つまり単なるチョッピングライト
チョッピングライトという言葉ははじめの一歩で知りました。
マイティの咆哮を受けても、しかしゴッツは何も答えない。依然変わらず、ゆっくりと距離を潰していく。マイティの方も、自分の叫びがゴッツを更生してくれるなどと、今更微塵も思っていなかった。故にマイティは至って冷静沈着に策を練った。
(・・・この形態になることで、この人は一回りも二回りも体格がデカくなった。全身から生えてる岩の棘もそれに合わせて巨大化した。・・・リーチは今までよりも格段に長くなってる。それは厄介だ。だが、その分スピードは。ごつくなった分、今までよりも動きが鈍重になるんじゃないか。見るからに、体重は増えてるしな)
足元のコンクリートを踏みしめながらゆっくり近付いてくるゴッツを前に、マイティはそこまで考えた。そして、
(・・・スピードで攪乱するか)
とい結論に、ごく当たり前の様に至った。ごく当たり前の様に至った、しかしその時だった。
ゴッツが、消えた。
「っ!」
いきなり視界から居なくなったゴッツを前に、しかしマイティが覚えたのは困惑では無く、既視感であった。
「上かぁぁぁぁ!!!」
そう叫ぶと、マイティは顔を上げて、その先に居たゴッツ目掛けて、まだ鎖にがんじがらめになっていない右掌の部分から、黒鎖を放った。
「良い判断だ。だが遅い」
しかし、ゴッツは空中に居ながら、その黒鎖を左手一本で掴み取った。そして、そのまま力を込めてその鎖を引っ張った。
「うぉっ!?」
物凄い力で鎖を引っ張られたことによって、マイティの体勢が崩れた。それどころか、空中にそのまま引っ張り上げられそうですらあった。しかし、空中に引き上げられるよりも更に危険なことが、マイティの身に起ころうとしていた。
鎖を引っ張った反動で、ゴッツの体が高速でマイティ目掛けて飛んできたのである。
「さぁ、どうする」
そう呟きながら、ゴッツは勢いそのままにマイティに向かって右拳を繰り出した。
「な、めんなぁぁぁぁぁぁ!!!」
しかし、マイティもその拳を黙って受けるようなことはしなかった。何故なら、そうしたら死ぬからである。マイティは生きるために、己の左腕に巻き付いている鎖を延長して、グローブの様に左拳に絡めた。そして、その黒い鎖で守られている左拳を突き上げた。
岩の拳と鎖の拳がぶつかり、固い音をたてる。
「おおおおおぉぉぉ!!!」
マイティが気合を発しながら、相手の右拳を左拳で弾いた。とは言っても、真正面から弾き返したのではない。力の向きを逸らすことによって、受け流すような形で弾いたのである。
「おっと」
そんな軽い声と共に、ゴッツは未だに掴んでいる鎖に力を籠めようとする。しかし、その刹那、鎖が彼の掌の中から消えた。マイティがとっさにその部分の心象だけを切ったのである。そのせいで勢いそのままに地面に放り出されるゴッツであったが、すぐに空中で体勢を立て直して地に降りた。
「へぇ、器用になったなマイティよぉ」
「今度は小細工とは言わねぇんだな」
ゴッツの軽口にそう答えながらも、マイティは内心焦っていた。
(・・・今の視界から消えるぐらいのハイジャンプ。ショウタロウ程じゃねぇけど、それでもとんでもない。少なくとも、あんなガタイした奴の跳躍力じゃねぇよ。あいつの周りだけ宇宙空間かよ畜生。重力仕事しやがれ)
ゴッツの見せた身軽さに、マイティはそんなことを思いながら、次の策を考えた。
(さっきの拳と拳のぶつかり合い。あれから推測するに、この人のパンチ力は俺と互角かそれ以上だ。パワー勝負じゃあ分が悪い。だが、スピード勝負もこっちが絶対に有利とは言い難い。・・・どうする)
しかし、考えども考えども、浮かぶのは自分が不利だという苦い事実だけ。打開策はいつまでたっても見つからない。だが、それより何より痛いのは、
「なぁに難しい顔してんだ。もっと楽しめよ」
マイティが考えている間にも、ゴッツは攻撃の手を緩める気配が無いということである。今も、ゴッツは首を砕き飛ばすような圧を含んだ右ラリアットを、マイティの首に叩きつけようとしていた。
