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死後(デッドイン)  作者: 糞袋
第四章・断罪
92/113

何でだよ

 何で前回の更新から一週間以上経ってしまったんだ!おのれディケイドォォォォォォ!!!

※


「・・・美しい信頼関係だなぁ、おい」

 ゴッツが前方に居るマイティに対して言った。言葉の内容は当たり障りのないものであったが、しかいそんな台詞を吐くゴッツの表情には多分に嘲りが含まれていた。

「まさか、テメェがそういった信頼関係を築けるような類の人間だとは思わなかったぜ。まぁ、またいつか裏切るだろうがよ」

 ゴッツの言葉に、マイティは答えない。かと言って、何もしない訳では無かった。彼は、掌から一瞬で黒い鎖を一本吐き出すと、それをゴッツに目掛けて鞭の様に振るったのである。

 黒鎖はおおよそ自然法則の中に則って普通に振ったのでは発生しないような速度としなりで以てゴッツに襲い掛かった。これもまた鎖を自在に生み出し操るマイティだからこそ成し得る技であろう。

「学習しねぇなあ、テメェは」

 しかし、その風を切って唸る黒鎖すらゴッツには取るに足らない存在の様で、彼はそれを空中で掴んだ時のように、向かってくる黒鎖に手を伸ばした。

 だが、ゴッツがいままさに黒鎖を掴むというその瞬間、いきなり黒鎖が空中で蛇行して彼の手を避けた。そして、続けざまにゴッツの上腕に絡み付くと、そのままコンクリートの地面に向かって彼の体を引っ張った。

「うおっ!?」

 そんな声を発しながら、しかしゴッツはコンクリートの上で踏ん張る素振りを見せた。だが、マイティの鎖の力にコンクリート自体が耐えられなかったのか、ゴリッという音と共にゴッツの足裏によって抉れてしまった。そのせいで足場を無くしたゴッツの体は、巻き上がるコンクリートの粉塵の中、地面に叩きつけられた。

「ふんっ」

 今が攻撃のチャンスと思ったのだろう。舞い散る白っぽい土煙の向こうに見えるゴッツのシルエット目掛けて、ゴッツは息と共にそんな音を口から出しながら、鎖の鞭を振り下ろした。

 ゴッという鈍い音ともに、人影を包んでいた煙が縦一文字に裂ける。すると中から、頭上で腕を交差させて鎖を防いでいるゴッツの姿が現れた。その棘塗れの顔からは疲労の色は浮かんでいない。どうやら、彼はまだまだ余裕らしい。

「・・・」

 そんなゴッツの姿を瞳に映すと、マイティは直ぐさま心象を切り、掌から伸びる鎖を消した。鎖を掴まれて、反撃されるのを防ぐために。

「英断だな」

 そんマイティの行為に対し、ゴッツは立ち上がりながらそう言った。そんなゴッツの言葉に対して、マイティは眉一つ動かさずに言う。

「・・・並みの野郎なら、今ぐらいの力で引っ張れば脱臼どころか腕が千切れるんだがよ。どんだけその状態は硬ぇんだ」

 マイティがそう言いながら見つめるゴッツの怪物の様な腕は、不自然に長くなったりも、ましてや分離したりもしていなかった。

 マイティの言葉にゴッツは、今まさに引っ張られた方の腕をこれ見よがしに二回転させると、こう言った。

「少なくとも、今のテメェの攻撃を一切通さないぐらいは硬ぇよ。眼球を含めた全身の部位、一つ残らずな」

 その言葉を聞いて、マイティは間を置かずに口を開いた。

「・・・あの時にその状態になってりゃ、今頃俺にそこまで殺意を向けるようなことも無かっただろうにな。怪物みたいになっちまった今のテメェを見れば見る程、何であの時テメェがその状態にならなかったのか分からなくなるぜ」

「言っただろ?あの時は気分が乗らねぇうちに倒されちまってたって。自分でも気にしてんだから、蒸し返してんじゃねぇよ」

 そう言うや否やゴッツは姿勢を低くすると、まだ己の周囲に僅かに漂っていた土煙を散らせながら、マイティに凄い勢いで突っ込んできた。その様はまるでロケットブースターを付けたブルドーザーのようだ。

