推理/解説/拉致
「それは、どういうことよ」
華恋さんが剣呑な雰囲気を出す。
そんな、微妙なタイミングでカフェオレとアイスコーヒーが運ばれてきた。
それぞれ、受け取りあたしは解説を始める。
「いいですか、まず、あの夢に出てきた気持ち悪い男の発言を思い出して欲しいんですが、例の彼の仕業で世界が滅ぶなんて一言も言っていないんです」
え、と間の抜けた声を同時に発する華恋さんと香月さん。
あたしはそれに構わず続ける。
「あいつは、こう言ってました。彼は世界を滅びに導くトリガーだと。つまり、彼は世界の終末装置の引き金にすぎないんです。
そして、彼は自分でその事実を知っている可能性が非常に高い」
あたしは少しの間を置き、続ける。
「つまりですね、単純に生き返ることができて、尚且つ、自分が殺されたことを覚えているのなら、間違いなくヤバイ女がいない場所まで逃げるはずです。
だけど、彼はそれをしない。
この間、あたしが出くわした華恋さんの殺害決行でも、彼は碌に抵抗しようとしていなかった。まるで、殺されること自体が彼の目的であるように」
「御託はもう沢山よ。早く、結論を言いなさい」
もう我慢ならない、と若干ヒステリー気味に華恋さんは急かす。
あたしは内心で肩をすくめながらも続ける。
「これらの事柄を総合して考えるに彼を華恋さんが殺せば殺すほどに世界は滅びに近づいていくのではないのでしょうか。勿論、これはあたしが提示する可能性の一つですので、信じるか信じないかは華恋さんと香月さん次第ですけれど」
少しの沈黙の後、
「まあ、言わんとしていることは分かったけれど、キミはどうして彼が殺されれば殺されるほど世界が終わりに近づくって考えるのかな?
確かに彼の能力は凶悪で使えば使うほどに世界が滅びに近づいていくって訳なんだけれど、華恋だって本当は――」
「それから先はいくら香月でも許さないわよ」
香月さんの言葉を華恋さんは強制的に遮る。
「ごめん。だけど、単純に自分の存在で世界が滅びるから華恋に殺して欲しがっている、って考えもできるんじゃない」
そう香月さんがしどろもどろに切り出した。
まあ、そういう考えもあるでしょうね。けど――
「それなら、華恋さんに頼み込んで何とか殺してもらうように交渉なり何なりするはずだと思います。
けれど、それをしない。
むしろ、悪意をもって世界を滅ぼそうとする悪役だと思われていた方が都合がように見えます」
「じゃあ、あいつは何のためにそんな回りクドイやり方でこの世界を滅ぼそうとするのよ?」
彼のホワイダニットをあたしに問う華恋さん。
この話をしてから誰も手を付けない飲み物が入ったグラスが汗をかいたように水滴まみれになっている。
あたしは頼んだアイスコーヒーをブラックのまま半分ほど飲んでから、
「さあ、そればっかりは本人に訊いてみないと何とも言えませんけれど、恐らくは――」
「探偵気取りもそこまでにしてもらおうか。
『俺とあんたはそもそも俺の家で寛いでいた。
――因果変換式 ラプラス』
今日の夜、あの公園で待ってるぞ」
一瞬の出来事で全く事態が把握できないが、気が付くとテーブルを挟んで誰かと向かい合っている。
その人物はつい最近会ったばかりのあの男。
「よう、久しぶりだな」
拉致したあたしに対する第一声はそんな呑気なものだった。




