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死後(デッドイン)  作者: 糞袋
第三章・悪人
35/113

どの仮面ライダーも格好良い

因みに僕は子どもの頃ギルスが一番好きでした。理由は緑色だったからです。幼少期、僕の一番好きな色は緑でした。そういった理由で、相撲取りの中では緑色の廻しを付けた曙〇郎さんが好きでした。一番最初に名前を覚えた相撲取りも、彼でした。

「せいやああっ!!!!」

 続けざまにショウタロウがマイティの腹筋に左前蹴りを放つ。

「動きが直線的だぜぇショウタロウ!!」

 しかし、その蹴りはマイティの手の甲で軌道を逸らされ、何も無い虚空を衝く。

 それにより一瞬無防備になったショウタロウの左脚をマイティは見逃さない。即座に脚を右脇、右手、左手の三点で捕らえると、そのままスープレックスの原理で背後の床に叩き付けようと、後方に倒れ込んだ。が、

「そう言うお前も、動きにムラがあるんじゃないかぁ!?」

 ショウタロウはそう言うと同時に、持ち上げられた状態でマイティの髪を掴み、顔に膝蹴りを叩き込んだ。マイティの鼻から血が噴き出す。

「ぐっ!っっ効かねえんだよボケが!!」

 しかし、マイティは怯まずそのままスープレックスを断行した。

「ごがっ!?」

 膝蹴りにより僅かに減速したものの、それでも尚凄まじいと言える程の速さで床に叩きつけられ、ショウタロウが呻く。

「・・・っおおお!!まだまだぁ!!!!」

 しかし、直ぐに気合いと共に立ち上がるショウタロウ。

 その姿を見て、マイティは鼻元を鮮血で赤く染めながら破顔した。

「ギャハハハ!!そうじゃなくっちゃあなあ!!っさあ、愉しいのはこっからだぜぇオオォォイ!!!!」

 咆哮と共に、マイティはショウタロウに向かって左腕を突き出した。


心象認識(イメージスキャン)・『絡鎖(チェーン)』!!!!!!」


 次の瞬間、マイティの褐色の腕から、黒い鎖が凄まじい速さで何本も何本も生えた。

 そして、それら全てが一本残らずショウタロウに向かって、シャオッと空気を斬り裂きながら伸びる。


 しかし、蛇の様にうねりながら向かってくる鎖を前に、ショウタロウは僅かの動揺も見せることはなかった。その場で堂々と仁王立ちしながら、叫ぶ。



「・・・変身!!!」



 ショウタロウの口から出たのは、ふざけた台詞だった。子どもがヒーローごっこで使うような台詞だった。


 だが、そんな幼稚な台詞がマイティの耳に伝わる頃には、既にマイティの目前からショウタロウの姿は消えていた。



 しかし、間髪入れずにマイティは、

「・・・上かああああああ!!!!!!!!」

 と叫ぶと、天井を足場にして今まさにマイティに飛び掛かろうとしているショウタロウ向かって右腕を突き上げ、黒鎖を放った。

「遅いぞマイティ!」

 しかし、ショウタロウはマイティのその素早い反応を笑うかのように、再び天井から消え、今度はマイティの目前に現れる。

「チィッ!ちょこまかと!」

 ショウタロウが腕の届く範囲に出現したのを視認した瞬間、マイティは反射的に、しかし的確に急所を狙って右拳を突き出した。



 マイティの拳は、かなりの速さだった。少なくとも、プロボクサーのジャブの何倍ものスピードはあった。



 しかし、その拳が届く前に、ショウタロウによってマイティの体に、ほぼ無拍子で三発の蹴りが打ち込まれた。


 



 

「す、すげぇ・・・」

 目の前で繰り広げられる戦闘に、ダイゴは思わず感想を漏らす。

 明確な合図も無しに始まった組み手と、それと同時に豹変したマイティに最初は困惑していたダイゴだったが、闘いの進行と共に、そのような感情は消えていた。


「心象認識・『絡鎖(チェーン)』!!!!」


 戦闘に魅いるダイゴの瞳に、先程自分に向かって伸びてきた黒い鎖が、今度は数を増やしてショウタロウに伸びていくのが映る。

(!!?あの鎖、何本も出せるのか!!?しかも、掌からだけじゃなくて腕からも生やせるのかよ!!!!?)