「悪かったなぁ心の傷を抉っちまってよ」

 そんなことを言いながら、マイティは迫りくるブルを闘牛士の様に必要最小限の動きでヒラリと避けた。回避の際にもその顔と体はゴッツに向けられている。先程の削り岩の様な、避けたと思ったら手痛い攻撃を喰らうことになったという事態を、避けるためであろう。

 そのマイティの行動が功を奏した。ゴッツがマイティの右隣を凄い勢いで通り抜けると思いきや、いきなりその岩棘塗れの体がコンクリートの削れる音と共にピタリと停止したのだ。ゴッツの足裏に生えている強固で鋭利な岩棘が、地面のコンクリートに強く食い込むことでその無茶な急停止を実現させたようだ。とにかく、マイティの真横で急停止したゴッツは、地面に足を固定させたまま、ノールックで右の拳を繰り出して来た。体重の乗り切っていないジャブのようなその高速のパンチは、しかしゴッツの元から在る膂力と拳に生えている岩棘による天然のメリケンサックによって、かなりの殺傷力を宿している様に思われた。

 不用意にサイドステップによって様子を見ずに回避をしていたならば確実に側頭部にめり込んでいたであろうその拳を、マイティは鎖の巻いてある右腕でガードした。更に、マイティはそのガードによって殺しきれなかった衝撃を追い風にして、後ろに大きく飛んで距離を開いた。

「ちょこまかと逃げやがってよぉ」

 自分から離れていくマイティを前にして、ゴッツは舌打ちした。と同時に体の向きをマイティの方へ変えると、ゴッツは腰を落として再びマイティ目掛けて突進した。その際に彼の両の腕は左右に大きく広げられており、それが接触面積を増やしていた。

「だが増えてんのは横の面積だけだ」

 そう言いながら、マイティは大きく跳躍した。ゴッツが丁度己の足裏よりも1ⅿは下を通るぐらいに。

「だからって飛ぶのは安直が過ぎるんじゃねえか!?」

しかし、そんなマイティの丁度真下でゴッツは再び足裏の棘を利用した急停止を行うと、その太い腕を上空に居る憎き男の脚に伸ばした。

「それはどうかな」

 だが、そんなゴッツの腕がマイティの脚に届くことは無かった。更に言えば、マイティが自由落下を始めることも無かった。

「テメェ、今俺達が戦ってるところが何処か、忘れた訳じゃねぇよな」

 そう言いながらマイティは掌から黒い鎖を伸ばしていた。その鎖は、彼の真後ろにある大きな建物から突き出た看板に絡み付いていた。そして、マイティはそのままの状態で鎖を掌に呑みこんでいた。そうすることで、彼は己の体を自分の上に存在している看板の方へと引き上げていた。

 どんどん遠のくマイティを見上げながら、ゴッツは呟くように言った。

「・・・成る程なぁ。この街みてぇなコンクリートジャングルでは、テメェはあちこちにある障害物に鎖を巻きつけることでターザンの真似事が出来るってことか。・・・だがぁよぉ!」

 それまで独り言の様に静かだった口調を、突然激しくさせながらゴッツは足に力を込めた。そして、

「そういう縦横無尽な動きがテメェの専売特許だと勘違いすんじゃねぇ!!」

 と叫ぶと、凄まじい勢いで跳躍した。その見るからに重厚な体は、しかしまるでミサイルの様に勢いよく重力に逆らった。だが、

「いくらアンタの身体能力がスゲェからっつってよ。所詮ジャンプだ、俺には届かねぇぞ」

 マイティの言う通り、ゴッツの体はかなり高い地点まで上がったとは言え、途中で失速してきていた。その様はまるで、今まで己の存在を無視され続けていた重力が、ゴッツに必死に縋りついてるようでもあった。

