セクハラは駄目絶対
した方はジョークのつもりでも、された方はたまったもんじゃありませんから。
そんな風にダイゴが誰も居ないところで格好つけていた時、扉の開く音がした。
「おや〜気が付いたのか〜いダイ坊〜」
入ってきた人物、それは獄犬第四部隊隊長ニゾウであった。ニゾウはいつものごとく緊張感の欠片も無い間延びした声でダイゴにそう言うと、錫杖をつきながら、先程までダイゴが寝転がっていたソファーの前に移動し、座った。
「おはようございますッスニゾウさん!」
そんなニゾウにダイゴは勢いよく頭を下げて挨拶をする。その姿にニゾウは顔を緩ませながら「はいおはよ〜」と言うと、続けて言った。
「でも驚いたよ〜。なんたって、マイ坊が朝っぱらから白目剥いてるダイ坊担いで待機室に乗り込んで来たんだからさ〜。ま〜大事じゃ無かったから良かったよ〜」
「う、ウス!朝から心配かけてすんませんッス!!」
ダイゴは再び深々と頭を下げてから、続けて言った。
「・・・ところでニゾウさん、俺ってどんくらい気絶してたんスか?」
「そうだね〜、ざっと一時間かな〜」
「ファッ!?一時間!!?」
時計を確認しようと首をその場でグリンと回し、そのせいで首を痛めるダイゴ。
「あだだだだ!!!?いかん危ない危ない危ない・・・」
首を押さえながら動揺を抑え、ついでに体の向きを変えて時計を確認するダイゴ。最初からそうしろ。
見ると、時計は十時少し前を示している。ダイゴはおずおずとニゾウに聞いた。
「あ、あのー、これって遅刻になるッスかね?」(流石に二日連続で遅刻は洒落にならん・・・。神様どうか俺に御慈悲を・・・)
「う〜ん。ダイ坊は何の活動も九時の時点で始めてないから、遅刻だね〜」
「そ、そうッスよねぇ・・・」(神は死んだ)
「ま〜でも今回は致し方ない部分もあるし、ボブ坊には報告しないでおくよ〜」
「あ、ありがとうございますッス!!」(ニゾウさん is god)
困った時の神頼みをした直後ニーチェ化した次の瞬間頭の中で目の前の老人を神格化するダイゴ。このハゲの脳味噌は時々意味不明な柔軟性を見せる。都合が良いとも言う。
暫くニゾウを心の中で崇め称えるダイゴだったが、ふとあることをニゾウに聞いた。
「・・・ところでニゾウさん、アッシュさんやサレムさんはいずこで?」
「アシュ嬢なら鍛練室で己を鍛えていて、サレ嬢なら"情報室"で仕事の書類を作ってるよ〜」
「・・・情報室?なんスかそれ?」
ニゾウの口から聞いたことの無い単語が出てきた為、そう聞き返すダイゴ。
ニゾウが言う。
「情報室っていうのは、まあ簡単に言えば、パソコンを使って悪人の情報を集めたり、戦術のレポートなどの情報を作ったりする場所だよ〜。ま〜鍛練室の隣にあるから、気が向いたら行ってごら〜ん」
「う、ウス!じゃ、じゃあ必要な時が来たら行かせて貰うッス!!」
そう答えるダイゴの声は若干震えていた。何故ならば、この男はパソコンを用いた事務に対し、凄まじい苦手意識を持っていたからである。
(ぱ、パソコンを使って仕事だとォォ!?馬鹿な!!狂ってやがる!!!俺はパソコンなんてキッズグーぐらいしか出来ねえぞ!!あと多少のネットサーフィン!!!・・・紙媒体じゃ駄目なのかしら・・・)
そこまで考えて、しかしダイゴは頭を振った。
(いかんいかん!!諦めねぇとさっき決めたばっかなのに、もう頭が諦めムードに入ってやがる!!!チキショーコナクソォ!!やってやらぁ!!!ダブルクリックだろうがなんだろうが臆さずやってやるよぉ!!!)