 しかし、その鎖に対する驚愕は、次の瞬間別の驚愕にすり替わっていた。


「変身!!」


 叫びと共に、ショウタロウの体が消え、次の瞬間にはマイティの真上の天井に移動していた。

 ダイゴは思わず声を上げる。

「しゅ、瞬間移動!!?」

 ショウタロウの動きが、ダイゴにはそうとしか思えなかった。

 しかし、幾らか戦闘の全体の動きを視界に入れているダイゴですら驚愕しているのに、この戦闘の全体を捉えることが困難である筈のマイティは、目の前の事象に戦くことなく、直ぐに「上かああああああ!!!!!!」と叫びながら、天井を仰いだ。天井が視界外であり、ショウタロウがそこに移動したことを確認する事ができないのにも関わらず。

 

 マイティが天に腕を突き上げ、そこから何本もの鎖が伸びる。

 その様子は、まるで黒い木が天に向かって枝を伸ばすようであった。


 しかし、そんな鎖を笑うようにショウタロウの体が天井から再び消え、今度はマイティの目の前に現れる。


 ダイゴがその光景に目を疑うよりも速く、マイティがショウタロウを殴打しようと腕を突き出す。

 しかし、その拳がショウタロウに届く前に、マイティの体が"ドッ"という鈍音と共に弾き飛ばされた。


「な、何だ!?何が起こりやがった!?」

 一連の動きを全く目で追うことが出来ず、事態を飲み込むことが出来ないダイゴ。

 そんなダイゴに助け船を出す為、先程から横で床に腰を下ろしているニゾウが立ち上がり口を開く。

「今のはショウ坊がマイ坊を蹴り飛ばしたんだよ〜」

「あ、あんな一瞬で!!?どんだけ速い一撃なんスか・・・」

 戦慄するダイゴ。しかし、ニゾウは更に言った。

「ま〜正確には三撃だけどね〜」

 ダイゴの度肝を抜く、衝撃の言葉を。

「い、一瞬で三発も蹴りを入れたってことっスか!!!!?」

「その通りだよ〜」

「こ、これがヤムチャ視点ってやつか・・・」

 ダイゴはその事実に、そう感じざるをえなかった。そして、その感情に伴い、ダイゴの体が無意識のうちに身震いする。

 そんなダイゴの震えによる空気の振動を感じたのか、ニゾウが言う。

「・・・ダイ坊〜、この組み手どっちが優勢だと思う〜?」

「え・・・?い、いや見るからにショウタロウさんが優勢の様に思えるっスけど・・・」

 ショウタロウが"変身"してから、マイティの攻撃は一度も成功していない。この事実がショウタロウの優勢を何よりも証明している―ダイゴはそう思いながらニゾウの問いに答えた。

 しかし、ニゾウは笑う。笑って言う。

「・・・今の攻撃、マイ坊にはあまり効いてないよ〜」

「え!?い、いや何言ってんスかニゾウさん!?現にマイティさんはブッ飛ばされて・・・」

 そこまで言って、ダイゴはあることに気づいた。


(・・・あれ?・・・マイティさんの体が、気のせいか少し太くなってる・・・?・・・!!まさか!!!!)


