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死後(デッドイン)  作者: 糞袋
第四章・断罪
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チェーンマンと化け物岩

 こうしてみると、絵本のタイトルみたいですよね。

「周囲の一般人を避難させろ。今すぐにだ」

 マイティがダイゴにそう言った時であった。ゴッツの仲間と思われる二人が動いた。

「食らえっ」

 マドルはそんな叫びと共に、ナックルに向けて火の付いたダイナマイトを投げつけた。

 しかし、ダイナマイトが爆発する前に、ナックルはその導火線の火を高速の左フックによって消し飛ばした。

「な、何をするんだ!」

 ナックルがそう叫んでいる10m横を、一般人達が悲鳴を上げながら走り抜ける。ダイゴの叫びを聞いたからだ。

「男が暴れてるっス!!ここは危険っス!!早く逃げて下さいっス!!!」

 その時、避難している一般市民に紛れて、フードの人物がその場から逃げようとしているのが、ダイゴの視界に映った。

「あっ、オイ!!テメェ待てこの野郎!!」

 一般人の避難が全て完了していることを確認してから、ダイゴはそのフードの人物を追い始めた。


走り去っていくダイゴの後ろ姿を横目で見てから、ナックルは前方に居るマドルを睨みつけた。

「クソガキィ、お前・・・」

「説教なら後で聞くよ」

 しかし、そんなナックルの凄みなど意にも介さず、マドルはその場から走り出した。丁度、ダイゴがフードの人物を追う為に行った方向とは別の方向へ。

「このっ、待て!!」

 そう叫んで走りながらも、ナックルは少しばかり安心していた。マドルが先程の様にダイナマイトを辺りにばら撒くことでマイティの戦闘が邪魔される可能性が、その時点でかなり低くなったからである。

(マイティ・・・)

 心の中でバディの名前を呼びながら、ナックルはマドルの後を追った。


 その場から誰も居なくなったことを気配で察してから、マイティはゴッツに言った。

「ゴッツさん、アンタ・・・!」

 マイティの左腕に己の右腕を押し付けたまま、ゴッツは返した。

「何だ?もしかして、更生したんじゃないのか、とかなんとかほざく気じゃあ無いだろうなぁ」

 ゴッツはそこで言葉を切ると、マイティの左腕に押し当てたまま、右腕を引いた。瞬間、マイティの左腕から流れている血の量が増え、地面の血だまりが面積を増やした。

「ぬ・・・ぐぅ・・・!」

 マイティが激痛に呻くが、そこにゴッツの左ラリアットが放たれた。

「くそっ!」

 今度は右腕で受け止めるマイティ。しかし、衝突と同時にザクッという肉を刺す音が鳴り、右腕からも血が流れ始めた。

「どうだぁ?俺の心象の切れ味は。全然鈍ってねぇだろ」

 そう言うゴッツの右腕は、いつの間にか土色に変色していた。それだけでは無い。その肌からは棘のようなものが、無数に生えていたのである。その様はまるで、鋭く尖った岩肌のようであった。

「あぁ、アンタの『岩石(ストーン)』の切れ味は変わってないみたいだな・・・。でも、アンタは変わったんじゃなかったのか・・・?獄牢の中で真面目に働いて、釈放DPを稼ぎ切るくらいには、変わったんじゃなかったのかよ・・・!?」

 しかし、そんなゴッツの心象である『岩石』を右腕に突き刺されながらも、マイティは懇願するような声音で言った。そんな祈る様な問いに対し、ゴッツは笑ってこう答えた。

「俺が必死こいて働いたのは変わる為じゃなくて、テメェをこの手で削ぎ殺す為だ。何だ、変わって欲しかったのか?青いなぁ、テメェは昔から」

 刹那、マイティの腹にゴッツの前蹴りが決まり、その黒い体が場から吹っ飛んだ。と同時に、彼の右腕もゴッツの岩肌によって抉られ、血を噴き出した。

「っちくしょう!」

 そう叫びながらも、しかしマイティは簡単に地面に着地した。その体に、蹴りによるダメージは無いようだった。その様子を見て、ゴッツが顔をしかめる。

「何だ?テメェ、服の下に鎧でも着てんのかよ」

 その言葉に、マイティは自分の着ている服をたくし上げた。すると、その下から黒い鎖に巻き付かれた屈強な肉体が現れた。それを見て、ゴッツは再び顔に笑みを浮かべた。

「そんな小細工が出来るようになったのか。テメェらしい、せこい成長だな」

 その笑みを分類するのだとすれば、間違いなく嘲笑であった。そんな嘲笑交じりの言葉を受けて、マイティは服を持った手を離してから、ゴッツを見据えて静かにこう言った。

「逆恨みを10年も続けてきたテメェに、せこいって言われる筋合いは無ぇなあ」

 マイティがゴッツに向けている視線が、少しずつ陰を帯びていく。悲しみによる陰が、失望による陰へ。失望による陰が、怒りによる陰へ。

「・・・上等だ。今度は恨む気すら起こらねぇくらい、ボコボコにしてやるよ!!」

 そして、怒りによる陰が、敵意による陰に変わった時、マイティのスイッチが入った。そんなマイティに対し、ゴッツは薄笑いを浮かべた。

「やっぱり性根は俺達と同じ、日陰者なんだなテメェは。だが、まだ甘い。こういう時は、『ぶっ殺してやるよ!!』って言うもんだ!!!」

 そう叫ぶや否や、ゴッツは履いている土気色の靴を両方とも、マイティ目掛けて放った。かなりの速度で飛んできたその靴を、しかしマイティは首だけ動かして容易に避ける。だが、靴を避けた頃には、ゴッツの殺意の籠った岩の拳がマイティの腹部に到達していた。