「誰がジャンプだけでテメェに追いつくっつったよ」

 ゴッツはそう言うと、その右腕を目前のコンクリートの壁に叩きつけた。壁が抉れてゴッツの岩の拳がめり込み、彼の体重を支える。そして、その壁を足場ならぬ腕場にして、ゴッツは右腕を下に振り下ろすように力を入れることで、己の体を上へと移動させた。その力任せな一瞬の上昇の間に、今度は左腕を壁にめり込ませると、再び力を入れて壁を上る。それを高速で繰り返すことで、ゴッツはどこまでも破壊的なウォールクライミングを行っていた。

「テメェの鎖の引き上げる力と俺の筋力、どっちが上かな!?」

 そう叫びながら、ゴッツは信じられない速さでマイティとの距離を詰めていた。 

「チッ、怪物がぁ」

 そう呟きながらも、マイティはそのゴッツの気迫に気圧されることなく辺りを見渡すと、今度は自分の前方にある建物の縦長の看板に鎖を伸ばして巻きつけた。そして、彼はその状態で上の看板に結んである鎖を消すと、直ぐさま前方の看板へ繋がる鎖を己の腕に呑みこんだ。

「逃がすかよ!」

 しかし、ゴッツはそんなマイティの姿に、瞬時に鎖が現在巻き付いている看板の方へ顔を向けると、両腕を今まで自分が穿ってきた建物の壁にどちらも突き刺した。そうすることで体を完全に建物に固定した彼は、今度は両足を建物の壁に着けた。そして、先程コンクリートの地面でそうしたように、壁をしっかり❝踏みしめる❞と、一気に両足でもって蹴り出した。その岩棘塗れの体は壁から直ぐに離れて、流星の様にマイティ目掛けて飛んだ。

「糞っ、しつけぇなぁ」

 しかし、マイティがそう言った瞬間に、それまで真っ直ぐ壁目掛けて伸びていた鎖が、急にぐにゃりとしなった。それはまるで、スプーンのような固い金属が無理やり曲げられたようであった。とても、鎖の様な多関節で柔らかな動きをするものが曲がる様には見えなかった。どうやら、マイティは己の鎖の連結を、棒の様に固くすることも出来るらしい。とにかく、彼はそうすることで空中にて瞬時に軌道を変えたのである。

 対してゴッツはそうはいかない。何故なら、彼の空中移動は完全に自分のキックによる運動エネルギー便りのものだったからである。生憎、彼は慣性の軌道を歪める術は持ち合わせてはいなかった。故に、彼はそのまま看板に突っ込み、それを粉砕した。

「あぁクソったれ。これじゃあナックルに先輩として示しがつかねぇぜ」

 鎖をしならせることで完全に己の運動エネルギーの向きを地面へと変えたマイティは、空中にて心象を切り着地すると、コンクリートの上でばらばらと降ってくる看板の残骸を見ながら、舌打ちをしながらそんなことを言っていた。普段から、町の建造物等に対する被害は最小限に抑えろとナックルに言っているのだろう。

 だが、そんなある意味平和ともいえる心配をするマイティの視界に、突如として恐ろしいものが映った。それは、看板の残骸と共に地面目掛けて降ってくるゴッツの姿であった。

「・・・」

 無言で、マイティはゴッツの落下地点を予想して、そこから距離を取る。それから3秒も経たないうちに、轟音と共にゴッツがコンクリートの地面に着地した。巻き上がるコンクリートだったものの粉塵が岩の怪物の姿を隠す。

 そんな煙幕の方へ右掌を向けると、マイティはそこから目にも留まらぬ速さで一本の鎖を放った。ヒュンという音と共に、煙に穴が開く。と同時に鎖が揺れた。煙の向こう側に潜むゴッツにその黒い先っぽが触れたのであろう。

「・・・」

 鎖が揺れた瞬間、マイティは心象を切った。と同時に、今度は左掌から黒鎖を放った。それはまるでレーザーの様に鈍い金属光沢の尾を描いて、煙の中に突き刺さると再び姿を消した。

「・・・・・・」

 その瞬間から、マイティは一秒間に六発くらいの速さで、右と左の掌や腕から鎖を放ちまくり、煙の向こうにあるであろう岩の体に攻撃を与えまくった。ガガガガガガガッという固いものを叩く音がひっきりなしに辺りに響く。その様はまるで、マシンガンを岩に向かって乱射しているようであった。マイティによる鎖の弾幕が、何べんも何べんもゴッツの岩の体を叩いている光景が、散っていく煙の中で繰り広げられていた。だが、

