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死後(デッドイン)  作者: 糞袋
第三章・悪人
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猪突猛進

昔母方の実家の近くで猪を見たことが有ったような無かったような。


 時間は遡り、ダイゴが必殺技を編み出そうと思い立った時のこと。あの後、ダイゴは独りでうんうん唸りながら、地獄で必殺技を考えていた。

(・・・しっかし、必殺技を作るっつってもなー。俺の心象はマイティさんヒクソンさんみてぇなド派手なモンじゃねぇし・・・。・・・となると、自然にショウタロウさんみてぇな必殺技しか無理な訳で・・・)

 このハゲ、暗にショウタロウの必殺技を地味と言っている。が、本人に自覚は無いようだ。余計タチが悪い。

(・・・てか、今更だがショウタロウさんの必殺技って、あれどういう原理なんだ?足を突き出すと同時に、その方向へ物凄い速さで突っ込んでたけど・・・。・・・分かんねーな。俺、理系選択じゃなかったし。・・・こんな時、駆が居てくれたらなぁ・・・)

 今はもう逢うことの出来ない親友に思いを馳せるダイゴ。しかし、所詮は無い物ねだり。いくら居ない人間を恋しく思ったところで、現状は好転しない。

(・・・駆や、婆ちゃんや母ちゃんや父ちゃんや広華や多美ちゃん、皆元気にしてっかなぁ・・・。・・・残してきちまったなぁ・・・全部全部・・・)

 もう何度目になるか分からない、現世への郷愁。この男、未だに未練たらたらである。

(・・・あの時、もしも鉄骨が落ちてこなきゃ、俺は今ごろ高校で授業受けてたんだろうな。んで、昼休みに駆と昼飯喰って、それから午後の授業を睡魔と戦いながら受けて、そして放課後駆と駄弁りながら帰って、・・・家で婆ちゃんに出迎えられて、・・・父ちゃんや母ちゃんや可愛い妹達を出迎えて、・・・晩飯の時に母ちゃんと一緒に馬鹿騒ぎして、そんでもって・・・婆ちゃんに制裁食らって・・・・・・風呂入って、勉強して、筋トレして、明日に備えて寝て・・・・・・・・・・・・)

 もはや遠い現世での生活。生きている間も、幸せだと思っていたが、死んでからだと更にその幸せが尊く思われる。

 気が付けば、ダイゴの頬を涙が伝っていた。

「おわっ!?何また泣いてんだ俺!?いけねぇいけねぇ!こんなんじゃ信念を貫くことなんざ、出来、・・・ねぇ・・・」

 涙の流れが勢いを増す。止めようとすればするほど、それは溢れてきた。

「・・・くそっ・・・!何で・・・死んでんだよ俺・・・!!何で・・・家族を失う悲しみを母ちゃん達に味あわせてんだよ俺・・・!!何で・・・家族を失う悲しみをまた父ちゃんや婆ちゃんに味あわせてんだよ俺ぇ・・・!!!」

 胸を締め付ける、深い後悔。頭で鳴り響く、大きな未練。今まで忙殺されていたそのような感情が、束になってダイゴに押し寄せた。

 散々に泣いて、泣いて、泣き抜いて、漸く涙が枯れてきた時。ダイゴは僅かに落ち着きを取り戻した頭で、考える。

(・・・・・・もしも)

 




 もしもあの時、あの鉄骨の落ちてきた瞬間に戻れるのならば。





(・・・・・・・・・懲りずに、またあの少年を押し退けて、おっ死んじまうんだろうなぁ・・・)


 ダイゴは、後悔しながらも何も変われない、変わらない自分に気付き、泣き腫らした目尻を下げて、苦笑した。

(・・・相変わらず、少年に突っ込んで押し退けて、んで死ぬ・・・。・・・何かあれだな、こうして考えてみると、俺突っ込んでばかりいるな・・・。ゼインとの戦闘では頭突きかますために突っ込んで、アッシュさんとの組手でも突っ込んでそんでカウンター貰って、マイティさんとの組手でも突っ込んでまたカウンター貰って気絶して、・・・あれ?カウンター貰いすぎじゃね俺)

 気付くのが遅い。というより、先程のしんみりとした感じはどうした。

(・・・何でカウンター食らっちまうんだろ。もしや、何も考えずに突っ込んでるからか?)

 十中八九それが原因だろう。

(んー、でもカウンター食らわねぇで突っ込み、もとい突進をかましてる自分の姿が想像できねぇな・・・。どうすっかなー・・・・・・あっそうだ!!)

 そこまで思考を巡らしたダイゴの脳味噌に、あるアイディアが沸いて出た。


「カウンター食らっても立ち止まらねぇぐらい、歯ァ食いしばって突っ込みゃ良いんだ!!」


 いや、その理論はおかしい―そんな突っ込みを入れる人間も居らず、ダイゴの暴走が始まる。

「おっ!何か必殺技のビジョンが見えてきたぞ!!よっしゃ!!この調子でドゥンドゥン練っていくぜ!!まずは―」

 こうして、ダイゴの必殺技構想という名の暴走列車は"レールは投げ捨てるもの"とでも言うように、迷走を続けるのであった。




 それから一時間後の地獄にて。


「よっしゃああ!!!出来たぜ!!俺の必殺技ァ!!!」


 そこには、我が意得たりといった様子のダイゴの姿があった。

「さーてさてさて!ほいじゃあ必殺技の試し撃ちといきますかァ!!」

 ダイゴは、嬉々としてそう言った後、地獄の端の真ん中辺りに移動して、そこで体勢を低くする。その状態でダイゴは呟いた。


「まずは身を低くして、何かかけっこっぽい姿勢になる。その状態で、心象使って脚の筋力を強化して、」


 ダイゴは両脚に力を込めて、


「一気にブッ跳ぶ!」


 力の限り両脚で地面を蹴り、前へ跳び出す。その勢いは凄まじく、幅が50m程もある地獄の端から端までを、一跳びで渡り切ってしまった。

 しかし、

「やったぜ!成し遂げたぜあみっ!!!?」

 余りにも勢いがあった為に、ダイゴは端の壁に顔面から突っ込んでしまったのである。

「・・・き、決まらねぇな・・・俺・・・」

 今更なことを呟くダイゴ。しかし、すぐに体勢を建て直して言った。

「だが、衝突事故のショックで必殺技の名前がポーンと浮かんできたぜ!!その名も―」



漢大武(おとこダイブ)ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 漢、大、武。御大層な名前である。だが、その実、



 ダイゴの必殺技『漢大武(おとこダイブ)』とは



 その身一つで相手に突っ込む



 ただの、『体当たり』であった。



 












 

 



昔父方の実家で猪肉を食べたような食べなかったような。

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