一寸先は
昨日投稿してなかったので、今日もっかい投稿します。
公園にて、少年が一人、自転車に跨がっていた。どうやら自転車に乗る練習をしているらしい。
「おーし・・・次こそは・・・」
ぶつぶつとそんなことを呟いてから少年はペダルを漕ぎ始めるが、すぐにふらつき、転倒してしまう。
「あ痛っ!?・・・・・・グスッ」
転倒して数秒後、少年はべそをかきだした。その膝小僧は擦りむけて、血が滲んでいる。
しかし、少年が泣いていると、後ろから男性が近づいて来て、言った。
「大丈夫か?」
「ヒッグ・・・父ぢゃん・・・」
男性は少年の父親だった。父親は、先程からずっと少年の自転車練習を離れた場所から見守っていた様だ。
父親は言った。
「どれ、父ちゃんに見せてみな。・・・あらら、擦りむいてらっしゃる。一度水道で傷口洗うか。ばい菌が入ったらいけないし」
少年は泣きながら頷くと、父親と共に公園の水道に歩いていった。
水で少年の膝小僧を洗いながら、父親は言う。
「さっきは転んじゃったけど、次は乗れるかもしれないからな。もう少し頑張ろう」
「・・・嫌だ」
しかし、少年は父親の言葉に対し、首を横に振った。少年は続ける。
「・・・もう痛いのは・・・やだ。・・・クスン、父ちゃんはさっきから次は乗れる次は乗れるって言ってっけど・・・ヒグッ、もう二十回は転んでっぞ、俺・・・。グスッ、もう俺は、・・・ずっと自転車には乗れねえんだ・・・」
泣きべそ混じりにそう言う少年をじっと見つめた後、父親は優しく言った。
「・・・でも、自転車に乗れなかったら自力で遠出するのは難しくなるぞお?」
「良いっ!俺、ヒッグ、自転車よりも速く走って遠出すっから!!」
「お前・・・その運動神経が有ったら自転車に乗るのなんてちょちょいのちょいでしょうよ・・・」
「うぐぅ・・・」
父の指摘に、涙をポロポロ落としながら俯く少年。
そんな少年に、父親は言った。
「・・・まあ、もう少し頑張ろう。例え二十回失敗しても、二十一回目は成功するかもしれないだろう?それに、仮に今ここで諦めたとして、恐らく後でお前は絶対後悔するぞ?」
「しないっ!すっぱり諦める!」
少年は泣きながら断言するが、父親は諭すように言った。
「いや、無理だね。だってお前は自転車に乗れる可能性を秘めてるんだもん」
「秘めてない!絶対に秘めてない!!」
意固地になって頑なに否定する少年。
「何で言いきれるのさ?お前には未来のことなんて分かんないのに」
「・・・そ、それは・・・」
再び俯く少年。
そんな少年に、父親は優しく笑って言った。
「・・・もう少しだけ、頑張ろうよ。ここで諦めたら、"出来るかどうか分からない未来"が、"出来ないと分かりきった未来"になっちゃうからさ」
その言葉を受け、少年は潤んだ瞳で父親を少し見つめてから、涙を拭って言った。
「・・・・・・もう少し・・・だけだかんね・・・」
少年は自転車に跨がると、再びペダルを漕ぎ始める。しかし、再び転んでしまう。
「あ痛っ!?・・・・・・グスッ」
今度は肘を擦りむき泣きべそをかき始める少年だったが、それでも立ち上がり、みたび自転車に跨がった。その涙の浮いた瞳には、しかし絶対に諦めないという幼い男気が確かに燃えていた。
その小さくも頼もしい背中を見ながら、父親は満足そうに少年に呼び掛けた。
「頑張れよ大悟!!諦めなければ、絶対に乗れるから!!」
少年、もとい幼き日の大悟は、父、もとい若き日の高志の方を振り返り、鼻水を垂らし、目を泣き腫らしながら、サムズアップをしていた。
※
「・・・・・・・・・・・・また、ガキの頃の夢か」
そう呟いてから、ダイゴは意識を取り戻した。
