白紙化/猶予/終焉
それからというもの、しばらくの間ずっと歓声があがり、その後は一斉に静まりかえった。
みんな、明日に備えて眠ることにしたのだ。
もう二度と来ることのない明日に備えて。
「私と愁は一緒に帰るけれど、香月とメアリちゃんはどうするの?」
それに愁さんは抗議していたけれど、一瞬の後に鎮圧された。
「わたしとメアリちゃんはここで最期を迎えるわ」
いいでしょ、と潤んだ目で訊いてくる香月さんにあたしは撃沈されてしまった。
美人の懇願ほど卑怯なものはない。
頷くと花のような笑みを浮かべる香月さん。
うん、これも、ばっちり反則だ。
「メアリちゃんのことをなんとかしてあげられなくてごめんね」
最後に華恋さんからそんなことを言われた。
あたしはゆっくり首を振り、
「いいんです。結構、華恋さんにはよくして貰ったんで、それだけで十分なんですよ。それに、愁さんからも言われましたしね。自分好みの真実ってやつを見つけてくれって。だから、あたしは華恋さんの義妹のメアリでいいんです」
微笑んで言う。うまく、笑みを作れたかはわからない。
華恋さんは、そっか、と呟き、
「私の義妹でいいか。なんか、うれしいな、それ。うん、ありがとね、メアリ。じゃ、香月もメアリもいい終末を」
愁さんの手を引いて歩きだす。
あたしと香月さんも声を合わせて二人の背中に、いい終末を、と声を掛けた。
それに応えるように二人は手を挙げて公園を後にした。
☆ ☆ ☆
「行っちゃいましたね」
「そうだね」
「ねえ、香月さん」
「ん?」
「どうして、最期にあたしなんかと一緒にいてくれようと思ったんですか?」
「そんなの決まってるじゃん。
キミのことが好きだから。
だから、わたしの残った時間はキミと過ごすために使いたいのさ」
「そうなんですね。ありがとうございます。あたしなんかを好きになってくれて」
「わたしの方こそありがとう。わたしの我儘に付き合ってくれて。キミさ、本当は愁君のこと好きでしょ」
「うん、好きでした。でも、振られちゃいましたから、いいんです。それよりかは、残った時間を華恋さんと過ごして欲しいんです。多分、あの二人――」
「その先は、無粋ってもんだよ。そっとしておこう。もう、そういう関係を咎める奴なんかいやしないんだから。ていうか、消えちゃうし」
「そうですね。けど、これだけは言いたいです。おめでとう、華恋さん、愁さん。どうか、幸せな最期を」
「やっぱ、優しいよね、キミ。わたしはキミのそういうところが好き」
「ありがとうございます」
「ねえ、それ、止めない?」
「それってなんです?」
「敬語」
「ああ、そうだね。じゃあ、やめようか」
「切り替え早いね、いや、嬉しいけど」
「嬉しいんだ」
「うん、嬉しい」
「そっか」
「ねえ、キスしよっか」
「うん、舌を絡めた最っ高にスケベなキスをしよう」
「ありが と う
また
どこかで
会おう
ね」
☆ ☆ ☆
「やあ、お帰り。今回はスマートに仕事をこなしてくれたね」
目の前には、香月さんの姿はなく、いつか香月さんの能力で見た最低の男が椅子に腰かけてあたしにそう声を掛けた。
あたしはその刹那に全てを思い出した。




