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死後(デッドイン)  作者: 糞袋
第三章・悪人
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楽しい職場!絶対に楽しい職場!!

社会に出たら、人間関係の難易度が突然ナイトメアモードになるイメージがあります。


 ニゾウが五階の待機室に戻ると、そこには未だにソファーに寝そべっているアッシュの姿があった。マリオの姿は無い。アッシュ一人だ。

 アッシュはニゾウが入ってきたことを横目で確認すると、流石に不味いと感じたのか、ゆっくりと体を起こした。

「・・・ニゾウさん、あのハゲの姿が見当たらないですけど・・・、ひょっとして辞めました?」

「あはは〜目が見えなくても今のアシュ嬢が期待のこもった様子なのが分かるよ〜。だけど残念〜、ダイ坊は地獄で鍛練している最中さ〜」

「そうですか。・・・チッ」

 ニゾウの言葉を聞き、舌打ちをするアッシュ。この女、ある意味裏表が無い。というか、裏しか無い。

 そんなアッシュにニゾウは苦笑しながら言った。

「ま〜ま〜、そ〜毛嫌いしないであげてよアシュ嬢〜。良い子だよ〜?ダイ坊は〜。直向きでさ〜」

「猪突猛進馬鹿なだけじゃないですかね?・・・正直言って、あんな奴がどれだけ鍛練積んだところで、戦力にはならない気がするんですけど」

 そんな風にアッシュがズケズケと物を言うが、ニゾウは涼しい顔で返す。

「どうかな〜?儂は、あの子は案外化けると思うんだけど〜」

「ニゾウさん、同じ様な台詞をあの『役立たず』にも言ってませんでしたか?」

「役立たず〜?誰の事だ〜い?」

 首を傾げるニゾウにアッシュは溜め息混じりに言う。

「・・・アイツですよアイツ。ほら、先月第六に入ったっきり、全く活躍してないあの」

 アッシュが役立たずと言っているのはミールの事であると、その時初めて察したニゾウは、しかし涼しい顔を崩さず言う。

「ミル坊はまだ入隊して一月目さ〜。普通一月なんかじゃ〜結果はあんまり出ないよ〜」

「・・・だけど、アイツの心象、スッゲー『微妙』ですよ。あんなんがどう化けるのか、想像つかないんですけど」

「想像つかないのは当たり前だよ〜。人間の成長に規則性なんて無いからね〜。ま〜、だからこそ人間は努力するべきなんだけど〜」

 そう言ってニゾウはケタケタ笑った。

 それに対し、アッシュは少しだけ顔をしかめると、

「・・・そうですか。じゃあ俺も、更なる成長の為に努力することにしますかね」

 と言って立ち上がり、部屋から出て、鍛練室でトレーニングをしようとニゾウの後ろにある扉まで歩く。

 すると、アッシュが自分より背後に移動した事を感知したニゾウが口を開いた。

「そう言えばマリ坊の気配が感じれないけど、鍛練室か〜い?」

「いえ、アイツなら"調べ物がある"とかで外に出ちまいましたよ。・・・あのホモゴリラ、調べもんなら獄番(ここ)の『情報室』使えば良いのに、わざわざ外出して人手空けやがって・・・」

 アッシュはこの場に居ないピンクアフロゴリラにブツブツと悪態を垂れた後に「じゃあ任務要請があったら呼んでください」とニゾウに言うと、今度こそ部屋から出ていった。





「ックシュン!!・・・誰か私の噂でもしてるのかしら」

 そんなベタな事を言いながら、マリオは鼻を擦った。現在マリオが居るのは死界に存在している図書館である。獄番から1km程離れた場所に位置しているこの図書館は、保有している本の数は1000万以上というかなりの蔵書数を誇り、死界に在る数々の図書館の中でもトップレベルの規模の図書館なのだ。

