渡仲礼二郎もまた、安寧の中にいた。

 この仕事に就いてから四十年。平穏な教員生活を重ねて来た。無論問題がなかった訳ではないが自分なりに対処し、生徒たちを送り出して来た。

 その上にさらに一つ上の校長先生になりたいと言う欲望だけは最後の最後まで捨てられず、そのための試験を受けては通らないのだけが悩みだった。六十二と言う年相応に頭が鈍っているのか、校長ではなく教頭でいいと妥協したのが間違いだったのか。

 チャンスはあった。しかしその時の校長の苦労を思うと自分には務まらぬと思い逃げてしまった事が、彼にとっての唯一最大の後悔だった。



 唯一最大と言えば、十年ほど前の一人の生徒の事だ。


 見た目はおとなしく優等生に見えた彼女が、部費を盗難していた事を知った時にはあわてふためいた。物的証拠を盾に何とか反省を促そうとするも彼女は首を横に振るばかりで、泣きわめいて話を聞こうともしない。結果的に彼女は最後まで頭を下げることなく学校を去ってしまい、後味の悪い結末だけが残った。

 その一件以降彼女の親たちもどこかへ行ってしまい、連絡は一向に付いていない。一体なぜあそこまで頑なだったのか、何故証拠があるのに絶対に認めようとしなかったのか。

 今でも娘にその話を聞かせているが、その度に娘が少し寂しそうな顔をする。いい加減くどいと言われるのは分かっているが、それでも必要だからこそしているのであって不必要な話ならしていない。ただそれだけの事だ。

(素直に事実を受け入れる事が大事だと言うのに……)

 なぜ彼女が、そこまで謝ろうとしなかったのか。素直に悪かったですと言えば一日中詰問する事もなかったのに。そのせいで大学推薦も部活動での輝かしい功績もすべて失ったと言うのに、なぜ最後まで首を横に振り続けたのか。


 ああ、あれがギャンブル依存症だと言うのだ。

 うまく言い切れば全てを元に戻せると言う人生の賭けに出て、あくまでもしらを切り通そうとした。実際そうならばそうだったのだろうが、ではなぜ彼女の鞄に部費の入った袋があったのか。その事を合理的に説明できない以上彼女の罪は消えない。クラスメイトたちからもいい加減認めろと言われたが首を縦に振る事はないままだった。


 なぜなのだろう。なぜあそこまでやってないと言えるのだろう。あの時はもう疲れ果ててこっちが先に死ぬかと思ったほどだった。無理心中に巻き込もうとする危険な存在を排除するのは人間の生存本能だ。


「さすがに罪の重さに気付いてくれればいいのですが……」




 そう言いながら門を開け新聞を取りに行った渡仲礼二郎の人生は、次の瞬間に終わった。


 悲鳴すら上げる事のないまま。


 一つの構文の種として。







「——————————本日5時42分、我々は渡仲礼二郎を殺害しました。


 全ては渡仲礼二郎の幸福のためであり、ひいてはこの国、否この世界に住まう全ての人類のためにです。

 我々はこれよりもまた、皆様の幸福と正義のために動き続けます。


 ハッピー・テロリスト」

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