改めて決意を固めた後、ダイゴはこれから何をすべきか考える。
思考を始めて三十秒、ダイゴの単純な脳味噌は、単純故に悩むことなく、短絡的に結論を弾き出した。
(・・・とりあえず、今一番やんなきゃなんねえ事は、アッシュさんと打ち解けて、あの人に対する恐怖心を無くす事だろ。部隊の仲間に怯えてたんじゃ、話になんねえからな)「ニゾウさん、とりあえず俺、鍛練室行ってくるッス!!」
ダイゴがそう言うと、ニゾウは
「鍛練か〜い、感心だね〜。じゃ〜行っておいで〜」
とにこやかに返した。
「オッス!んじゃあ何か用事が出来たら呼んでくださいッス!!」
そう言い残して、ダイゴはアッシュの居るであろう鍛練室に向かった。
「・・・うっし、入るぞ。気合い入れろ俺ぇ・・・」
鍛練室の前で、自分の両頬を叩き、深呼吸をしてからダイゴはその赤い扉を開いた。
「お、おはようございますッス!」
「・・・何しに来やがった糞ハゲ」
中には黒い半袖のスポーツインナーを着用している銀髪の少女が、ダンベルを持ちながら此方を睨んでいた。
一瞬背骨が凍てついた様にその場から動けなくなるダイゴだったが、直ぐに先程の決意を思い出して持ち直し、口を開いた。
「き、筋トレっスよ!今のままじゃ、アッシュさん達の足を引っ張っちまうっスから!!」
その言葉に、アッシュは少しばかりダイゴを睨み続けていたが、
「・・・けっ」
と一言吐き捨てると、再び自分のトレーニングに戻っていった。
ダンベルを上げ下げしているアッシュを見ながら、ダイゴは考える。
(おっしゃ、何とか鍛練室に居ることを許してくれたぞ!・・・だが、同時に会話も途切れちまった。このままじゃアッシュさんと打ち解けて絆を深めんのは夢のまた夢だぜ・・・。・・・よし、プランAでいこう)
ダイゴはアッシュのダンベルを見ながら、言った。
「あ、アッシュさんが今持ってるダンベルって何キロくらいっスか?」
「・・・無駄口叩くんなら出てけや」
「仰る通りで!」
ドスの効いたアッシュの声に縮み上がるダイゴ。その姿は情けない。情けない。とても情けない。
(良いもんね、勝手に見るもんね)
会話の糸口を掴むための話題だった筈だのに、ダイゴは何故か重量に執着してそんなことを考えながらアッシュの持つダンベルのプレートを見る。
そこには、160kgと書いてあった。
「な、何ですとおおお!!!?」
「うるせぇ黙れ」
あまりの衝撃に叫ぶダイゴに、アッシュは躊躇い無く手に持っているダンベルを投げつけた。
「どわあああ!!?」
瞬時に心象を発動させ、みなぎる筋力で飛来するダンベルをキャッチする
ダイゴだったが、それによる衝撃は予想以上に大きく、鍛練室の壁に叩きつけられてしまった。
「ごふぅ!?」
肺から息を漏らしながらも、何とか膝を床につかずに耐えるダイゴ。その状態でチラリと見れば、先程は見えていなかったダンベルのもう片方のプレートとにも160kgとあるのが確認出来た。
「ご、合計320kgだと・・・!?な、何て筋力してやがる・・・」
目の前のしかめっ面の少女を見るダイゴ。
(・・・アッシュさんの体、見る限りでは多少は引き締まってるけどそんなにマッチョには感じられねえんだが・・・。・・・改めて自信無くすぜ・・・)
限界からくる筋肉の痙攣の中で、ダイゴは項垂れる。
しかし、その時ダイゴはある事実に気付いた。
(・・・あれ、そういや俺の限界重量って、300キロじゃ無かったっけか)
死界に来た初日、ダイゴは認識機と呼ばれる巨大な機械をこれ以上無い渾身の力を以て持ち上げている。その際居合わせていた親友・拾号はその機械の重さを300kgと言っていた。
ということはつまり、である。
「に、に、に、20キロも限界突破してるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!!!!!!!!!!!!!!」
