アナザー・ワールド・ギフト
「……無駄だな」
「出ないって事」
「ああ、あと二カ月もすれば今回のも俺たちのもんだ。かなりの面倒と共に」
今月もまた、ある。
大きさとしてはそれほどでもないが、価値としてはバカ高い。
そんな贈り物が、また伊勢家に「送」られていた。
「世の中理不尽ね、貯金が落とし物で溶けて行くなんて」
「俺取引なんてわからねえから銀行に任せようと思ってるのにさ、それこそすぐさま手放さないとマイホーム代が怪しくなるって何なんだよ。親父もとっとと売り捌いてそれで税金払ってるってさ」
無論差し引きで考えれば大幅にプラスではあるが、単純に面倒くさい。ネコババをできるほど面の皮は厚くもないしそれ以上に一度「拾得物」として警察に届けた以上もうありませんなんて言える訳がない。
実は拾得物には所得税がかかる。
50万円以下ならばどうってことはないが、その拾得物の値段は50万円どころではない。
「しかしよ、2600万円もどこから引っ張って来てるんだか。俺は竹取の翁じゃねえっつーの」
——————————2600万円。
正確に言えば、2600万円相当の金。
それも、一度や二度ではない。
伊勢進次郎と父母は、この一年でトータル1億円以上の金を「拾って」いた。
かぐや姫を見つけた後も、竹取の翁は光る竹にしょっちゅう出くわしている。その竹を切る度に金を手に入れ、どんどん豊かになっている。それと同じように、金が湧いて出て来ていると言うのか。
実際防犯カメラを付けた所、金は文字通りいきなり湧いて出て来ている。まるでどこかから、送り込まれて来ているかのようだった。
(ハッピー・テロリスト以上の超科学じゃねえか…)
一体どういうことなのか。なぜまた自分たちの所にだけこんなに入って来るのか。
「ちょっと調べてみた事があるの」
「何をだ」
「海次郎さんの遺品となった小説」
「あんなもんに何の意味あるんだよ」
「剣と魔法の世界って」
「安いゲームの世界だろ」
進次郎が言う所の、安いゲームの世界。そんな物とは全く無縁のそれで生きて来た進次郎とその妻であったが、このハッピー・テロリスト以上に理屈では全く想像の付かない事態に直面させられた進次郎の妻はその存在になんとなく向き合う事となった。
剣はともかく、魔法。
ファンタジーの象徴ではあるがハリー・ポッターのように学問として体系化されている事も多々ある存在。
まさかそんな物が現実に存在しているとか言うのかと思ったが、そうでもなければこんな事は説明が付かない。でなければ超能力かハッピー・テロリストのような超科学かだが、いずれにしてもまともな話ではない。
「じゃあ何だよ、金が魔法とかで送り込まれてるって言うのか」
「わからないけど」
「バカバカしいとか言うには説明が付かねえってか、でもハッピー・テロリストのようにどこからでも相手を殺せる仕掛けがあるようにどこからでも金を送り込める仕掛けでもあるんじゃねえのか」
「それだって非現実的でしょう」
「じゃあ錬金術か」
錬金術は卑金属を金に変えると言う代物であり金を自然発生させる代物ではない。
だが進次郎にとって、金が自然に湧いて来ると言う現実を説明できる方法など持っていない。とにかくこの現実に対する説明が欲しかった。
「まさかと思うけど」
「あいつが」
「本当に、十秒待ってとかなんとかの……」
本当に、異世界転生したと言うのか。
「『10秒待って!』転生悪役令息は『10秒』スキルで破滅を回避します」とやらの世界に。
そして、その世界で成功した海次郎が———————————————。
「魔法でこっちとあっちをつなげたってのか」
「わからないけど」
「じゃあなんで金なんか送り込んで来るんだよ」
「剣とか魔法の本とか送り込まれても」
「だから……」
だからなんで金をとか言おうとした所で、動けなくなった。
金と言う輝きを持った存在は、人類に取り不変の宝である。
黄金郷、黄金時代、金メダル。実に美しい輝きだ。
同じような人種が暮らしている以上、この世界でも異世界とやらでも等しく価値のあるであろう宝が「金」なのだろう。あるいはその異世界では金が大安売りされており、海次郎が『10秒』スキルとやらで成功して金を買い集めこちらに送っているのかもしれない。
そう、異世界からこちらに送り込んでもっとも波風の立たない、普遍的な存在として——————————。
「もういい、俺らの負け!」
「進次郎さん…」
「あんないい奴に辛く、じゃなかった冷たく当たり過ぎた俺らが悪かった!もう一遍、派手に別れの会をやる!」
「でも誰を…」
「あいつの同級生を強引にかき集める!金は入るんだろ金は!」
「はい……」
自分たちがお説ごもっとものはずの理由であんなにも冷たくして来たのに、贖罪だと言わんばかりに愚直に「金を稼いで」いる。
途方もなく一方的で際限をわきまえないそれだが量も方法もあまりにも強く、彼らの意志を曲げるには十分すぎた。
(やっぱりハッピー・テロリストは害悪じゃねえかよ!)
そしてその弟の愚直な贖罪は、進次郎のハッピー・テロリストへの心証を一気に悪くした。
————————全く同じ事を、やっている存在に対しての————————。




