吾輩は筋肉髭達磨である
僕は猫が好きなので、あの小説に登場する猫が溺死する寸前でギリギリ助けられたという説を主張します。
豪胆で豪快な登場したその大男の方へ、ダイゴはおそるおそる近付き、尋ねた。
「あ、あのー・・・ちょっと良いっスか?」
すると、大男はダイゴの方を勢い良く向いて言った。
「ん!!!!?何だ!!!!ダイゴ!!!!?」
「ファッ!?な、何で俺の名を!!?」
ダイゴは驚愕する。何故今初めて会った自分の名を知っているのか、そんな疑問が頭の中を駆け巡った。
しかし、その疑問に解を出す知能を持っていなかった為、やむなく呆然とするダイゴを見て何かを察したのか、大男は笑いながら助け船を出す。
「ガハハハハ!!!!!!!!どうして我輩が"自分の名"を知っているのかという顔だなぁ!!!!!!!!まあ理由は簡単だ!!!!今朝ボブ殿から教えてもらったのだよぉ!!!!"獄犬部隊長への通達"としてなぁ!!!!!!!!」
「・・・ヒクソン隊長。説明する時にはもう少し声のボリューム落とした方が良いですよ」
片耳を押さえながら、苦虫を噛み潰した様な表情で、マイティが苦言を呈した。
その言葉に大男、ヒクソンが返す。
「うむ!!!!!!!!それもそうだな!!!!!!!!!!!!では次からは声を下げるとしよう!!!!!!!!!!!!!!!!」
「いや今下げろよ」
マイティが押さえていなかった方の耳も押さえて言った。
そんな二人の様子を観察してから、ダイゴがマイティに問う。
「えっと・・・二人はどういったご関係なんスか?」
「どういったって、普通に同じ部隊の隊長と隊員の関係だよ」
マイティがそう答えると、それに続く形でヒクソンが口を開いた。
「そういえば自己紹介がまだだったな!!!!我輩の名はヒクソン!!!!第八部隊隊長だ!!!!!!!!宜しく頼むぞぉ!!!!!!!!」
そう言ってガハハハハ!!!!と笑うヒクソンに、マイティが問う。
「・・・で、わざわざ心象使ってまで組手を中断させた理由は何ですか?もしかして出動要請でも?」
「いや、違う!!!!只単にお前達の戦いを見ていたら血が沸いたので、つい参戦してしまっただけだ!!!!!!!!」
悪びれもせず言い切るヒクソン。マイティがため息を吐く。
「はぁ、全く。仮にも一部隊の隊長なんですから、もう少し自制というものをですね・・・。・・・まあ良いや。そういうことなら、今から俺とショウタロウの二人対ヒクソン隊長で組手でもします?」
しかし、ため息を吐きながらもマイティはヒクソンに対して組手を申し込んだ。その表情は、再び戦闘時のあの愉しげなものに変わっていた。
が、
「いやはや、その組手にはとても心が踊るんだが・・・、実はこの後"ドキルク"と共に市街のパトロールをする仕事があってな・・・」
そう言うとショウタロウは両掌を顔の前で合わせて、謝罪のポーズを取る。
マイティが残念そうな顔を作る。
「・・・そうか、分かった。・・・そういうことなら、傷だらけだとあれだろうし、俺の治癒香辛料やるよ」
マイティはそう言いながら、ズボンのポケットから例の薬を取り出し、ショウタロウに投げて渡した。
「おお!スマンなマイティ!恩に着る!!」
ショウタロウはそう言って治癒香辛料を飲み込んだ。瞬間、ショウタロウの身体中の傷が癒える。
「ま、良いってこった」
そう言いながら、マイティもそれを飲み込み、傷を癒した。
例を言ってからショウタロウが室内から出るのを確認した後、マイティは急に何かを思い付いたのか、手をポンと叩いて言った。
「あそうだ。じゃあ、ちょうど4人この部屋に居るわけだし、2対2で組手でもしませんか?」
「おお!!!!それは良いアイディアだ!!!!!!!!研修生の実力も見れるしな!!!!!!!!」
ヒクソンが便乗する。
「それはまた面白そうだね〜」
向こうの壁からいつの間に歩いてきていたのか、ニゾウがダイゴの背後で言った。
ニゾウはそのまま続ける。
「で〜、班決めはどうするんだ〜い?」
その言葉にマイティが反応した。
「そりゃもちろん、部隊毎にですよ。折角バランス良く第八が二人、第四が二人、揃ってんですから」
その言葉に、ヒクソンも首を縦に振る。
しかし、各々がその組手に乗り気な中、ダイゴは1人内心穏やかでなかった。
(い、いやいやいや!!無理無理無理!!!絶対死ぬって俺が!!!!主に俺オンリーが!!!!!)
