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死後(デッドイン)  作者: 糞袋
第三章・悪人
47/113

愚直

真っ直ぐに生きてれば案外報われるもんだって、爺さんが言ってました。

 赤メッシュの少年、スミオは、レジ袋入りのリュックサックを背負った状態で、全力疾走していた。

 もうかれこれ1km近く走っただろうか。周囲の光景は、先程の繁華街よりも、大分地味になっていた。

(・・・追手は・・・?)

そう思い、スミオは周囲を確認する。

 先程の騒動のせいか、人の姿は全く見えなくなっていた。スミオは、その人っ子一人居ない閑散とした街並みを見て、

 

「・・・人も居ねぇし、外に居たら目立つかもな・・・。・・・近くのコンビニにでも入るか」


 と呟き、丁度近くにあった赤いカラーリングのコンビニに入ろうとする。

 その時だった。


「待ちやがれ赤メッシュやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 という、喧しい怒鳴り声が聞こえてきたのである。

「な、何だぁ!?」

 すっとんきょうな声を上げ、スミオは後ろを振り向く。するとそこには、

「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」

 と気合いを発しながら、凄まじい形相でこちらに走ってくる、坊主頭の大男の姿があった。

 その鬼気迫る様子に、スミオは飛び上がる。

「うおわっ!?だ、誰だテメェ!!?」

「獄犬研修生!!!大山大悟だぁぁぁ!!!!!!」

 生前の名前を名乗りながら突っ込んでくる大山大悟、もといダイゴの台詞に、スミオは驚き混じりに思考を巡らせる。

「へ、獄犬!!?あっ!そういやぁさっき、獄犬の中にハゲが一人居たような・・・」

 あまりにも他の隊員のインパクトが強かった為、ダイゴの印象は殆どスミオの脳内には残っていなかった。

 そんなスミオに向かって、ダイゴは叫ぶ。

「お考えのところ悪ぃけど、・・・えーと、強盗?の現行犯で逮捕させて貰うぜええええええ!!!」

「何でちょっとあやふやなんだよ!!!そして逮捕はノーセンキュー!!!」

 スミオはダイゴに負けじと大声を張り上げると、突っ込んでくるダイゴに背を向けて走り出した。

「ぬおっ!?てめっ、逃げんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「逃げんなと言われて逃げねぇ奴なんて居ねぇよ!!!じゃあなとっつぁーん!!」

 スミオはそう捨て台詞を吐きながら、ダイゴとの距離を離していく。どうやら、スミオの方が基礎的な走力は上のようだ。

 しかし、それはあくまで"基礎的な走力"の話である。


「おおおおおおおおお!!!!!!『強力(ストロング)』ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」


 そんながなり声と共に、ダイゴは心象によって脚力を上昇させ、走る速度を大幅に上げた。


 スミオとダイゴとの距離がどんどん詰まっていく。ダイゴは叫んだ。

「よっしゃあああああああああああ!!!!!!!!!!!!捕らえたぞコラァァァァァァァァァ!!!!!!」

「げっ!?追い付いてきやがった!!?」

 そんなダイゴの叫び声を聞き、自分とダイゴの距離が縮んでいることに気付くスミオ。その状況の中、スミオはそれに加えて、更にあることに気付く。

(・・・よく見りゃ、今俺が走ってる場所って・・・・・・、・・・よし)

 スミオはそこまで考え、急に立ち止まった。

「えっ、ちょ!!?」

 追っている人間が急に立ち止まった為、ダイゴは慌ててその場で急ブレーキをかけようとする。しかし、勢いをつけ過ぎていた為か、急ブレーキをかけようとした瞬間に足がもつれ、

「ぴたごらすっ!!!」

 という間抜けな声を上げながら、凄まじい勢いでダイゴはずっこけた。

「・・・えらく滑稽だな、とっつぁん」

 ダイゴがこける瞬間にギリギリでかわしていた為、巻き込まれずにすんだスミオは、心底馬鹿にしているような口調でそんなことを言いながら、地面に這いつくばっているハゲ頭を見下ろす。