「成る程、大した攻撃密度だ。しかも俺に掴まれないように、一発一発が計算されて撃ち込まれてやがる。・・・だが悲しいかな、俺の岩の体には全くダメージが通ってねぇよ」

 そう呟くゴッツの顔に、痛みに呻くといったような苦悶の表情は見られなかった。どうやら、虚勢では無く、ただ事実を述べているだけらしい。しかし、そんなゴッツの言葉を受けても、マイティは攻撃の手を緩めなかった。それを見て、ゴッツはやれやれといった様子で溜め息を吐いた。

「聞く耳持たずってかこの野郎。良いぜ、だったら今からテメエの鎖のシャワーを浴びながら、テメェの近くまで悠々と歩いて行ってやるよ。耳元で言えば、流石に聞こえるだろうからな」

 ざらついた声でそう言うと、ゴッツはゆっくりと歩を進め始めた。その言葉通り、彼にとってマイティの攻撃はシャワー程度のものらしく、その足取りは全く緩まない。しかし、そんなゴッツを前にしても、マイティは攻撃の手を緩めない。黙々と鎖を放ち続けた。

「・・・効かねぇって言ってんだろ」

 歩きながら、苛立ったように声を荒げるゴッツ。しかし、それでもその足はゆっくりと前へ進んでいた。まるで、マイティに自らの余裕を見せつけるように。


「何焦ってんだよ」


 だが、そんな威風堂々としたゴッツの進撃に対して、マイティは何故だかそんな言葉を吐いた。

「・・・あ?」

 依然止まない攻撃の中で、ゴッツはその岩棘に塗れた相貌をしかめた。しかし、その表情は怪訝そうなものでは無かった。

 そんなゴッツの応対を見て、マイティは不敵に笑った。

「・・・心象(イメージ)は魂気(ソウル)を消費することで発生する」

 そして、いきなりそんな脈絡の無いことを、マイティは言い始めた。そんなマイティに対し、しかしゴッツは嘲ることも無く無言で近付いていく。マイティはその姿を見ながら続けた。

「心象によって、消費する魂気の量は違う。火を操ったり電気を操ったり出来る汎用性の高い強力な心象は、代償として多くの魂気を必要とする。対して、ただの筋力強化みたいな地味な心象は、消費する魂気の量は少なくて済む」

 つらつらと言葉を連ねながら弾幕を解かないマイティに対し、やはりゴッツは近付いていく。心なしか、その足は少しだけ速度を増しているようであった。

「更に、同じ人物が使う同じ心象でも、より強力な技を使えば使おうとするほど、消費する魂気量は多くなる。例えば、俺なら鎖の強度や伸縮速度を上げれば魂気の消費量は増える。例えば、テメェなら体の硬度を上げたり、・・・そんな怪物の姿に変化したりすれば、魂気の消費量は増えるだろう。ところで、ここで質問なんだがよ」


「テメェの魂気の残量、幾らだ」


 マイティがそう言う頃には、ゴッツは歩くのではなく全速力の突進によって距離を潰してきていた。風をその全身の岩棘でずたずたに引き裂きながら、ゴッツはマイティ目掛けて右手を伸ばした。加速した突きが、未だ止まない鎖の弾幕をかき分けながらマイティに迫る。

「猪かよ」

 だが、その突きはマイティに届くには直線的過ぎた。故に、マイティはその突きを難なく躱して、更に通り過ぎていくゴッツの右足首に黒鎖を二本巻き付けると、両腕でその鎖の根元を掴み全身の筋肉を隆起させながら全力で引っ張った。

「うぐぅっ!?」

 足裏がまだ地面に食いこんでいない状態で脚を捕られたゴッツは、勢いを殺すことも出来ずに高速でコンクリートの地面に激突した。その瞬間にマイティが鎖を消したために、ゴッツはその身をもって地面を削り滑った。しかし、瞬時に立ち上がると、咆哮を上げながらゴッツはマイティの方へ振り向いて、地面を蹴った。