 そして今マリオはこのマンモス図書館に、ある調べ物をしに来ていた。

「・・・・・・」

 図書館に設置されている椅子に座りながら、『死界、ここ100年の歴史』と背表紙に書かれた分厚い本と向かい合うマリオ。その表情は真剣そのものだった。

 マリオはその本を読みながら呟く。

「・・・ここにも載ってないようね。・・・獄番の事件ファイルには無かったから、こーいう本に書かれていると思ったんだけど・・・」

 パラパラパラ、とページを捲るマリオ。しかし、欲している情報を見つけることは出来ず、本をパタン、と閉じる。

 そして、周囲を見回してから、小さな溜め息を一つ吐いて言った。

「・・・こんな本にも『天番(ヘブン)』の情報操作が及んでいるのね。・・・全く、キナ臭いったらありゃしないわ・・・」

 マリオの呟きは誰の耳にも入らないまま、溜め息と共に図書館の静寂に融ける。その静寂の中を、マリオは手元の本を返し、次の本を取る為に歩いていった。



ガチャリ


 扉の開く音と共に、マリオは獄犬第四部隊の待機室に入る。あの後も図書館でしばらく調べ物をしていたが、目当ての情報が見つからなかった為、諦めて戻ってきたのだ。

「只今戻ったわー・・・って、あら?ニゾウさんだけ?他の二人は?」

 部屋に入って開口一番、マリオはそうニゾウに尋ねた。

 ニゾウは答える。

「アシュ嬢は鍛練室、ダイ坊は地獄で鍛練中だよ〜」

「あら、二人とも熱心ね!若くて努力家なんて、将来有望よ!」

 マリオがそう言って笑うと、ニゾウも、笑って返す。

「アハハ〜、そうだね〜。ま〜、儂から見ればマリ坊も充分若いけどさ〜」

「まぁ!私が花も恥じらうお年頃の乙女なんて、照れるわ!」

 どうやらこのゴリラの耳には地獄のイヤホンが付いている様だ。

「ふふふ〜。楽観的なのは長生きの秘訣だよね〜」

「もう死んでるわよってどーいう意味よ!」

 突っ込みを入れるマリオの姿に笑うニゾウ。


 しかし、ニゾウは微笑みそのままに、静かにマリオに切り出した。

「・・・で、調べ物ってのは何だ〜い?」

 マリオはその台詞に表情を曇らせて、答えた。

「・・・ごめんなさい。言えないわ」

「・・・わざわざ『情報室』を使わずに、外で調べたって事は、・・・獄番がらみか、それとも天番がらみか・・・」

 ニゾウは間延びした感じを消して言う。その言葉には凄みが潜んでいた。

 マリオは、その言葉の中の『天番』という単語にほんの僅かに身を強ばらせた。

 ニゾウはそんなマリオの変化を空気の振動を通して察するが、敢えて触れずに、そのまま言葉を紡ぐ。

「・・・ま〜詳しくは聞かないでおくよ〜。誰にだって見られたくない(はらわた)が一つぐらいあるからね〜。・・・でもね〜マリ坊」


「儂らは仲間だ〜。膓は見せなくて良いから、せめて(しんのぞう)の欠片程度は、晒して頼っても良いんだよ〜?」


 ニゾウの声には人を安心させるような、温かくて、それでいて柔らかい、そんな響きがあった。

 しかし、マリオは、

「・・・・・・ごめんなさい・・・」

 と、心の底から済まなそうに言うだけだった。そして、

「・・・そろそろ昼だから、私ダイゴちゃんとアッシュ、呼んでくるわ。皆で昼御飯にでも行きましょう?」

 と、話の流れを断ち切るように言った。

 そんなマリオに対し、ニゾウは、

「・・・いや、儂は此処で番をしとくよ〜。いつ要請があるか分からないからね〜」

 と返す。

 その言葉を聞き、マリオは「・・・分かったわ」とだけ言って、さっさと部屋から出ていってしまった。


 マリオが出ていった後、ニゾウは呟く。

「・・・うちの若ぇのは、誰も彼も頼るのが下手だなぁ・・・。あぁ、情けねぇ隊長だよ、全く」

 その言葉は、込められた自責の念が重すぎたのか、何処にも飛んでいけず、只々床に転がるだけだった。



「アッシュー。入るわよー」

 そう言いながらマリオは鍛練室の扉を開ける。

 すると、

「・・・仕事すっぽかして、何処行ってやがった糞ゴリラ」

 というドスの効いたアッシュの声がマリオの耳に届いた。

 マリオが声の方を向くと、そこにはバーベルを両腕で担いだアッシュの姿があった。流石に筋トレには邪魔だったのか、鼠色のパーカーは近くに無造作に脱ぎ捨てられており、上半身の服装は黒い半袖のスポーツインナーだけになっている。

 アッシュは続ける。

「調べ物をする場所も、調べ物の内容も言わねぇ。・・・なーにコソコソしてやがんだテメェ」

「ウフフ、それは乙女のヒ・ミ・ツよ」

 マリオはそう返しながらウインクをした。その姿は見るもおぞましい。

 しかし、アッシュはそのモンスターウインクに別段リアクションをすることなく、ただいつもの様に眉をひそめて言った。

「・・・これだけは言っとくぜ。俺は、内容は知らねぇがテメェに昔何か有った事自体は知ってるし、・・・その点で俺はテメェに"俺と近いもん"を感じてる。・・・だが、もしテメェが今コソコソやってる事が悪事なら、俺はテメェを迷わず"殺す"」

 その言葉には、アッシュが本気だということを感じさせる気迫が籠っていた。

 しかし、マリオはそんな殺意すら感じさせる言葉に、僅かも動揺せずに返す。

「あら怖い。まあ、アンタが思ってるような事はしてないから安心しなさい。私はただ・・・」

 そこまで言ってから、マリオはハッとした様子で口を噤んだ。

 そんなマリオをアッシュは少し睨むが、それだけで何の追求もせず、無言でバーベルを片付けて置いてあるパーカーを引っ掴むと、さっさと鍛練室から退室してしまった。


 一人鍛練室に取り残されたマリオは、しばらく静かに棒立ちになった後、ぽつりと

「・・・早くダイゴちゃんを呼びに行かなきゃ・・・お昼が終わっちゃうわね」

 と呟き、鍛練室を退室して、エレベーターへ向かった。


 

 


 





でも今は、取りあえず大学を卒業できるように精一杯頑張ります。

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