アイアム・セーフティ!
「この国は安全なはずじゃなかったのですか!」
メキルマ・ターノッセイは吠えた。
事実上一日で二人の人間が真っ赤な光線で頭を撃ち抜かれたと言う現実を前に、治安大国と言うニッポンが掲げて来たはずの看板はあまりにも空虚だった。いや二人どころかこれまで数十人単位の人間が既に犠牲になっている事からしてその看板はとっくに壊れているのだが、それでもメキルマにとってはあまりにも近い人間二人の死であり重たい一撃だった。
「……誰か!」
「ちょっと待ってください…」
「上原部長はこの後どちらへ向かわれる予定だったのですか!」
メキルマはやけに習熟した日本語で部下を問い詰めるが、誰も何も答えない。
実際上原司がどこへ行くか、誰も把握していなかった。一応黒井課長の死により穴が空いた場所を埋めにかかっているのではないかと誰かが言っていたが、それを証明するデータは誰の手もとにもない。一応上原司のPCにはデータはあったが、パスワードを知らない以上誰もアクセスできない。
メキルマは上層部に連絡を取り上原のPCへのアクセス権の要求を行い、さらに黒井業太のPCのアクセス権も同様に求めた。許可が来る前の間に本職である会計の仕事も行い、その上で上原の代役を探し求める。
「あなた代わりに上原部長さんの…」
「私ただの事務員で……!」
「…………」
しかし営業部門の人間は上原の葬儀について関わるとか言って病院にいる一人を含め全て出払っており、その手の経験のある人間はもう誰も残っていない。いやいたはずだが数日前に辞めており、代わりの人員も埋まっていない。何でも人生に疲れたとか言ってたらしいが、その彼の重たい姿にメキルマは失望していた。
(ニッポン人は働き者ってのはウソだったんですか…!)
ああ、古き良き時代は失われてしまっている。黒井や上原のように全てを顧みずに働くような人間が出世しているこの会社が好きで入ったと言うのに、その二人が相次いでこんな事になってしまうとは。自分の手で、二人分どころか数人分の働きをして自分が正しい事を証明してやらねばならない。
結局、代わりが見つからなかったメキルマは自ら社を飛び出し、本来の時刻から二時間以上遅れて上原司が回るべきであった社へと足を運ぶ事とした。移動中も自分の本職を止めようとせず、その上で上原や黒井がしようとしていた仕事もやる。文字通りの仕事の鬼だった。
「いや、その…」
「何か問題ですか!」
「ムハーク産業さんとは長い付き合いですが正直…」
「正直なんですか!」
「いえ、上原部長さんや黒井課長さんは…」
「二人のためにも仕事をしているのです、あ…!ですから、今後ともよろしくお願いいたします!」
そんな風に鬼と化していたメキルマは一社目から煮え切らない相手に激昂してしまい、あわてて気が付いて営業スマイルを作り上げ頭を下げるも、時既に遅しだった。
「こちらから言わせてもらいますと、ムハーク産業さんは最近あまりにも社員さんたちに活気がなさすぎる。見た所かなり乱暴に社員さんたちを働かせているようでありこのままでは社員さんたちが潰れてしまう。実際ついこの前まで弊社を担当していたそちらの社員さんもいつの間にかやめてしまっていたようで、このままではそちら様との取引を継続できるか疑わしいと言わざるを得ないと愚考しております」
「わかりました、社に持ち帰ります」
平たく言えば、企業体質を変えろさもなくば契約を切ると言う事だ。メキルマは口だけで了解の意を示しその後とりあえずの契約を取り付けたが、内心では相手企業を見下した。
(あんなのがいいだなんて、やっぱり今のニッポン人はおかしい……)
明らかに、黒井や上原を評価していない。
それどころかこの前までこの社を担当していた社員のやる気のなさそうな姿を思い出しそんなのを頼りにする会社だなんてどうせ大したことはないなと言う考えだけが彼女の頭を支配した。いや、数字だけ見ればかなり大規模であり今すぐ切る事は出来ないが、それでもあんなやる気のない会社ならばこっちだって考えなければならない……。
そんな結論を、本来上原が回る予定だった数社を回った上で、その全てに対して抱かざるを得なくなったのがメキルマと言う人間だった。彼女は上原を慕っていたとは思えない他の連中がいなくなった一人っきりのオフィスで、時計の針が30度になるまでキーボードを叩きまくっていた。
そしてその上で、また一つのコストカットすべき部分を発見していた。