「くぅっ!」
たまらず、両腕でガードするマイティ。黒い鎖の鎧が、彼の両腕を守る。しかし、
「どうした、血が出てるぜ」
マイティの頬には一筋の赤い線が走り、そこから血液が滲んできていた。ゴッツの腕自体は防げても、その腕から生えた棘は防げなかったようである。証拠に、彼の右腕から生えている長い棘の一本の先のみが、赤く濡れそぼっていた。
「どの口が言うんだこの野郎」
腕が塞がっている為拭うことが出来ず、ただ流れるままになっている血液を感じながら、しかしマイティは不敵に笑う。そんなマイティを見て、ゴッツは棘で少し隠れている口元を嬉しそうに歪ませた。
「まだ軽口が叩けるか。こりゃあ良い」
そう言うと、ゴッツは左前蹴りでマイティを蹴り飛ばした。
「ごふっ!!」
鎖の腹巻によって、辛うじて足裏の棘による貫通は免れる。しかし、それでも鎖越しから伝わってくる凄まじい圧。まだゴッツが原型を保っていた頃に放ってきた前蹴りよりも、今の前蹴りの方が破壊力が上なのは、火を見るよりも明らかであった。
「くっそがぁ!!」
しかし、それでも鎖がダメージを軽減してくれた。それが故に、マイティは空中で体勢を整え、下のコンクリートに着地して、ゴッツの次の攻撃に備えることが出来た。
だが、マイティが着地したころには、既にゴッツは左手を振りかぶったまま、彼の50㎝程前方にまで迫ってきていた。
「だがこれで終いだ」
棘と共に動く口と、ざらついた声。目で耳でそれらを感じながらマイティは、
「んな訳無ぇだろ!!」
即座に繰り出されてきたゴッツの左ラリアットを、スウェーで間一髪避けたのであった。
(あんだけ大ぶりな攻撃だ。しかも見るからに勢い付いた攻撃だ。それを避けたんだ。勢いそのままに無様に転がるか、そうでなくても体ががら空きになるだろ。そうすりゃあ、いくらでも料理のしようはある)
上半身を逸らせたままの刹那の中で、マイティはそんなことを考えた。そんなことを考えながら、相手の転ぶ先を見るために、ゴッツの足元を見た。
刹那、マイティの背筋は凍り付いた。ゴッツの脚は、マイティの隣を転げていくどころか、吸盤の様に地面にめり込んでいた。足裏の棘が突き刺さって固定されているらしく、しっかりと静止していた。そして、その足は左脚だった。これの意味するものが何なのか、マイティにはすぐ理解できた。
「終いだっつってんだろ」
その一瞬の中で、自分の体に脳からの信号が届くか届かないかのギリギリの中で、マイティの左耳がそんな声を拾った。しかし、そちらを見ることは出来ない。否、間に合わない。
左ラリアットの目的は、攻撃では無かった。目的は別に二つあった。一つは、マイティに回避させ、それで一旦行動を終了させること。もう一つは、”本当の攻撃の下準備”をすること。
ギギギギ、という岩と岩の軋る音が聞こえた。そしてそれは、岩石と化したゴッツの筋肉が、左ラリアットにより生じた捻じれを元に戻そうとしているから発生しているのだろうと、何となくマイティには思われた。そして、その捻じれの解消が、同時に攻撃の加速につながることも、マイティには理解できた。
左脚と右脚は既に固定を終えていた。脚の筋肉を使った上半身の回転及び加速も、既に終わっているようであった。
それら全ての事実が、マイティには瞬時に理解できた。それは、一種の走馬灯のようでもあった。そして、その中でマイティは上空から自分に振ってくる、隕石の様な右拳を垣間見た。
《削り岩》
下半身の固定により重厚且つ堅牢になった右拳が、全身を用いた加速により唸る。その拳から生えた棘は空気を引き裂き、掻き混ぜ、小さな乱気流を生み出しながら進んだ。そして、遂に風の悲鳴を纏った怪物の右拳は、一寸の狂いも無しにマイティの腹に叩き込まれた。
基本的に本作品に出てくる理論は出鱈目です。本当にすいません。ちなみに今回の話に出てきたパンチが本当にチョッピングライトかどうかも分かりません。それも本当にすいません。あと、個人的にガゼルパンチとカエルパンチとラビットパンチが好きです。




