洞、空、
ぽっかりと。
「お、目が覚めたか」
ダイゴが目を開くと、そこには突っ立ったまま自分を見下ろすマイティの姿があった。
ムクリ、と体を起こすと、そこはあいも変わらず地獄のままだ。病床に運ばれてはいないらしい。
「というか、良い時に起きたなお前」
辺りをキョロキョロと見るダイゴに、マイティがそんなことを言う。
「え?どういうことっスか?」
ダイゴがそう問うと、マイティは地獄の中のある箇所を親指で指し、言った。
「今から始まるんだよ。隊長格の組手が」
その先には、ニゾウとヒクソンが10mほど間をあけた状態で向かい合っている姿があった。ニゾウは錫杖をつきながら、笑顔を浮かべている。対して、ヒクソンも遠足前の小学生の様な、ワクワクを抑えきれないといった表情を浮かべていた。
ニゾウが言う。
「いや〜、ヒク坊と立ち合うのも久方ぶりだね〜。ま〜、お互いに今後の糧になるような組手にしようか〜」
ヒクソンが豪快に笑う。
「ガハハハハ!!!!!!!!ごもっともですな!!!!!!!!さぁ、折角の組手だ!!!!!!!!良いものにしましょうぞ!!!!!!!!!!!!」
二人のやり取りを見ながら、ダイゴが言う。
「・・・ニゾウさん、大丈夫っスかね?正直、ヒクソンさんの力が凄すぎて、ニゾウさんが勝てる光景が浮かばないんスけど・・・」
―ニゾウは獄番の頭であるボブと同じくらい強い―昨日アッシュが言っていたその言葉が、とてもではないが信じられなかった。もっとも、あのおちゃらけたキャラクターのボブと同じくらい強いとしても、あまり安心は出来ないのだが。
しかし、そんなダイゴに対し、マイティは、
「・・・その心配はいらねぇよ。群雄がひしめき合う獄番の中でも、ニゾウさんの実力はピカイチだ。・・・まあ、見てな」
と言って、顎で隊長二人の方を示した。
向かい合ったまま、微動だにしない二人。互いの出方を伺っているらしい。重苦しい緊張が、室内を包む。
そして、その重圧を先に破ったのは、
「行きますぞニゾウ殿!!!!」
ヒクソンだった。言うが早いかその右手で地面を殴り、自らの必殺技を宣する。
《叫喚の大地》
室内の平面という平面が鳴き震え、ニゾウを穿とうと牙を剥く。
しかし、今まさに自らの体に大穴が空こうとしている中でも、ニゾウは穏やかな笑みを絶やさずにその錫杖を"持ち変え"、その綻んだ口許を静かに動かした。
《虚》
次の瞬間、ダイゴの目に映ったのは、"獣道の様にくり貫かれた牙の群生"と、"ヒクソンの頸元に鋭く光る『錫杖に仕込まれた刀』を据えながら微笑するニゾウ"だった。
「儂の勝ち〜」
ダイゴの耳が、そんな間延びした声を、捉える。
白刃の放つ冷たい光が、やけにその視界に焼き付いた。
木とかに出来たでかい穴を見ると、その向こうに不思議な世界が広がっているような、その世界に行ってみたいような、でもそんなものがあるわけがないと諦めているような、しかしやはり少し穴の向こうを覗いてみたいような、そんな気持ちになります。で、実際に覗いてみるとそこには何もなくて、「もしも、僕が子どもであったならば、その穴の向こうには今とは違う世界があったかもしれない」と、少しがっかりして、でも同時に、何故だか少しホッとします。