ダイゴの額に、汗が浮かぶ。
しかし、賛成3人反対1人ということで多数決の原理に乗っ取り、無情にも第四部隊vs第八部隊の合同組手の火蓋は、ここに切られたのであった。
「さて、部隊対部隊ということは決まったが、他のルールはどうしようか!!!!!!!!二対二か!!!!!!!?それとも個々でのタイマンか!!!!!!!!?」
高揚しながらヒクソンが言う。その瞳は少年の様に輝いていて、とても見ていて精神を抉られるものである。
しかし、そんなヒクソンのテンションにマイティが水を差す。
「・・・てか、ルール決める前に『あれ』、どうにかして下さいよ隊長」
そう言いながらマイティが指差した先には、未だ聳え立ったままの"床"があった。
ヒクソンはポンと掌を叩いて言う。
「おお!!!!完全に忘れておったわ!!!!!!!!我輩ったら忘れん坊!!!!!!!!」
「どうでも良いから早く元に戻さんかい」
マイティが眉間の皺を揉みながら苛立たしげに言う。おい敬語使えよ。
しかし、ヒクソンはそんなマイティを咎めることなく、豪快に笑った。
「ガーハッハッハ!!!!マイティの言う通りだな!!!!ではこれ以上どやされぬ様に、早く戻すとしよう!!!!!!!!」
ヒクソンがそう言うと同時に、床が一瞬で元に戻った。
ダイゴが眼を丸くする。
「す、スゲー!!!あんなになってた床が一瞬で元通りに!!しかも、隆起した痕も全く無い!!!」
それを受け、ヒクソンはまた笑う。
「ガハハハ!!!!そうだろう!!!!スゴいだろう!!!!我輩の『隆起』は!!!!!!!!」
「え?ばるじ?」
ダイゴが頭上に疑問符を浮かせた。その様子に、ヒクソンが言う。
「『隆起』とは、我輩の心象の名だ!!!!!!!!丁度良い!!!!折角こうして地獄に居るのだから、一つ範を示してやろう!!!!!!!!」
そう言うと、ヒクソンは意気揚々とダイゴ達から離れていき、20m程距離が開いた地点で止まった。
マイティが離れた場所のヒクソンに呼び掛ける。
「あんまり張り切って、この部屋を壊さないで下さいよー」
「ああ!!!!!!!!善処する!!!!!!!!」
せめて了解しろよ。
「え!?ヒクソンさんの心象って部屋壊せるレベルのもんなんスか!!?」
「当たり前だろ?あれでも一応部隊長だぞ?」
何言ってんだ、という様子でマイティがダイゴの問いに答える。その口ぶりからするに、どうやら獄犬の部隊長というのは、基本的にこの広い部屋を破壊できる力を持っているようだ。全く恐ろしい話である。
「それでは実演を始めるぞー!!!!しっかり見ていろよダイゴー!!!!!!!!」
ヒクソンがダイゴに大声で呼び掛け
た。ダイゴも、「分かったっスー!!!!」と大声で返す。
「良い返事だ!!!!」
ヒクソンは満足そうに笑うと、直ぐに真剣な表情になった。
(な、何だ・・・!?ヒクソンさんの雰囲気が変わった・・・!?)