いつの間にか成長していた自分の肉体と心象に、両手を上げて喜ぶダイゴ。既に何回か死線を経験しており、尚且つ一日も欠かさずに出来る限りの鍛練をしていた為、鍛えれば鍛えるほど強くなる死者の肉体と心象が成長するのも考えてみれば当然かもしれない。
そんなコロンビア状態のダイゴに、アッシュは無言で近くにある70kgと書いてあるプレートを取り出すと、眼前の坊主頭に投げ付けた。
ゴッ「こまんどおっ!?」
プレートが激突した為にそんな断末魔を上げながら床に倒れ伏すダイゴ。その頭に、先程の激突で跳弾して宙を舞っていたプレートが落下する。
ガッ「ぐりいんべれえっ!?」
自然の摂理、重力に則ったまさかの追い討ちに、再び断末魔を上げるダイゴ。危うく意識を手放しそうになるが、持ち前のガッツで何とか持ちこたえる。
そのままフラフラしながらアッシュに言った。
「ちょっ、アッシュさあああん!?流石に酷くないっスか!?逝ったかと思ったよ!!!」
「うるせぇ喚くな殺すぞ」
「理不尽!!」
叫ぶダイゴに今度は近くにある150kgのプレートを振り上げるアッシュ。
「すんませんっしたァァァ!!!!」
まさかの連投の気配に光よりも速く土下座するダイゴ。すっかり額を床に付けるのが板に付いてしまっている。
人間としての尊厳を踏みにじられながら、ダイゴは思う。
(俺的死界最恐のアッシュさんに勝てるもんか・・・。いや、そんなことよりこれからどうする!?どうやって会話の糸口を掴む!!?そうだ、プランBでいこう!ってねぇよそんなもん!!)
そんな迷走をダイゴが額を擦り付けながらしている時であった。
鍛練室の扉が開き、
「アッシュちゃん!任務だよ!」
という声が聞こえてきたのである。
「ってあれ、ダイゴさん何してるんですか?」
その声の主が続けてそう言った為、ダイゴはそっちの方を向く。
「あ、サレムさん。おはようございますっス」
そこに居たのは、金髪のポニーテールをした少女、サレムであった。
サレムは、
「おはようございますダイゴさん」
と言ってから、怪訝そうな顔で続けた。
「・・・ダイゴさん、タンコブが出来てますよ?」
「え!何処に!?」
即座に頭をまさぐりそれらしきものに触れるダイゴ。と同時に、接触により発生した激痛でのたうち回った。
「あだだだだ!!!!」
「ちょ、ダイゴさん大丈夫ですか!?一体何があったんです!?」
サレムの問いに、ダイゴは痛みで這いつくばりながら言った。
「いや、ちょいとアッシュさんに鋼で出来たお灸を据えられ、もといぶつけられまして・・・」
その言葉に、サレムは眉をひそめると、アッシュに近付いて言った。
「ちょっとアッシュちゃん!そんなことしたら駄目だよ!!」
「うっせぇなあ。良いだろ別に。あれだよ、躾だよ躾」
癖っ毛の銀髪をわしゃわしゃと掻きながら面倒臭そうに言うアッシュ。そんなアッシュにサレムはまだ何か言いたそうにするが、そんな彼女に後ろからダイゴが問う。
「・・・ところでサレムさん、任務ってのは一体?」
「え?あ、ああ、えっと、任務っていうのはですね。犯罪者の確保ですよ」
サレムが振り返ってダイゴに向かってそう言うと、アッシュが聞く。
「・・・んで、その犯罪者ってのは何処の屑だ?住処と特徴を言え」
「・・・容疑者の名前はラムドレーとリムード。中年男性と高校生くらいの少女の二人組で、ここから北に5km離れた廃ビル周辺で通行人を殺害してDPを強奪するという事件を何件も起こしてる。・・・でも、心象は良く分かってない。被害者は殺される際に銃で後ろから撃たれたとか、ナイフで後ろから刺されたとか言ってるけど、実際にどうやって殺されたのかは背後からの襲撃だったこともあって、見てないみたい。犯行現場には防犯カメラも設置されていなかったから、後から見ることも不可能。何処に住んでいるかも分かってない。でも、犯人の顔を絵が上手い被害者兼数少ない犯人の顔の目撃者の方に似顔絵を書いてもらって、現場周辺にその似顔絵の人物について聞いたところ、名前は割れた。だから、これからアッシュちゃんにはその名前を元に死者の家に行って、この二人の住居と心象を聞いてから、その住居に突入して逮捕して貰いたいの」