「テメェが変身した直後に『あの時は気分が乗ってなかったから変身できなかった』って言った時からどうにも腑に落ちなかったんだ。確かに突然のことだったとは言え、あんなにギリギリまで戦った挙句に気が乗らないことなんてあるのかってよ」

 しかし、ゴッツのその突進もやはり猪突猛進気味で、マイティは簡単にそれを回避しながら、話し始めた。

「だが、こう考えれば納得がいった。あの時は、ギリギリまで戦ったからテメェは変身できなかったんじゃねぇのかってよ。つまり、テメェが『変身しねぇとやばい』って危機感を覚えた頃には、既に変身するための魂気が残ってなかったんじゃねぇのかってよ。まぁ、もう少し早く気付けていたら、テメェの削り岩を喰らうことも無かったんだろうがな」

 口を動かすマイティに向かって、ゴッツは先程見せた急停止からのジャブを繰り出した。しかし、既に見た手を、それも搦め手めいた攻撃を喰らってやるほど、マイティはお人よしでは無かった。故に、マイティはその右ジャブをこれまた難なく避けると、その棘塗れの右手を鎖で甲をした両腕で掴んで、そのまま腰を落として背負い投げた。どこか冷静さを欠いているように見えるゴッツは咄嗟に踏ん張ることも出来ず、コンクリートの上に転がされた。

「そこまで考えて俺は思った。ならば、テメェの魂気の残量を、あの頃の戦闘時間から導き出すことも出来るんじゃないかと。それで、俺はテメェからちょこまかと逃げ回った。逃げ回りながら考え、遂に残量を割り出した。そして、こういう結論に達した。『テメェがその形態に変身していられる時間は、残り僅かだ』ってな」

 そんな言葉を上から吹っ掛けられて、ゴッツはいよいよ動揺も苛立ちもピークに達したのか、渾身の力で以て跳ね起きながら、その勢いを利用してマイティに向かって左のラリアットを放った。

 だが、そんなゴッツに向かってマイティはあろうことか前進した。そして、左腕に巻き込まれる寸前で、その体の右横を通り抜けた。すれ違いざまに、マイティは言った。

「左腕を振り切る前に横を通られたんじゃ、反動もつけようがねぇから削り岩も出せねえだろ」

 その言葉通り、ゴッツの右腕はその真横をマイティに通過されてる最中にも、力を溜めるばかりで動かなかった。そして、動き出した頃には既にマイティはその後ろに立っていた。

「何で俺が10年も前のテメェの戦闘時間から、今のテメェの魂気の残量を割り出せたのか分かるか。それはな、テメェがこの10年間心象を使うことが基本的に許されていない獄牢の中に居たからだ。心象を使わなければ魂気が増えることは無ぇ。キツイ基礎練を積まなきゃスタミナが増えねぇようにな」

 ゴッツの削り岩により発生した、ブオン!!という空気が抉れる轟音を前にして、マイティはそう言った。その瞳はゴッツの岩棘塗れの体に向けられている。その視線は、何処か罪人を憐れむような修道女のようでもあった。

「クッソッ・・・がああああああああああああああ!!!!!!」

 瞬間、ゴッツが叫んだ。その叫びからは色々な感情が読み取れた。憤怒、憎悪、そして焦燥。何一つとして冷静で穏健なものは無い。彼の今の姿の様に、怪物じみた想いで満ち溢れていた。

 そんな怪物的な咆哮を上げながら、ゴッツはマイティの方に振り向いた。振り向きながら、左拳をマイティに向かって放った。その拳は、先程の削り岩の不発によってしっかりと捩じられた腰から発生した反動により、凄まじい勢いを獲得していた。風を食み、空間を喰らい、最後は獲物(マイティ)を噛み砕こうと、雄叫びを上げながら迫ってきていた。


 しかし、その拳がマイティに到達する前に、腕の表面に生えている岩の棘が消えた。そして、ただの人間の腕が顔を出した。と、同時にゴッツの姿が怪物から人間に戻った。瞬間、ゴッツの変身の際に破れた衣類も、高速で再生した。変化していないのは、ゴッツのどす黒い心一つだけだった。