「う、うるせぇ・・・」

 しかし、馬鹿にした口調が癪に障ったのか、ダイゴは直ぐにそんなことを吐きながらヨロヨロと立ち上がった。そのままダイゴは言葉を続ける。

「・・・急に立ち止まりやがって、どーいった心情の変化だコノ野郎」

「べっつにー?ただ、追ってくるお前を見て、"あ、コイツになら余裕で勝てそうだな"って思ったからだけどー?」

 スミオは、わざとらしく両手を後頭部辺りで組みながら答えた。それが挑発であることは一目瞭然である。

 だがしかし、生まれつき頭の回転が遅いダイゴは、その安っぽい挑発にまんまと乗せられてしまった。

「てんめぇ・・・!上等だコラァ!!"必殺技"を身に付けた新しい俺を見せてやるよぉ!!!後悔しやがれバーカ!!!!」

「・・・なんつーか、テメェすっげぇ小物っぽいな」

 予想外の挑発への引っ掛かりっぷりと、それに伴う雑魚臭い啖呵に、スミオは若干呆れながらそう溢した。


 「ゲヘヘヘ!!小物臭ぇはお互い様だろ!テメェだってさっきドキルクさんに『すごく・・・小物臭いです・・・』って言われてたじゃねぇか!!」

「うぐっ!じゃ、じゃかあしいわアホ!!ハゲ!!ハーゲ!!!」

 痛いところを突かれ、先程のダイゴに負けず劣らず小物臭い台詞を吐くスミオ。

「今ハゲ関係無ぇだろオォン!?もう許せんぞオイ!!!」

 ダイゴはその台詞にぶちギレ、ファイティングポーズを取る。

「はっ!来るなら来いよ!返り討ちだハゲ!!」

 そう言いながら、スミオはリュックサックを目にも止まらぬ早さで背中から外すと、中から何かを取り出した。

「・・・何だそりゃあ?」

 ダイゴは眉をひそめてスミオの取り出した物を見つめる。


 "三つに折り畳まれた白い棒"がそこにはあった。

 

 スミオはそれを両手に持ち換えて、

「コイツが何かって?今教えてやるよぉ」

 と言うと、その折り畳まれた白い棒を、カチャカチャと変形させた。

 ダイゴの目の前で、白い棒の正体が明らかになる。



「・・・槍?」

「ご名答」



 それは、長さ2m程の白槍だった。その両端は鋭く尖っており、高い貫通力を感じさせる。反面、造形が両方尖った爪楊枝のような形をしている為、物体の切断にはあまり向いていないようにも見えた。


 スミオはその槍をぐるりと一回転させた後、ダイゴの方へその鋭い槍先を向ける。そして、

「そのハゲた額に風穴開けて、"三つ目がとおる"みたいにしてやらぁ!」

 と叫びながら、手に持った得物を何の迷いもなく、ダイゴの額目掛けて突き出した。


「"三つ目がとおる"だぁ!?ソイツは俺よかテメェの方がキャスティング的に合ってんじゃねぇかあ!!まあ槍の色や髪の有無とかの相違点は有るがよぉ!!!」

 そんなことを叫びながら、ダイゴはその槍を避けようと身を捩る。しかし、完全に避けることは叶わず、槍先が僅かに額を掠めた。その傷口から血が垂れ、ダイゴの目に入る。

「うごっ!?」

 視界がぼやけ、反射的に左腕で血を拭うダイゴ。そうやって出来た隙を、スミオは見逃さない。

「隙ありィ!なんつって!」

 律儀にお決まりの台詞を吐きながら、白槍を今度はダイゴの銅目掛け突き出した。

「何のォ!!」

 しかし、ダイゴは両手でその白い槍先を掴み、そのままスープレックスの要領で槍ごとスミオを後ろに投げ飛ばす。心象が無ければ出来ないような力業である。

「うおっと!」

 スミオは一瞬驚いた表情を作りながらも、空中で体勢を整え、軽やかに地面に着地した。

 そんなスミオに対し、思わずダイゴは溢す。

「・・・猿みてぇな身のこなしだなオイ。テメェは牛若丸の生まれ変わりか何かか?」

「だったらそんな俺に今から負けるテメェは、さしずめ弁慶ってトコか?」

「弁慶か・・・。良いぜぇ!勧進帳宜しくケチョンケチョンにしたらぁ!!」

 言うが早いか、ダイゴはスミオに飛びかかる。しかし、

「はいカウンター頂きィ!!」

 スミオはその攻撃に合わせて、再び槍を突き出した。だが、

「そうは問屋が卸さねぇってなぁ!!」

 その槍先は、ダイゴによって再び鷲掴みにされる。

「グヘヘヘ!!またまた捕らえたぜこの野郎!!」

 ダイゴは槍を強く掴んだまま笑った。

 そんなダイゴに、スミオは欠片も動揺せずに言う。

「ふーん、で?」

「決まってんだろ!このままさっきみたくぶん投げて・・・」

 そこまで言って、ダイゴはある事に気付いた。


(・・・あ、空中だから身動き取れない)


