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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
ターゲット7 アナザー・ワールド

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ゴーアウェイ・デッドウェイト

「籍を入れてから結婚式の予定を立て、こうしてやる事になるなんてな…」

「まあそれぞれの形があるし」


 伊勢海次郎の死から十日後伊勢進次郎は彼女と籍を入れ、そして結婚式を執り行う事となった。

 規模は大きくもなく招待人数も親族関係者や職場の同僚などであったが、進次郎からしてみれば人生の門出として立派な日になるはずだった。


 少し、遅れただけの。


「……感謝しちゃいけねえのかな」

「風が吹けば桶屋が儲かるって言うでしょ」

「だよな…」


 その挙式を阻害し新婚生活の枷となっていた存在は、もういない。

 彼らは、本当の意味で自由になるつもりだった。


 その結婚式がどんな展開になるか、進次郎と父母は既に展開を組み立てていた。




※※※※※※




 ——————————相当に業腹だったんだろうな。




 後に行われた結婚式に参加した誰もが、同じ感想を抱いた。


 一応血を分けた弟だったのにもかかわらず、進次郎も実父母も一言も触れない。高校時代の写真を適当に選んだ一枚がかろうじて席に乗っかっているだけ、そのフレームすら式場の用意したそれではなく千円にも満たないような安物。

 その「弟のせいで」破談しかかったカップル以外はまともに頭も下げず、と言うか下げさせなかった。


 文字通りお義理もいい所であり、伊勢海次郎と言う存在がどれほどの物だったか参加者に思い知らせるには十分すぎた。

 伊勢海次郎と言う人間の死はハッピー・テロリストにより国中に伝播されたが、その実情までは世間の人間の知る所ではない。

『本日10時15分、我々は伊勢海次郎を殺害しました。

 全ては伊勢海次郎の幸福のためであり、ひいてはこの国、否この世界に住まう全ての人類のためにです。我々はこれよりもまた、皆様の幸福と正義のために動き続けます。

 ハッピー・テロリスト』

 と言う無機質な構文がハッピー・テロリストの全てであり、どんな人生を送ってきたどんな人間であるかなどは一切斟酌されない。それだけに伊勢進次郎らの対応はただの記事としてしか知らなかった親類縁者、いや式場の人間や進次郎たちの同僚に印象を深く植え付ける。もちろん進次郎たちがその事を考慮しなかった訳ではない。しかしそれ以上に、高卒後七年間バイトすらせずにただ飯を喰らっていた海次郎に対する我慢が限界に達していた。


 かつてのお行儀のよろしいと言うよりただ媚びを売る事しか考えていない存在の現在の姿を親類縁者に向けて伝播し、自分たちどころか彼らの人生から完全に消去する。それが進次郎からしてみれば自分たちなりの最後の愛情であり、晩節どころか全てを汚しまくった伊勢海次郎と言う存在への手向けのつもりだった。


「これからも夫婦揃って仕事にまい進したいと思います」


 と言う二人の言葉は二十五年間無為徒食を重ねて来た海次郎に対する死刑宣告と言うか死刑執行であり、これから先商社マンと保険外交員としてキャリアを重ねて行くと言う決意の表れでもあった。




※※※※※※




 その理想に向けて進む進次郎に対し、メディアはまた一人の人間の死を伝える。


「またやってるよ、ハッピー・テロリストのニュース」

「そうか、今度は一体どこの誰だよ」

「えっと繫華街で強引な客引きやってた中年男性だって。それで今日店が摘発されたとかって」

「ツイてるのかもしれねえな…でも当事者になってみると面倒くせえけどな」

 

 ハッピー・テロリストのニュースが流れるたびに、職場で心配される。

 今度の結婚式でその心配が全く無用である事を示してやるつもりだった。


 人殺しを肯定する気はない。だがそれがイコール不幸だとは思わないでもらいたい。

 死は救済だとか言う気もないが、海次郎にとって一番いい時期での、一番いいやり方での死の到来だと進次郎は思っていた。

 これから先自分たちの金を食い潰す事しかできないだろう存在を消してくれたことに対して、礼を言いたいぐらいだった。

「あいつ一体何やってるんだろうな。ご先祖様たちに叱られてるのか」

「だと嬉しいの」

「ああ。今度生まれ変わって来たら真面目に働くように言いつけてやる」

 別に自分だってそこまで勤勉なつもりもないが、それでもあれだけの時間一円たりとも稼がないような真似をした輩の真似だけはしたくない。そう思いながらいつものように出勤の準備を整え、門を開けた。




 その進次郎の目の前に、一個の物体が転がっていた。


 凄まじい存在感を放つその物体。

 ただ存在するだけで光を放ち、大きくもないはずなのに重みを持った物体。

 まるでお前の物だと言わんばかりにそこにいた物体。


 何より、その光の色で自分が何者かを示すには十分すぎる物体。




「金だ……!」




 目一杯声を抑え、その物体を拾い上げる。

 通勤の道すがら交番に拾得物として届けた進次郎に取り、その物体はほんの一時的な、それこそ頬をつねっても痛くない事象のはずだった。



 だがその先も、あの挙式の後も。



 自分たちだけでなく、親たちも。



 同じ事が、続いたのである。

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