その男、単純につき
仕込み武器って、なんか浪漫がありませんか。
ヒクソンの首に刃を据えるニゾウからは、ダイゴを気圧す迫力が確かにあった。
「・・・ガハハハハ!!!!お見事!!!!」
ダイゴに絡み付いた緊張、それをほどいたのは現在進行形で首に刃を据えらているヒクソンの馬鹿デカイ笑い声だった。
「速さ、鋭さ、正確さ、どれをとっても、やはりニゾウ殿は素晴らしい!!!!我輩では到底及びませんぞ!!!!!!!!」
そんなヒクソンから、ニゾウが刃を離し、錫杖に再び仕込んでから笑う。
「いや〜、今日は場所が儂に有利だっただけさ〜。例えば此処が広々とした大地とかなら、結果は違ったかもしれないよ〜」
「ガハハハハ!!!!またまたご謙遜を!!!!!!!!」
そんな会話をしている隊長格二人をダイゴが呆然と見ていると、横からマイティが話しかけてきた。
「・・・どうだった。隊長格の組手は。少しは参考に出来そうか」
ダイゴは首を横に振る。
「・・・いやぁ、何つーか・・・、格が違いすぎて・・・」
「・・・まあ、そりゃそうだろうなぁ・・・」
マイティはそう相槌を打つと、黙ってしまった。
そんな二人の様子に気付いたのか、それとも単に会話が終わったのか、ニゾウとヒクソンが二人に近付いてきた。
「さ〜て、じゃ〜組手はこんなもんで良しとしよ〜か〜」
間延びした声でそう言うニゾウに、ダイゴは思いきって質問することにした。
「あ、あの!ニゾウさん!質問があるっス!!」
「ん〜?何だいダイ坊〜?」
ニゾウは穏やかにダイゴの質問に耳を傾ける。
ダイゴが目を輝かせて問うた。
「『今』のがニゾウさんの心象っスか!?」
―迫り来る牙と化した平面を、全て無に帰したニゾウ―あの光景が、ダイゴの脳内で繰り返し再生される。その光景は気圧される程に凄まじく、しかしダイゴの持つ少年の心をガンガンにくすぐる程に格好良かった。
そんなダイゴの様子を察し、ニゾウは照れたように毛の無い後頭部を掻きながら言う。
「その通り〜。今のが儂の心象、『間合』だよ〜」
「間合?」
ダイゴは首を傾げる。そのお粗末な理解力では、心象名から心象の能力を割り出すことなど出来なかった。
そんなダイゴにニゾウが言う。
「良く分からないといった様子だね〜。ま〜今から儂のする説明を聞けば何となく分かるようになるさ〜」
「お、オッス!ご鞭撻、お願いするっス!!」
ダイゴはそう言ってニゾウに頭を下げた。
そんなダイゴに、ニゾウは「そんなに固くなることは無いよ〜。もっと肩の力抜いて〜」と頭を上げさせた後、説明を始める。
「儂の心象、『間合』の能力は『間合いの操作』さ〜」
「ま、間合いの・・・操作?」
「あはは〜、ま〜聞くだけじゃ分かりにくいだろうし、実演をするよ〜」
ニゾウはそう言うと、近くに居るヒクソンにこんな頼み事をした。
「ヒク坊〜。ちょっと10m離れた所を隆起させて貰えるか〜い?」
「お安い御用ですぞ!!!!そぅれ!!!!」
ヒクソンはそう言うと、ニゾウの居る地点から丁度10m離れた場所の床を隆起させた。
その様子に、ダイゴは
(・・・ヒクソンさんの心象って、豪快なだけじゃなくて、かなり精密な動きも出来るんだな・・・)
と、地味に感激していた。
そんなダイゴに、ニゾウが言う。
「さ〜ダイ坊〜、ヒク坊の心象に感動するのも良いけど、儂の心象もちゃんと見ててね〜」
「う、ウッス!」
ダイゴが威勢良く返事をすると、ニゾウは満足気にニンマリと笑い、そしてゆっくりと仕込み錫杖を抜いた。
顕れた白刃がギラリ、と冷たい光を放つ。その光は、ニゾウの穏やかな雰囲気とは正反対の、恐ろしい何かをダイゴに感じさせた。
「・・・!」
思わず唾を飲み込むダイゴ。そんなダイゴの唾を燕下する音と同時に、ニゾウが刀をフッ、と横に薙いだ。
直後、隆起した床が、その身に右斜めの斬れ目を走らせ、その斬れ目に沿って、
ズルリ
と分かれた。
その様子にポカン、となるダイゴにニゾウが笑いながら言う。