「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

 ダイゴは頭を抱えようとしたが、手を離した瞬間槍で突かれる為、仕方なく槍を掴んだままで叫ぶ。

 そんなダイゴに、スミオは呆れ半分嘲り半分の笑みを浮かべ、

「お前、馬鹿だろ」

 と言うと、全力で槍を刀の様に振って地面に叩き付けた。

「がはぁっ!!!」

 叩き付けられた衝撃で、肺から空気が噴き出るダイゴ。しかし、二の太刀ならぬ二の槍を食らわない為に、すぐにその場から跳ね起き距離を取る。

 だが、そんなことは許さないとばかりに、スミオは開いた距離を踏破するが如く一気に踏み込んで、全体重を乗せた突きをダイゴに放った。

「うぐおっ!!?」

 流石にこの突きを掴むことは出来ないと思ったダイゴは、心象によって脚力を強化し、全力で右に横っ飛びをして避ける。

「ちぃっ!!」

 舌打ちをしながら、勢いのままに誰も居ない虚空を突くスミオ。

 そんなスミオからダイゴは再び距離を取ると、そのお粗末な脳味噌で勝つ為の策を練り始めた。

(戦ってみて分かったが、コイツかなり強ぇ!!武器ありとは言え、心象無しの状態で、心象ガンガンに使ってる俺と拮抗してやがる!!しかも、槍使ってっからリーチも俺よかかなり長い!!まあ見たところ飛び道具は持ってねぇみたいだし、ゼインよりかはリーチは短いがよぉ・・・、・・・ゼイン?)

 瞬間、ダイゴに電流走る。

(そうだ!!またあの時みたく何かを投げつけてあの槍を壊せば・・・!)

 そう考え、ダイゴはズボンのポケットをまさぐった。しかし、現実は非情である。ダイゴのポケットには、ことわざメダルどころか、砂粒一つ入ってなかった。


「さっきから浮かない顔してどうしたんだハゲ!!辞世の句でも考えてんのかァ!?それとも立ち往生の仕方でも考えてんのかァ!?どっちだコラァ!!」

 

 手厳しい現実にダイゴが打ちひしがれる間も無く、スミオの槍が襲いかかる。

「チキショー!!落ち込む暇も無ぇええ!!!」

 そう愚痴りながら、ダイゴはまた槍をかわそうと横に飛ぶ。

「槍が突くだけのモンだと思うなよテメェ!!!」

 だが、それを読んでいたスミオは、ダイゴが足を地から離した瞬間に、槍を大きく横に薙いだ。白槍の腹がダイゴ脇腹にめり込み、そのまま吹き飛ばす。

「がはぁ!?」

 地面に転がりながら、吐血するダイゴ。どうやら槍の一撃であばら骨が数本折れたようだ。それほどに、スミオの槍による攻撃は重かった。ダイゴは堪らず地面に蹲る。

「どうしたぁ?立ち往生は諦めたかぁ?」

 そんなダイゴを見下ろしながら、トドメを刺そうと、その頭に槍を突き下ろすスミオ。

「っな訳っ、無ぇだろ!!」

 しかし、ダイゴはその攻撃を横に転がることで避ける。

「あっ、クソが!!」

そのせいでスミオは地面に槍を深々と突き立ててしまい、抜くのに手間取る形となった。

 それによって生まれた大きな隙を、流石のダイゴも見逃さない。

「っ!隙ありだぜ赤メッシュ!!」

 起き上がって直ぐに、ダイゴはもたついているスミオに対して、右足によるヤクザキックを放った。

「くっ!?」

 スミオは両腕を交差させ、その蹴りを防ごうとする。しかし、心象によって強化されたそれは、ガードごとスミオの体をぶっ飛ばした。

「ぐぇっ!」

 その衝撃で、スミオはカエルの断末魔の様な声を漏らす。が、それでもダイゴの様に無様に地面に転がること無く、受け身を取って体勢を立て直した。


 そんなスミオに対して、ダイゴは息を切らしながらも笑って言う。

「グヘヘヘ・・・、・・・やっと、当てたぜ・・・チクショウめ・・・!」

 その額から出ていた血は、既に止まっていた。

 しかし、そんなダイゴに対して、スミオは微かに動揺を見せながらも毅然とした態度で言う。

「ケッ!だから何だってんだよ!!テメェの消耗具合を見るに、俺の優勢に変わりは無ぇだろ!!」

 

「いんや・・・。俺のが優勢だ。たった今この瞬間から、な・・・」


「はぁ!?訳分かんねぇことほざいてんじゃねぇぞ!!」

 突然ダイゴが意味不明なことを言い出した為、スミオは混乱して声を大きくした。

 だが、そんな言葉にダイゴは揺らぐことなく、スミオを見据える。そして、

「・・・ずっと待ってたぜ。テメェが手ぶらになる、この時をよぉ」

 と静かに言いながら、僅かに姿勢を低くした。

 スミオは、形容し難い何かをダイゴから感じ取り、眉をひそめて言う。

「・・・何する気だ。テメェ・・・」

 その言葉に、ダイゴは「グヘヘ」と、いつもの様なゲス笑いを口許に浮かべた後、呟いた。


「・・・行くぜ。"必殺"」

 




  《漢大武(おとこダイブ)》





 次の瞬間、スミオの目に映ったのは、凄まじい速度で只ひたすら真っ直ぐに自分の方へ突っ込んでくる、一人の男の姿であった。


 









まあ、つまるところただの体当たりなんですけどね。漢大武。

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