ヒーローズ・アトーンメント
「その力を使い過ぎると早く老けてしまうんじゃないかって不安もあった」
「私、カイジロー様のためならば…」
「でも駄目だった、と言うか失敗した」
「それは…」
「まあその時はすぐさま気付いて逃げたから無事だったけど、本当ここぞとばかりに後ろ指を差されまくったよ」
「10秒待って」の力を自分以外に使える事を知ったカイジローが、巨獣に向けて力を使い老衰させて倒そうとしたのはカイジローにとって唯一失敗したと言える話だった。その時は文字通り鬼の首を取ったようにスキルがなければザコだなと責められまくり、素直に失敗を詫びてギルドからは許されたが同業者からはスキル依存野郎と散々責められた。
そしてその時まで自分に散々使って来た割に「成長」していない事に気付き、この時既に行動を共にしていたコンガネに使う事をためらわなくなった。
「でも私は決してセイケン様を悪くは思っていないのです。そんな私を許してくれますか」
「無論だ。誰だって自分の力に溺れたくなる。俺だってかつて自分はもっと出来るはずだと思って挑戦して家族に迷惑もかけた、それからずっと打ちひしがれてそれこそ飯を食う以外何もせずに過ごして来た事もある」
「貴族家でもそんな生活を」
「そのまた前の話だ。前の家族にはとんでもない迷惑をかけた。父母の金を食い荒らし、兄の婚姻の足かせとなり、それこそ何のために生きているのかさえわからないほどだった。そんな自分が嫌だったけど、どうすれば変われるのかさえわからなかった。もし特別な力があればとか益体もない事ばかり考えていた」
コンガネはカイジローが「転生」して来た人間である事は聞かされていたが、その生活がそこまでうらぶれた物だとは知らなかった。
あるいはカマ・セイケンも同じ類の人間かもしれない、いずれ和解できるならばしたいと王に申し出ていると聞かされてコンガネのカイジローに対しての思いは、ますます膨らんで行った。
「それで、だ。コンガネ。君の金属を生成する魔法もかなり強化されたよね」
「そうです」
「それで、作る事が出来る金属も増えた」
かつては錫や鉛、せいぜい銅ぐらいしか作る事が出来なかったコンガネだったが、旅の中で量も素材もパワーアップし、邪竜やカマ・セイケンと戦った際には銀をも作り出す事が出来ていた。
「そして今は…」
「金、か…」
「しかしそれを下手にばらまけば」
「この国には使わない」
金と言う存在が絶対的な支配者である事は、この世界でも同じだった。
金鉱山の取り合いによる貴族同士の騒乱があり、侯爵家にも金の装飾を施された品物があった。
金を作る事が出来るとなれば、それこそ国そのものを支配する事も出来た。
「どこに使うのです」
「転移魔法ってのを、必死に覚えたよ」
「それは…」
「そこへやりたいと言う場所の風景をはっきりと覚えていれば、物体をそこへ移せると言う魔法だ。しばらく留守にしてしまって申し訳なかったな」
「それで…!」
カイジローに魔力がなかった訳ではない。だが魔法の力で何かをすると言う目当てもなかったため魔法の習得などまともにしておらず、現在の地位を得るまで全くおざなりにしていた。
そして得た地位で魔導士を招き入れ、その際に習得したのが転移魔法だった。
曰く、物体を送りたいと思う場所に送る事が出来る。
距離は問わないが、自分が見聞きし、強く頭の中に残っている場所でなければならない。
「まさか」
「そうだコンガネ。金を作って欲しい」
「金を」
「かつて、俺が最大限に迷惑をかけた父と、母と、兄。家族のために」
「金はカイジロー様の世界でも重要なのですか」
「重要だ。そして俺が向こうの世界に送る事が出来る物は他にない」
剣や甲冑、魔導書を送ったとしてもどうにもならない。ドレスやコートなんて論外だ。
この剣と魔法の世界に存在し、その上で「向こうの」世界でも通用する存在。
それは、金しかなかった。
「カイジロー様の家族のために…」
「ああ。そのためにどうか、コンガネに力を貸して欲しい」
「わかりました」
カイジロー様の素敵な家族のために、コンガネは力を込めた。
金属の塊が生成されて行く。
カイジローも力を込める。
本来ならば二日かかる所をスキルにより縮め、二十分も経たずに金が出来上がった。
「やはり金は難しいか」
「以前作った時も一晩かけて豆粒ほどでした」
「でもこれだけあればとりあえずは十分か」
およそ一キログラムの純金が光を放っている。
それだけで庶民八人分の年収であり、それはだいたいカイジローが元居た世界と同じだった。
「とりあえず今日は同じものをもう一つ作る。そして」
「カイジロー様の元の世界に送ると」
「そうだ、この事は二人の秘密だ」
「承りました!」
カイジローとコンガネは抱き合う。
自分たちの行いにより、カイジローがかつて迷惑をかけた存在とコンガネにとっての義父母・義兄のために。
そうして作られた金は、カイジローの魔法により消えて行く。
カイジローの、いや伊勢海次郎の知っている故郷に。
それからもずっと、カイジローとコンガネは金を送り続けている。
贖罪の、ために。




