起きてすぐのパジャマって何かヨレヨレ。あと変な臭いする。加齢臭とかだったら嫌だな。
僕だけでしょうか。
「お疲れダイ坊~、今日は大変だったね~」
ダイゴが待機室に入ると、そんなことを言いながらニゾウが彼を迎えた。
「・・・いえ、大丈夫っスよ!俺は!」
そんなニゾウに対し、ダイゴはそう答えて笑った。そんなダイゴの笑みを空気の振動で感じ取ったのか、ニゾウは言った。
「・・・いつでも頼って良いんだからね~」
瞬間、ニゾウに対して嘘を吐いても意味が無いということを、ダイゴは理解した。しかし、ニゾウはダイゴの強がりを知った上で、それを指摘せずに見逃してくれた。そのことが、今のダイゴにとってはたまらなくありがたかった。故に、ダイゴはそのまま大丈夫なふりを続けた。
「ぐへへへ、そいつはありがたいっス!んじゃあまた困った時には遠慮無く頼らせていただくっスよ!・・・ところで、ニゾウさんが俺を待ってるって、さっきサレムさんに聞いたんスけど?」
ダイゴの問いに、ニゾウは頷いて答える。
「儂がここでダイ坊を待っていたのはね~、ダイ坊にご褒美を渡すためだよ~」
「んあ?ご褒美っスか?」
ダイゴが首を傾げると、ニゾウは自らが纏っている黒い僧衣から、何やら巾着を取り出した。そして、そこから紫色のコイン状のもの、つまりはDPを出して、それをダイゴに差し出した。
「ダイ坊は今日捕り物をしたからね~、獄番から一万Pの報酬が出たのさ~」
「えっ・・・ああ、そう言えば紫色は一万だったっけか・・・、あっ・・・ありがとうございますっス・・・」
そう言って、ダイゴはその一万Pを壊れ物を扱うようにおどおどと受け取った。光を反射して紫色に輝くDPを瞳に映し、ダイゴは少し表情を険しくした。
(・・・この賃金は、ラムドレーさんを逮捕して手に入れたもんだ。大切にしねぇと)
犯罪者とは言え一人の人間のこれからしばらくの生活と引き換えに得たDPは、何故か少し重く感じられた。
ダイゴが硬い表情をしているのを見て、ニゾウは相変わらずの微笑を湛えたまま、こう言った。
「・・・どうだった~、初の捕り物は~?」
その言葉に、ダイゴは少し考えてから、こう言った。
「・・・いや、大変だったっス。色々と・・・うまく言えねぇっスけど」
戦闘に費やした労力も半端なものではなかった。しかし、ダイゴを今回疲労させたのはそう言った肉体的な要因だけでは無かった。一人の父親を獄牢に収監してしまったことへの割り切れない思い。それが、肩をぶち抜かれたことの何倍も、ダイゴの心に爪跡を残した。
そういった諸々を含んだ『大変だった』というダイゴの感想に、ニゾウはこう返した。
「そうだよね~。今回は大変だったよね~。・・・もしも辛かったら、今日はもう帰って良いんだよ~」
その言葉は、ダイゴが今回アッシュに殺されたことで被った精神的負担を考慮した上で発せられたものであったのだろう。その言葉に含まれている優しさは、馬鹿なダイゴにも理解できた。しかし、ダイゴはこう答えた。
「いや、・・・今日は終業時間まで筋トレしてるっス。まだまだ、鍛えないと・・・」
その言葉を聞き、ニゾウは頷いた。それから暫く静寂が待機室を包んだ。その沈黙を破ったのは、ダイゴであった。
「・・・あの」
「何だ~い?」
「・・・・・・ニゾウさんは、アッシュさんやり方どう思うっスか?」
アッシュのやり方は、平和な人生を過ごしたダイゴにとっては、少なからず良いものでは無かった。しかし、アッシュに己の心臓を貫かれてからというもの、その自分の考え方が死後の世界で通用するかどうか、些か自信が無くなっていた。故に、隊長であるニゾウの意見を聞いたのである。
そのダイゴの問いに対し、ニゾウは沈黙することも無くこう答えた。
「儂はアシュ嬢のやり方も間違ってはいないと思うよ~。悪人を殺すことによって死界で発生する総犯罪数が減るのも事実だしね~」
「そ、そうっスよね・・・」
ニゾウの言葉に対し、ダイゴは仕方ないことだと自覚しながらも、無意識の内に肩を落とした。
「でも」
そんなダイゴに対し、ニゾウはこう続けた。
「ダイ坊のやり方も、儂は正しいと思うよ~。効率的では無いし、犯罪者をひたすら殺すことよりも前途多難だけどね~」
その言葉は、上げて落とすといった様式のものであった。しかしながら、それでもダイゴはニゾウのその言葉に、救われた気がした。自分のやり方に太鼓判を押されたような、そんな安心を感じたのである。故に、ダイゴは声に幾分か元気を取り戻し、こう言ったのだ。
「・・・何つーか、憧れるっス。俺もニゾウさんみたいに、器をデカくして色んな考え方を認められるようになりたいっス」
アッシュも、もしかしたら彼女なりのやむを得ない過去や理由があった結果、今の様なやり方に至ったかもしれない。他にも、様々な自分の納得し得る理由を彼女は抱えているのかもしれない。そこにまで考えを及ぼさず、一方的に彼女のやり方を自分は否定しているだけなのではないか。それは、自分に家族が与えてくれた『大悟』という名前に対し、胸が張れないような行為ではないのか。そうダイゴは考え、故にニゾウの自分の問いに対する答えに、憧れを抱いたのである。
ニゾウは、ダイゴが憧れから発した言葉に対し、こう答えた。
「・・・八方美人なだけさ~。年を取ると好々爺を気取りたくなるんだよ~」
それから暫く話した後、ダイゴは一万Pを白いパジャマのポケットに入れ、待機室から出た。そして、鍛錬室に向かう廊下の途中で、歩きながらこう漏らした。
「・・・俺もニゾウさんみてぇにでっかくならねぇとな。男として。大悟として」
その背中は、何故か白装束を着た囚人のようであった。
自意識過剰は体に毒です。