団欒/警報/終幕
その後、愁さんがご飯をご馳走してくれるというので、ご相伴にあずかることになった。
愁さんがキッチンで色々作っているので、とてもいい香りが部屋中に充満する。
これは、トマト的な何かかな?
あたしは改めて部屋の内装を観察する。
恐らくはどこかのアパートに一室と思しきそこは典型的な1LDKのこじんまりとした部屋だった。
しかし、恐ろしいほどに何もない。
一際目に付くのはリビングに置かれた箪笥とキッチンに置かれた冷蔵庫だけで後は本当に何もない部屋だった。
華恋さんとは180度違う。
けれど、だからこそ、愁さんからは華恋さんと同じ雰囲気を感じるんだよなぁ。
「出来たから、取りに来てくれ」
はぁい、と間の抜けた返事をして取りに行くあたし。
そうして出来上がったのは、ナポリタンとオムライスだった。
同時進行で作ってしまう手際の良さにあたしは驚きながら大皿をテーブルまで運ぶ。
中央にナポリタンとオムライスを乗せた二つの大皿に取り皿をお互いの手前に置いて準備は完了する。
戴きます、とお互い誰ともなく呟き、実食。
玉ねぎとピーマン、トロっとした炒り卵にトマトケチャップの彩を楽しみながら取り皿に取り分けた後に口に運ぶ。
うん、ケチャップの酸味と甘み、そして、バターの豊潤なコクがもちもちのパスタに絡んでとてもナイスな仕上がり。
アルデンテもいいけれど、やっぱりナポリタンはもちもちパスタだよね。
玉ねぎの甘みとピーマンの適度な苦みがとても楽しい。
お次は、オムライス。
ドロッとかけられたトマトケチャップにこれまたドロッと仕上がった半熟卵を大皿用のスプーンで取り皿に運びマイスプーンで戴く。
濃厚なトマトケチャップとトロットロのバターの風味が香る半熟卵と玉ねぎ、ピーマン、ベーコンを具にしたバター風味のケチャップライスが濃厚な三重奏を奏でてあたしの味蕾を美味さの雪崩で蹂躙していく。
あっという間になくなってしまった。
なにこれ、怖い。
さっきまで、あんなにたくさんあったのに消えてしまった。
下手なホラーより怖いよ、これは。
「美味かったかい?」
愁さんは微笑んであたしに訊いてくる。
あたしは顔が赤くなってしまうのを自覚しながらも、美味しかったです、としか言えなかった。
「そいつはお粗末さまでした」
ところでさ、と愁さんは真面目な面持ちになり、
「あいつは――華恋はどんな感じだ? ちゃんと飯は食ってるのか?」
ええ、そこで他の女の話すんの?
信じられない。
ちょっとマジになり掛けてたのに……。
「まあ、あの人は家事とかは苦手でしたから、あたしが華恋さんの部屋にお世話になったときは家事の大体をあたしがしてましたよ」
本当のことを報告する。
さあ、幻滅してあたしの虜になるがいいさ。
あたしの思惑通り、やっぱりな、なんて呟き、
「しょうがない奴だよな、まったく。まあ、今や、女が家事をやる時代じゃない訳だしな。いいんじゃないかな」
あたしの思惑とは外れていい笑顔をする愁さん。
それとな、と付け加えるように、
「別に俺がうぬぼれている訳じゃないっていうことを始めに言っておくが、俺はやめといた方がいいぞ。そもそも、俺にその気は全くないし。あんた、俺のタイプじゃないんだよ」
なんか、秒で振られた。
あたしはやっぱり顔を真っ赤にしながら、
「誰が誰に惚れてるですって? それこそ、うぬぼれ以外の何物でもないんじゃないですか。そもそも……ちょっと、かっこよくて……作るご飯も美味しいからって、ちょ、調子に乗りすぎなんですよ!」
そんな反撃しかできない自分に辟易した。
愁さんは微笑みながら、
「まあ、そういうことにしといてやるよ」
なんて、言って――
その刹那、スマートフォンから警報が鳴り響いた。
不快な警告音の後、
『緊急速報! 緊急速報! 巨大隕石の接近を確認。命を守る行動を最優先に各自行動してください。緊急――』
そんな、テンプレート的な機械音声が流れる。
命を守る行動?
全世界的なデットエンドを前にして何を言っているのだろうか?
不謹慎だけど、ギャグにすら思えてくる。
「あぁあ、ついに来ちまったか。予定より早いがしゃあない。出かけるぞ」
「今更、どこへ行こうっていうんです?」
あたしの諦めに満ちた問いかけに愁さんは満面の笑みでこう言った。
「決まってんだろ。この不細工なシナリオを強制終了させに行くんだよ」