サレムの言葉に、ダイゴが横から質問する。
「え、死者の家って、住居とかも知ってるんスか!?」
「そうですよ。ですから、こういった時にはこの機関に情報提供してもらうんです。まあ、その後に情報に見合ったDPを払わなきゃいけないんですけど」
「はぇー、世知辛い・・・」
しみじみとそんなことを言うダイゴをチラリと見てから、アッシュがサレムに言う。
「・・・少しこの任務でやりたいことがあるんだがよ。構わねぇよな」
「・・・内容による」
サレムが静かに言うと、アッシュはダイゴを指差して言った。
「コイツも任務に連れていく」
「ファッ!!?」
ダイゴが声を上げると、アッシュはその坊主頭を睨んだ。
「んだテメェ、不服かコラ」
ダイゴは凄まじい勢いで首を横にブンブン振った後、続けて言う。
「いや、・・・なんかアッシュさんが俺を任務に同行させてくれるなんて、意外だなと思って」
「・・・この任務でテメェの適性を見んだよ。無能なのは分かってるが、どんくらい低レベルなのか早めに判断しとくことに、越したことは無いしな。無論、足引っ張ったら殺すから覚悟しとけ」
「う、ウス・・・」
依然変わらず手厳しいアッシュに、ダイゴは狼狽えながら言った。
そんなアッシュを黙って見つめた後、サレムは溜め息混じりに言う。
「・・・気を付けてね」
アッシュはその言葉に特に反応することも無く、近くにある鼠色のフード付きパーカーを羽織ると、さっさと鍛練室から出ていってしまった。
「ちょっ、アッシュさん!片付けてから行って欲しいっス!!」
ダイゴはそう言いながら、身の回りのダンベルやらプレートやらをせっせと拾い、元にあったらしき場所に戻した。
全ての片付けが終わった後、ダイゴはサレムの方を見た。
「んじゃあ行ってきますッス!サレムさん!!・・・てアレ?」
「?・・・どうかしましたかダイゴさん?」
ダイゴは首を傾げるサレムに言った。
「サレムさん。目元に薄く隈があるッスけど、大丈夫ッスか?」
「っ・・・!だ、大丈夫です・・・。すみません、なんか心配かけちゃって・・・」
そう言って謝るサレムに、
「い、いや、大丈夫なら良いんスよ!謝んないで下さいっス!」
と慌てて言った後、「じゃ、じゃあそう言うことで!」と残して、鍛練室から出てアッシュを追った。
そんなダイゴを見送った後、サレムは深い溜め息を吐いて、ふと自分の手首を見つめた。
そこには、何の変哲もない白く細い少女の手首が在るだけだった。
ダイゴが鍛練室から赤色の廊下に出れば、備え付けのエレベーターにアッシュが入っていくのが見えた。そのままエレベーターが閉まりそうになった為に、急いでダイゴはその中目掛けて飛び込んだ。
「・・・テメェ、ふざけてんのか」
「至って大真面目なんでエレベーターの『開くボタン』押してくださいっス後生だから」
しかし、僅かに遅かったのだろう。ダイゴの体は、丁度上半身だけ中に入り下半身は未だ外にありながら宙に浮いている状態でドアに挟まるという稀有な事態に陥ったのである。
「・・・」
アッシュは溜め息を吐き、開くボタンを押した。
「にゅうとんっ!!」
万有引力に身を任せ、ダイゴが顔面から垂直に床にぶつかる。そのままの状態で這いながら、ダイゴはエレベーターの中に入った。
立ち上がった後、ダイゴはエレベーターの向かう先を見て声を発する。
「あれ?何で上に向かってるんスか?」
死者の家に向かうのならば、このまま下の玄関の階に下りて外に出るべきだろう。そうダイゴは考えたのである。
しかし、そんなダイゴに対し、アッシュは面倒臭そうに言った。
「・・・死者の家で、ってかどっかの組織から情報提供受ける為には『調査証』って紙が要るんだよ」
「へー、なーるへそ。・・・んじゃあ調査証ってのはどこで貰えるんスか?」
「・・・トップルームだ。・・・着いたぞ」
そうこうしている内にエレベーターが止まり、扉が開いて黒い廊下が広がった。