「時間切れだな。まぁ、魂気切れよりはマシか」

 苦虫を噛み潰したような顔をしているゴッツを前にそう言いながら、マイティはその拳に鎖を巻いた己の拳を打ち付けた。ベキャリ、という音がした。心象が解けてしまったゴッツの拳と、鎖で守られているマイティの拳とでは、どちらが今の粉砕音を発したのかは、火を見るより明らかであった。

「ぐ・・・」

 拳を後ろに引きながら、ゴッツは呻く。しかし、直ぐにマイティの方を向くと、今度は右拳で以てマイティを殴ろうとした。その右の拳には既に鋭い岩肌が張り付いている。また、その勢いも先程の心象が切れた時よりも増していた。足裏に岩肌を張り付け、それによって地面のコンクリートに我が身を固定したようだ。どうやら、最低限の心象はまだ発動出来るようであった。

「まあ、それでもさっきと比べりゃあ大したことは無ぇがな」

 しかし、その拳を難なく避けると、マイティは鎖を巻きつけた右足で、ゴッツの腹に前蹴りを叩き込んだ。

「ごはぁっ!?」

 吹き飛ぶゴッツ。その口から胃液が漏れる。どうやら、体は最初に心象を使った時に見せたレベルの硬度にすら達してはいないらしい。それ程までに、先程の怪物への変化で魂気を消耗したということであろう。

 地面に横たわるゴッツに対して、マイティが言う。

「・・・もうこんぐらいで良いだろ、ゴッツさん。これ以上やっても、一方的なリンチになるだけだぜ」

 そんなマイティの言葉を聞き、しかしゴッツはコンクリートに血の混ざった唾を吐きながら、立ち上がって言った。

「・・・何だぁ?そこまでして俺を殺したくないのか?それとも、ここで攻撃を止めることで自分に言い聞かせようってのか?『俺はあの頃とは違う。おれはもう正義の味方側の人間だ』ってよお。これだけは言っとくぜマイティ。どんな免罪符だって、テメェを日向の元歩かせるには、全くもって力不足ってもんだ。テメェの肌の色の様に、テメェの性根も真っ黒だからよぉ!!」

 その言葉がマイティの鼓膜を揺らした次の瞬間。


≪絞殺行軍(チョーク・マーチ)≫


 彼の左腕から出た数多の鎖群がゴッツの左腕と左脚に絡み付き、それを絞め潰した。

「がっ・・・ぎゃああああああ!!!!」

 己の左腕脚の筋肉、神経、骨、全ての体組織をミンチにされた激痛で、ゴッツが喚く。そんなゴッツに対して、鎖を消してからマイティが言う。

「・・・もうこんぐらいで良いだろ、ゴッツさん」

 その言葉には、途轍もない威圧感が込められていた。その言葉は、途方も無い殺意で陰っていた。

 しかし、そんな言葉を前にしても、ゴッツは笑った。

「ぎゃは、ぎゃははははは!!こいつは傑作だ!!『絞殺』って大層な名前が付いてる技の癖に、その実四肢の半分を磨り潰すだけで終わりだなんてよぉ!!名前負けも良いところだぜマイティ!!!」

 そう叫ぶや否や、ゴッツはマイティに向かって右足一本で襲い掛かった。駆けるというより片足ケンケンに近い移動をしながら、ゴッツは右拳を振り上げた。どう見てもぎこちない、勝ち目の無い攻撃を仕掛けるゴッツの顔は、しかし笑っていた。狂ったように、笑っていた。


「何でだよ」


 そんなゴッツを前に、マイティは一言そう言った。そして、目前まで迫ってきた右拳を躱すと、彼は鎖を巻いた己の右拳で、ゴッツの腹部を打ち抜いた。たまらず腰を折るゴッツのその顎を、マイティはすかさず右アッパーでかち上げる。そして浮いたゴッツの頭部目掛けて、マイティは鎖を巻いた右足による回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 全部私のせいだ!

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