終わり/終わり/終わり
あたしは、本当にどこの誰でもない存在だった。
じゃあ、なんなのか、と問われれば、説明が難しいけれど、端的に言えば、あたしは目前の男の能力の具現存在、ということになる。
あのとき、あの時代に具現化したあたしがしたことと言えば、適当な男を捕まえて体を売る代わりに一時の住処を提供してもらうことだった。
対象の二人を見つけるとあたしは男と自らの記憶を早々に切り捨てて――この時、男のスマートフォンと財布を拝借し、財布の現金以外の中身は捨てた――何も知らずに愁さんに近づいた。
後は、なるように流れに身を任せて、結果ああなった。
あたしはこれ以上、あたし自身のことを語りたくは――
「おいおい、人が折角労いの言葉をかけているのに無視かよ。まあ、いいさ。霧島メアリちゃん。
いや、こう呼ぶべきかな。
終末観測式――」
「――止めて! お願い、します。その、名で呼ぶのだけは、止めて、ください」
「まあ、いいさ。キミがそう言うのであれば、止めてあげよう。なにしろ、キミの働きのおかげで本来存在すべき次元は守られたのだから」
守られるべき、次元。
この世界は、あらゆる次元が同時に並行して存在している。所謂、パラレルワールドというヤツだ。
そして、これらのパラレルワールドは常に互いに影響を与え続けて存在している。
いい影響を与えるパラレルワールドも存在するのと同様に悪い影響を与えるパラレルワールドも存在している。
その一つのパラレルワールドが存在するが故に多数のパラレルワールドが崩壊するなんて事態も発生したりする。
なので、管理者の代わりにあたしのような剪定者が派遣されてそのパラレルワールドを崩壊させて秩序を守るのだ。
あたしという存在がその世界を観測するだけでその世界は否応なく終末を迎える。
故に、終末観測式、ヨハネ。
それが、あたしの本当の名前。
その世界の人々にとっては敵となる存在。
「ごめんなさい、華恋さん、愁さん、それに、香月さん。あたしがあなたたちの本当の敵だったなんて、ごめんなさい、本当にごめんなさい」
「やれやれ、優しすぎるのも考え物だね。いいかい、今回のキミの働きで救われたものもいるのだと理解しなさい。ある方面から見れば、確かにキミは悪魔以外の何もにでもないが、俺だけはキミを英雄と称えよう」
そんな、ことはどうだっていいんです。
そんな、知らない人たちのことなんてどうだっていいんです。
ただ、あたしは――
「――ねえ、お願いがあるんです」
「……なにかな、できるだけ俺もそれに応えよう」
そうして、あたしはこの文章を綴っている。
あの人たちの存在をなかったことにしないため。
そして、あたしの罪を告白するため。
これを、見ている親切なあたしの知らない誰かさんに願うのはたったひとつの事。
どうか、あたしの代わりにあの人たちのことを覚えていてあげて欲しい、というただ一つのあたしの祈り。
あたしはこの記憶も消え失せて、また、どこかの世界に現れるのだろう。
その世界を消すために。
だから、あたしの代わりどうか、この記憶をお願い――。
おかげさまで、なんとか完結できました。
最後まで読んでくださった方にお礼を申し上げて締めさせていただきます。
本当にありがとうございました。