「・・・」
口を閉じ、無言で体を起こせば、今まで自分が寝ていたところが、ソファーの上だと気付く。そして周囲を見回せば、そこが第四部隊の待機室だということに気付いた。
「・・・あれ、俺どうしてこんなとこで寝てんの?」
一拍子遅れてそんな疑問を抱くダイゴ。そして、五秒程頭を回転させた後、
「・・・・・・・・・ああ、そうか。俺、あのシグルイじみた光景見て気絶したんだ」
と呟いた。
「・・・・・・やべ、思い出したら熱いパトスが喉の奥から上ってきやがった・・・!」
顔を青くしながら、仕事場で嘔吐という最悪の事態を避ける為に堪えるダイゴ。その甲斐有ってか、吐き気は十秒もすれば収まった。
胃液のビッグウェーブを何とか乗り切ったダイゴは、一息吐いてから呟く。
「・・・・・・獄犬入ったら、ああゆうモンも見なきゃならねぇのか・・・」
死体回収という言葉にさえ初めは戸惑っていたダイゴである。その死体を先程のマイティ達の様に実際に引き取るとなると、かかる精神的負担は桁違いだろう。そのような事は、いくらど阿呆なダイゴにでも、容易に理解できた。
「・・・テメェの正義を決意した矢先に親友さんには嫌われ、そのショックから立ち直って親友さんともっかい向き合おうと思った矢先に死体見て吐いて臓器見て気絶する。・・・中々に、踏んだり蹴ったりだよな」
七転八倒。そんな四文字熟語が、ダイゴの頭を過る。
「・・・生きてた頃も、悪いことが立て続けに起こった事は何回かある。卵かけご飯作ろうとして炊飯器見たら米が無くて、そのせいで下がったテンション紛らわす為に卵だけ食ったらそいつが腐ってて腹壊したりな。・・・だが、流石にハートフルボッコな状態から息も絶え絶えに回復したら、お次はストマックフルボッコになるなんて五臓六腑に厳しい経験はしたこと無ぇよ・・・」
大山大悟の歩んだ人生は、至極平和で穏やかなものであった。剣や魔法とも、火薬や硝煙とも縁の無い、ありきたりで、月並みで、故に幸せなものであった。そんな平穏を日常としてきたダイゴにとって、これから踏み入ろうとしている世界は、どうしようもなく異常で、非日常であった。
それらの前提を全て踏まえた上で、である。
「・・・上等。いよいよ面白くなってきやがったじゃねえか」
男、ダイゴは静かに吠えた。その咆哮を皮切りに、ダイゴの口からは、まるで言の葉にすることでより強固なものに変えるとでもいうように、決意が流れ始める。
「獄犬を諦めたくは無ぇ。俺は、俺に手を差しのべてくれたマリオさんを、俺を迎え入れてくれたサレムさんを、俺を助けてくれたミールやヒーカンさんを、傍で支えてぇからな。それに、マイティさんの前で誓ったんだ。『テメェのやり方で悪を無くす』って。『その為ならいくらだって努力する』って。一度テメェで決めたんだ。投げ出してたまっかチクショウめ」
少なくとも、夢の中に居る父ならば、自分のこの行為の選択に対し、賛成してくれるだろう。逃げることで、未来は生まれないからだ。
「・・・考えようによっちゃ、今の俺は死界のもろもろにビビって、転んじまってる様なもんだ。だが、そいつがどうしたよ。だったら立ち上がりゃ良いだけのことだ。夢の中の、ガキの頃の俺ですら出来たんだ。今の転び慣れた俺にとっちゃ、立ち上がる事なんざ屁の河童だっつーの」
自分に言い聞かせるようにぶつぶつ言葉を垂れ流した後、ダイゴは立ち上がり、言った。
「……そのためには、……やっぱり死体にも慣れていかねーとな。……嫌だからっつって、逃げて良い代物でもねえんだから」
そうすることで、今よりも成長できる。そんな気がした。
早く夏にならないかな。