「・・・こんな風に、刀を振ることで『自分の感知出来る物を切断する』ってのが、儂の心象さ〜。ま〜、儂がこの刀で実際に斬れる物しか切断対象には取れないし、仮に対象に取れたとしても実際に斬れる勢いで刀を振らないと切断することは出来ないけどね〜」
ダイゴはニゾウの言葉を受け、言った。
「な、成る程、無敵っつー訳じゃ無いんスね」
しかし、そんなダイゴにヒクソンが反応する。
「ガハハハ!!!!ところがどっこい!!!!それは違うぞダイゴ!!!!何故ならニゾウ殿に斬れない物は無いからな!!!!」
「へ?」
今度はダイゴがそんな反応を示した。そんなダイゴに、ヒクソンは続ける。
「ニゾウ殿の斬撃はな、鍛練によって培われた腕力と剣技により、岩や鋼はおろか、火炎や雷電すらも断ち斬るのだ!!!!」
「どういうことなの・・・」
ダイゴはヒクソンの言葉に対し、色々な疑問が頭の中で湧き出るが、如何せん疑問の数が多すぎて、そう呟くことしか出来なかった。
そんなダイゴに対し、マイティがヒクソンの言葉に続く形で言う。
「ちなみにニゾウさんの感知出来る範囲は半径15mだ。背後に居る敵でも感知出来るから、死角は無いぞ」
(そ、そうか・・・。ニゾウさんは始めから何も見えてねぇ、つまり全方向死角みてぇな状態だ・・・。なのに、普通に見えてるみてぇに生活してんだから、ニゾウさんに『本当の意味での死角』が無ぇってのも、当たり前か・・・)
ダイゴはマイティの台詞に衝撃を受けながらも、そんなことを頭の片隅で考えていた。
「さてと、なんやかんやで地獄の見学も終わったし、そろそろお暇しようか〜」
刀を錫杖に戻してからニゾウがダイゴに言う。
しかし、そんなニゾウにダイゴは少し考えた後、こんな返答をした。
「・・・すんませんニゾウさん。俺、もう少しここに残っても良いッスか?」
「・・・分かった〜。じゃあ、昼になったら呼びに来るから、それまでここで鍛練してて良いよ〜」
「え!?何で俺がここで鍛練しようとしてることが分かったんスか!!?」
ダイゴは心底驚き、目を丸くする。
しかし、そんなダイゴにマイティが呆れ顔で言った。
「いや、地獄でやることなんてそれ以外無いだろ」
「あ、それもそうッスね」
ダイゴが掌をポンと叩いて言う。相も変わらずこのハゲは抜けている。
「・・・じゃ〜儂はもう戻るよ〜。ダイ坊は〜・・・ま〜好きな時に戻ってきな〜」
ニゾウがそう言い、地獄から出ていく。
それを見送った後、ヒクソンはマイティに言った。
「マイティ!!!!我々も戻るぞ!!!!今は無くとも、いつ何時に要請が来るか分からんからな!!!!」
「了解。・・・んじゃ、そういう訳だから。またな、ダイゴ」
マイティがダイゴに言う。
「オス!今日はありがとうございましたっス!!」
ダイゴがそう言って頭を下げるのを確認してから、マイティはヒクソンと共に地獄から出ていった。
一人地獄に残ったダイゴは考えた。
(さて、鍛練するとは言ったものの、具体的に何やりゃ良いか分かんねぇな。・・・でも、じっとはしてらんねぇ!俺もスゲー鍛えまくって、マイティさん達みたいに強くなるんだ!!)
一見地味な心象でも鍛練次第で強くなれる事をショウタロウが証明してくれたのもあり、今のダイゴは昨日以上に鍛練に燃えていた。が、
「・・・だー!!やっぱ駄目だ!!何も思い付かねーや!!」
その萎びた林檎よりもお粗末な脳味噌では、鍛練の具体案など浮かぶ訳が無かった。
「っはー・・・・・・・・・」
何となく、地獄の床にゴロンと大の字に寝転がるダイゴ。しかし、そうしてみても勿論良い考えなど思い付かない。
「・・・・・・・・・普通に、戻って筋トレすっかな・・・」
天井を見上げてそう呟くダイゴだったが、その時不意に先程ここで繰り広げられていた光景が頭の中で蘇ってきた。
(・・・しっかし、マイティさん達の必殺技、カッコ良かったなぁ、凄かったなぁ。・・・てか、技名を付けたら気合いが入って心象が強くなんのか・・・。まあ確かに攻撃一つ取っても、普通にやるよか『必殺技』としてやった方がテンション上がりそうだよなぁ・・・)
思考をそこまで巡らせて、ダイゴはある考えにたどり着いた。
「そうだ!俺も必殺技作っちまおう!!」
てか、頭痛い。