アッシュはさっさとエレベーターから出ると、トップルームに進んでいく。ダイゴもそれに付いていく形で歩き出した。
「失礼します。第四部隊のアッシュです」
「し、失礼しますっス!第四部隊研修生のダイゴっス!」
二人が名乗りながらトップルームに入室すれば、そこには獄番の頭領、ボブが自分の机に座っていた。
「HEY!良く来たNA二人共!DE、今日はどんな用事だYO!」
相変わらず陽気なボブは、二人にそう問う。すると、アッシュが答えた。
「今から死者の家に情報を聞きに行くんで、その為の調査証を頂きに参りました」
「FUMU、了解したYO」
ボブはそう言うと、自分の居る机の中から、一枚の黒い紙を取り出した。
そこには、現世には存在しない文字が白文字で書かれていた。
目に入ったその文字にダイゴは一瞬戸惑うが、直ぐにあることに気付いた。
「・・・あれ、読める」
その一見暗号の様にも見えるその文字が、英語すら危うい筈のダイゴにも読めたのである。
不思議そうにしているダイゴに気付いたのか、ボブが言った。
「HAHAHAHA!GORIMUTYUUといった顔をしてるNA!!大方良くわからない字が読めたことに対してBIKKURIしたんだRO!という訳でそんなYOUにMEが直々に説明してやるYO!実は死界には万人が自動的に等しく理解できる文字が存在してるんDA!それこそアダムとイブがFU○Kしていた時代からNA!まあ何時出来たのか誰が作ったのかはNOWでも一切解明されて無いんだけどYO!」
「なーるへそ」
取り敢えず分かったフリをするダイゴであった。
そんなダイゴを尻目に、アッシュはホブから『調査証』を貰うと、
「では失礼しました」
と言ってトップルームから退室してしまった。
「あちょ、アッシュさん!?待って下さいっスよ!!あ、じゃあボブさん色々教えてくださって有り難うございましたっス!!では!!」
ダイゴもそう言うと、慌ただしくトップルームから出ていった。
そんな二人を見送った後、ボブはポツリと呟いた。
「・・・Oh?blue jokeに二人共気付かなかったのかNA?」
ちなみに、ダイゴはそうだけどアッシュは気付いた上で聞き流していたのが真相だ。うん、どうでも良い。ってか場合によってはセクハラで裁判である。ボブの今までとこれからが心配になるオフィスでの一コマであった。
ダイゴがトップルームから出ると、アッシュがエレベーターに入っていくのが見えた。ダイゴは急いでエレベーターの中目掛けてスライディングした。
「・・・テメェ、ふざけてんだろ」
「本当に違うんスこれは事故なんス当の本人は至って大真面目なんで再びエレベーターの『開くボタン』押してくださいっス後生だから」
そんな台詞を、エレベーターの外側から丁度出ている上半身の一部である頭からのたまうダイゴ。
「・・・・・・・・・」
丁度エレベーターに入っているダイゴの下半身を見ながら、アッシュは無言でボタンを押した。
「いやースンマセン何度も何度も助けて貰っちゃってってアレおかしいなドアが開かないぞそれどころか上半身と下半身を隔てるドアの圧力が強くなってきたぞアッシュさんもしかして『閉めるボタン』押しましたっスかアレレのレ返答が無いぞヤバイなこのままじゃ俺テケテケ不可避だけどなアッシュさんちょっとアッシュさんもしかして俺のこと殺そうとしてますちょっとアッシュさんマジでちょっとヤバイんでちょっとそろそろ開くボタンをアッシュさんちょっとアッシュさんちょっとマジでちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとちょっとおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!?」
「・・・あと十秒はこうしとくか」
つまんなそうな表情のまま、アッシュはダイゴの断末魔をBGMに耳糞をほじるのであった。
ところで、ハラスメントってどういう意味ですか。