 ガキィッ、という金属音と共に、マイティの体が先程の前蹴りの時以上に吹き飛んだ。しかし、マイティは直ぐに空中で体勢を立て直すと、地面に軽やかに着地した。

(足裏が地面に深く食い込んで固定された分、拳に重みが増したか)

 着地した先で冷静にそう解析しているマイティの耳の鼓膜を、ゴッツの笑い交じりの声が揺らす。

「ぐははは!まだまだ余裕じゃねぇか!昔のテメェなら、今ので腹に穴が開いてお陀仏だったぜ!!」

 見れば、ゴッツの裸になった足も腕の様な状態に、尖った岩肌の様な状態になっていた。それがスパイクの代わりをして、ゴッツの構えをより堅牢なものにしていたのである。

 楽しそうに笑うゴッツに対し、マイティも冷たい笑いを浮かべて言った。

「しっかし、飛ばした靴で目隠しかよ。テメェの方がよっぽどズッコイぜ」

「恩を仇で返すようなテメェと比べりゃ、俺の狡さなんて可愛いもんさ」

 そう言うと、ゴッツは今度もしっかりと地面に足をめり込ませると、凄まじい力で踏み込み、下にあるコンクリートを削り飛ばすほどの勢いで、マイティ目掛けて突っ込んだ。その岩肌の様な両腕は彼の体の前で交差され、空気を切り裂きヒュウと鳴いた。

「・・・良いぜぇ!!真正面から受けてやる!!!」

 しかし、そんな見るからに殺傷力の高そうな突進を前に、マイティは何を思ったのか自分も両腕を体の前で交差させると、腰を落として立ち塞がった。そして、マイティがその構えを取った直後、ゴッツが空気を削り抜きながら衝突してきた。

 だが、次の瞬間大気を震わせたのは、人体の、マイティの体が壊れる音では無く、硬いもの同士がぶつかったようなガギィンッ、という音であった。

「・・・こんな小細工も出来るようになったんだぜ。テメェが獄牢で相も変わらず腐っていた、その間によ」

 そう言うマイティの交差された両腕には、それぞれ幾重にも鎖が巻き付き、岩の剣から身を守る黒い鎧となっていた。

「腕に鎖巻いただけで、随分と得意気じゃねぇか」

 馬鹿にしたようにゴッツはそう言うが、しかしマイティはこう返した。

「何で俺が得意気なのか、テメェの体で理解しやがれ!!!」

 言うが早いかマイティは鎖を巻いた腕を勢いよく広げることでゴッツの両腕を払いのけると、がら空きになったその横腹に左ラリアットをめり込ませた。ゴッツの体が横に吹き飛ぶ。

「ぐはぁっ!!」

 口からそんな声を漏らしなら地面を転がるゴッツ。しかし、実際に食らったダメージは意外に少なかったらしく、直ぐに立ち上がった。そんなゴッツに対し、マイティが言う。

「・・・10年前なら、岩の小刀を纏ったようなテメェの体を殴ることなんて、俺はおろかショウタロウだってまともには出来なかったがよ。だが、この鎖のプロテクターを腕に巻ける今の俺なら、テメェの心象にビビること無く攻撃ぶち込めんだよ」

 その時、パラパラという何か無数の軽いものがコンクリートを叩く音が聞こえた。ゴッツが音の鳴る方向を見れば、そこには彼の腕と同じ色をした欠片が幾つも横たわっていた。どうやら、服の向こう側でゴッツの胴体に生えている岩肌の様な棘が、今のマイティの攻撃によって砕け散ってしまったらしい。

地面に散乱する己の体の一部だった物の残骸を見下ろして、しかしゴッツは再び哄笑を浮かべてマイティを見据えた。

「・・・あぁ、ありがとうよマイティ。テメェを殺す為の、単なる手段に過ぎなかったこの戦闘。・・・存外に楽しめそうだ・・・・・・!!!」

 刹那、ゴッツの上半身の服が破け、中から無数の岩の剣が出現した。と、同時に、ゴッツの両腕の岩肌も土色の剣山の様に変貌した。

「・・・テメェ、10年前はそんな姿にはならなかったよな。獄牢の中で、心象を強化するイベントでも発生したのかよ」

 どこかおちょくる様な声でそう問うマイティに対し、最早ところどころ破れたズボンと僅かに残った髪の毛にしか面影が無いゴッツはこう答えた。

「いいや、10年前からこの姿には成れたぜ。だが、あの時はまだ気分がノってないうちにやられちまったからな。この姿になる暇が無かったのさ。全く、お恥ずかしい限りだぜ」

 ざらついた声でそう言うや否や、ゴッツはマイティに向かって歩き始めた。

「・・・本気で化け物みてぇな見てくれだなオイ。遂に体が心に追いついちまったのかよ、あ゛ぁ!!?」

 ゆっくりと近付いてくる岩の化け物に向かって、マイティは複雑な表情でそう吠えた。

  

 まあ、だからどうしたって話ですけど。

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