ダイゴはヒクソンの表情が変わると共に、ヒクソンの雰囲気もガラリと変わったことを察して、少し身震いする。それほど、目の前の大男の雰囲気には凄みがあった。
ヒクソンは体を微動だにさせずに、気合いを発する。
「はぁ!!!!」
瞬間、ダイゴ達から見てヒクソンの向こう側の床が、ゴアッ、という音を立て、大きく隆起した。その床の形はまるで巨大な槍の様な鋭いものだ。
その様子に、ダイゴは思わず拍手する。
「スッッッッゲー!!!めちゃくちゃ豪快な心象じゃ無いっスか!!カッケー!!!」
「ははは!!!!そうだろうそうだろう!!!!だがしかァァし!!!!!!!!!!!!」
「へっ!!!!?」
いきなり大声を出した(とはいっても元から声の大きさはかなり喧しいのだが)ヒクソンに、ダイゴは思わず硬直する。
ヒクソンは続けた。
「我輩の心象の真価は、こんなものでは無ああああああい!!!!!!!!!!!!」
「え!?ど、どういうことっスか!!?」
ダイゴはおっかなびっくりしながらも問う。
ヒクソンは答えた。
「我輩の心象、『隆起』は見ての通り床などの平面を隆起させる能力だ!!!!こんな風にな!!!!」
グオンッ、と轟音を立てながら、今度はダイゴ達から見てヒクソンの左右後ろ全ての床が同時に隆起する。
その中で、ヒクソンは続けた。
「しかし、此れは我輩が"何もしなかった場合"だ!!!!!!!!」
「何もしなかった場合?」
ダイゴはその言葉に首を傾げる。
そんなダイゴにヒクソンは言った。
「我輩の心象、『隆起』はあることをすれば隆起範囲、隆起速度、共に数倍に強化されるのだ!!!!!!!!」
その言葉にダイゴは驚愕して言った。
「ま、マジっスか!!?今ですらかなりの勢い+範囲なのに!!!?い、一体どうやったらそんなことが!?」
ヒクソンはその問いに、大声で答える。
「それ方法とは!!!!!!!!!!!!地面をぶん殴ることだああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ヒクソンは、床をその丸太のような豪腕で殴打しながら、慟哭する。
「鳴動しろ!!!!!!!!」
《叫喚の大地》
部屋が、嘶く。
次の瞬間、ダイゴの目に飛び込んできたのは、地獄の床が、壁が、天井が、目前の三次元のありとあらゆる平面が、室内の空間を食む巨大な牙の様に変化した、化け物の口の中のような光景だった。
「・・・す、すげぇ・・・」
あまりの衝撃に、ダイゴは最早それしか言えなかった。この世界、死界に来てから、様々な驚くべきことと何度も遭遇してきたが、目の前の光景は、その中でも頭一つ抜けていた。
しかし、その光景はダイゴが感想を口から洩らした直後に消えた。
何事も無かったかのような空間にヒクソンが佇む。
一瞬その場を包んだ静寂は、しかし直ぐに生み出した本人に破られた。
「さあ!!!!どうだったダイゴ!!!!我輩の心象は!!!!?凄かっただろう!!!!」
「凄・・・かった・・・つーか、何・・・つーか、格が違う・・・っつーか」
未だ茫然自失といったダイゴを隣のマイティが揺さぶる。
「おーい。大丈夫かー」
「ヘァっ!!?」
正気に戻るダイゴ。意外とリカバリー能力は有るようだ。
ダイゴが正気に戻ったのを確認した後、マイティは言った。
「まあ、あんな心象だよ。うちの隊長のは。・・・さて、じゃあルールを決める、でしたっけ?」
マイティはヒクソンに視線を向ける。
ヒクソンは答えた。
「ああそうだ!!!!さあどうする!!!!?」
「・・・サシで勝負してさ〜、片方が『参った』って言うまでで良いんじゃ無いか〜い?」
ニゾウが口を開き、案を出す。
「おお!!!!それ、良いですな!!!!じゃあそのルールにしましょうか!!!!どうだ!!!!?マイティ!!!!?」
「良いですね。俺は賛成です。・・・ダイゴ、お前はどうだ?」
「え!?あ、ああ!!良いっスねそのルール!!それにしましょうっス!!」(このルールだったら死ぬこともねぇだろ!多分!!)
ダイゴがそう考えながら返事をすると、マイティは頷いてから言った。
「じゃあ、そのルールで行きましょう。で、最初に誰と誰が戦ります?」
「やはりそこは若人同士!!!!お前とダイゴがやれば良いじゃないか!!!!!!!!」
ヒクソンが言う。ニゾウもその意見に概ね賛成らしく、微笑みながら頷いている。
その様子に、マイティは言った。
「分かりました。じゃあやるか、ダイゴ」
「ええ!?う、ウス・・・・・・」
ダイゴ、既に弱腰だ。お前そんなんでこの先やっていけるのか。
マイティが言う。
「よし。じゃあ隊長やニゾウさんを巻き込まねぇ様に、室内の真ん中に行くぞ」
ついてこい、とばかりにマイティが室内の真ん中に向かってずんずん歩いていく。
ダイゴも余り乗り気では無いものの、のそりのそりとマイティの後を追う。
真ん中に着き、二人は向かいあった。
「え、えーと、・・・お互い、怪我には気をつけて、仲良く喧嘩しましょうっス・・・」
おずおずとトムとジェリーみたいな事を抜かすダイゴ。
「良いぜぇぇ!!!テメェのそのチキンな精神に敬意を表して、致命傷じゃなく、重傷で済ましてやるよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
(・・・かなり死傷者[てか死者]が出そうな予感・・・)
早くもスイッチが入っているマイティを目の前に、ダイゴは心の中で頭を抱えた。
まあ、その小説を実際に読んだことは無いんですけどね。




