登下校時はいつも瞬間移動使えたら楽だろうなと思っていました
今でも思ってます。行きに50分近く時間を消費する毎日とおさらばしたい今日この頃です。
外に出ると、既にアッシュは死者の家から二十メートル程離れた場所で歩いていた。やはりダイゴを待つ気は更々無いらしい。
「あ、アッシュさーん! 待って下さいっスー!!」
そんなお決まりの台詞を吐きながら、ダイゴは走ってアッシュに追い付く。
そんなダイゴを振り返ることも無く、アッシュは手渡された紙を見ながらずんずん歩く。
その歩調に合わせながら歩くダイゴだったが、歩く中でアッシュの読んでいる紙の内容、つまり犯罪者の情報が気になってきた。なので、ダイゴは歩きながらそれに関してアッシュに問う。
「あのー、アッシュさん? その、ラムドレーとリムードって奴らの情報、俺にも教えてくんないっスかね?」
その問いに対し、アッシュは歩きながら答える。
「……ラムドレーは、金の短髪に金の口髭、それに加えて緑の瞳を持った、身長189cmの中年の大男だ。持っている心象は『長爪』という爪を伸ばすといったもんで、心象発動時は爪が硬質化する。対してリムードは、こちらも金の短髪と緑の瞳をした、身長170cmの女だ。こいつの心象は『射爪』という爪を飛ばすといったもんで、この心象も発動時は爪が硬質化する。んで、この二人の関係性だが、どうやら親子らしい」
「親子っスか」(って事は、二人共死んだ後に再会したってことか? そんなこともあんだな)
そんな相槌を打ちながら、ダイゴは上からアッシュの持つ紙を覗く。そこにはラムドレーとリムードと思わしき二枚の顔写真が載っていた。その顔は、やはり親子と言うべきか、確かに目元などが良く似ていた。
(こんな写真も死者の家には情報としてあるのか。……でもこの写真、なんか証明写真みたいだな)
二枚の写真に写る二人は、両者共に前を真顔で向いており、その姿は人物の外見的特徴を表すためだけに撮られている様にも感じられた。もしかしたら、この写真もまた、死者の家に存在しているみょうちきりんな機械によるものなのかもしれない。
そんなことを考えながら覗き込んでいるダイゴに、気付いていないのか、それとも気付いた上で無視しているのか、アッシュは少しもそれに対する反応を示すことなく続ける。
「で、二人共『六道組』の残党だ」
「六道組? え、もう活動してないんじゃないんスか!?」
朝、確かマイティはそう言っていた筈だ。
アッシュもダイゴのその台詞に対し、歩きながら返した。
「組織は活動してねぇよ。だが、組織が活動しなくなったからと言って、組織の元組員が個人的に活動しないとは限らねぇ。むしろ、組織の一員としての食い扶持が無くなったせいで、余計に生きるためになりふり構わず犯罪を犯すって事もある。死界の組織では無い犯罪者の大部分はそういう奴等だ。ま、時には自分の力を過信して一人で馬鹿やらかす屑も居るがな」
「へー……」
屑という単語に引っ掛かりながらも、アッシュのその言葉を聞いてダイゴの脳裏にゼインが浮かぶ。彼も単独犯だった。
アッシュは続ける。
「そいつらの居場所は被害者の出た廃ビル周辺から、更に三十キロ近く離れた廃ビルらしい。地区としては、『第六地区』に属する。今からそこに乗り込むぞ」
「お、オッス! ……ちなみに、どうやって? バスとかっスか?」
そのダイゴの言葉に対し、アッシュは溜め息を吐いてから、言った。
「……テメェ、死界に来てから一体何を学んできたんだ? "移動機"に決まってんだろこの腐れ脳ミソ」
「ああ、そういやそうだった」
ゲイバーで出会ったオネエさん、バロックは、移動機を使えば遠い距離すら一瞬だと言っていた。ならば三十キロの移動など、造作もないだろう。ってかダイゴお前腐れ脳ミソと言われて悔しくないのか。負け犬根性が付きすぎているぞ。
しかしダイゴはアッシュの罵詈雑言に反撃することも傷付く事もなく、言った。
「……んで、その移動機はどこにあるんスか?」
すると、アッシュは何も言わずに歩を進める。ダイゴもとりあえずそれに付いていく。そのまま五分程歩き続けた後、二人はある建物の前で止まっていた。
「ここがその移動機のある場所だ」
アッシュはそう言って、その建物の中に入っていく。
それに続いてダイゴはその建物の中に入った。
「……こいつは」
そう呟くダイゴの眼前には、何かの機械が10台ほど置いてある空間が広がっていた。
アッシュがその機械の一台に近付いた為に、ダイゴも続く形でその一台に近付く。すると、その機械の造形がより鮮明に分かった。
その機械は、正方形のディスプレイの横に、コイン投入口とお釣り取り出し口があるだけという、至ってシンプルな形をしていた。アッシュはその前に立つとディスプレイの画面をタッチした。すると、画面が切り替わり、地図が出てきた。どうやらタッチパネル式らしいその画面に写る地図を、アッシュはスッスッスッと操作する。そして、地図がとある地点を映し出したところで、アッシュはその部分をタッチした。
すると、画面が再び切り替わり、
『五百P支払って下さい』
という文字が映し出された。
その文字を見てから、アッシュはダイゴを振り返って問うた。
「おいハゲ、テメェ今持ち合わせは有るか」
「へ? 持ち合わせっスか? ……ちょっと待って下さいよぉ……」
そう言いながらダイゴは自分のズボンのポケットを漁り始める。そして数秒ゴソゴソした後、快活な笑顔で言った。
「うん、びた一文無いっスね! ことわざメダルすら無いっス!」
「ことわざメダルって何だよ」
そんなことを言いながら、アッシュは自分のズボンのポケットから財布を取り出すと、そこから白い色をしたコイン状のものを一枚出し、投入口に入れた。瞬間、ディスプレイに映し出された画像が切り替わり、
『GO』
という文字が現れた。アッシュはそれを確認すると、ダイゴに対して、
「この文字を押せ。そうすりゃ次の瞬間には目的地だ」
と言った。
しかしその言葉に対し、ダイゴは、
「あれ、もしかして今の白いのって、DPっスか?」
というすっとぼけた事を抜かした。
そんなダイゴに、アッシュは呆れ顔になって、溜め息混じりにつらつらと、
「……青色が一P、緑色が五P、黄色が十P、桃色が五十P、橙色が百P、白色が五百P、藍色が千P、赤色が五千P、紫色が一万Pだ。……分かったらとっとと押せや蛆虫脳味噌野郎」
という暴言を吐いた。
そんなアッシュに対し、ダイゴは少し考えた後、あっけらかんと言った。
「……あ、すんません。何か早口で聞き取れなかったんでもう一回言ってくだ「殺すぞ」行ってきまあああす!!!!!!」
アッシュから放たれた凄まじい殺気に、ダイゴは冷や汗を滝のように流しながら文字を押した。
瞬間、ダイゴの姿がアッシュの眼前から消えた。
せめて駅がもう少し近くにあれば良いんですが。