 ダイゴが頭の中である仮説を建てたのと同時に、ショウタロウがマイティに言った。


「・・・この感触。・・・お前、何時から腹に鎖を巻いていた」


「へへっ・・・。『お前が変身した時から』、だ」


 不敵に笑うマイティの服の下には、何重にも黒い鎖が巻かれていた。その鎖の層が鎧の役割を果たし、マイティの体を守ったのである。


「さあてと、次は俺の番だぜぇ・・・」

 マイティは首をゴキゴキ鳴らしながらそう言うと、両腕をまるで何かを迎え入れるかの様に広げた。


 すると、その両腕から伸びた数多の黒い鎖が、まるで蛇が鎌首をもたげるか様に地から持ち上がり、ふわふわと宙を蠢いた。


 その様子は、正しく獲物を狙う蛇の群れの其れであった。


 マイティはそんな蛇群の具現たる黒鎖に、突撃の号令を掛けるかの如く、広げた両腕を獲物(ショウタロウ)目掛けて振り下ろす。


「行くぜぇぇぇぇぇ必殺ぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 



 《絞殺行軍(チョーク・マーチ)


 


 黒い蛇鎖群が先程の何倍もの速さで、宙を這い、嘗め、侵しながら、ショウタロウとの距離を蹂躙する様が、ダイゴの眼中にて蠕動した。



「チィッ!!」

 ショウタロウは己に迫る鎖の大群を避けようと、必死で『攻撃の穴』を探す。しかし、

「無駄だ無駄ァ!!この攻撃は『点』じゃあ無く『面』の攻撃!!咄嗟に避けることなんざ出来やしねぇよぉ!!!」

 そんなマイティの笑い混じりの咆哮と共に、ショウタロウの体は鎖群に呑まれた。


 ダイゴは眼前で起こったその光景に、手に汗握りながらもふと疑問を溢す。

「な、何でショウタロウさんは消えなかったんだ!?あの瞬間移動がありゃ、今の攻撃だって!」

「・・・そいつは無理だね〜」

「えっ?」

 しかし、そんなダイゴの呟きをニゾウが拾った。ニゾウは続けて言う。

「ショウ坊の『アレ』は、瞬間移動なんてものじゃあ無いんだ〜」

「じゃ、じゃあ『アレ』は一体なんなんスか!?」

 ダイゴがそう問うと、ニゾウはにこやかに言った。

「アレは只の『脚力にものを言わせた跳躍』だよ〜」

「・・・え?」

 ニゾウの言葉に呆然とするダイゴ。その現世の常識に未だ囚われまくっている進歩の無い脳味噌では、その言葉を、事実を、理解することは到底不可能であった。

 そんなダイゴの状態を、沈黙を通して察したニゾウは、微笑みながら続ける。

「ま〜ダイ坊がそうなるのも無理は無いね〜。斯く言う儂も、あの子があの心象をあそこまで『練り上げた』のには正直驚いてるし〜」

 その言葉を受け、ダイゴは二つ目の疑問が頭に浮かび、それをニゾウにぶつけた。

「・・・ニゾウさん。ショウタロウさんの心象って、一体何なんスか・・・」

 その問いに、ニゾウは静かに答える。

「・・・ショウ坊の心象は『蹴脚(キック)』。その能力は『脚力強化』さ〜」

「え!?そ、それだけの心象なんスか!?」

 ダイゴは驚く。お前も似たような心象(もの)だろうが。

 しかし、そんなダイゴに、ニゾウは諭すように言った。

「・・・確かに、一見地味な心象だね〜。マイ坊の様な『あからさまな特殊性』も、サレ嬢の様な『分かりやすい特殊性』も無い。・・・でもね〜ダイ坊。心象って言うのは、派手さや意外さで全てが決まる訳じゃあ無いんだ〜」

 その言葉に、ダイゴはハッとする。そして、その後、おずおずとニゾウに問うた。

「・・・・・・・・・あ、あのぅ、一つ質問しても良いっスか?」

「良いよ〜」

 にこやかに返すニゾウ。ダイゴはその言葉を受け、質問を投げかけた。

「・・・心象で、大事なことって、何スか?」

 派手さや意外さでは無いなら、一体何なのか。そんなダイゴの質問に、ニゾウは言った。

「・・・そうだね〜。まあ、月並みだが、『どれ程その心象の可能性を信じて、どれ程策を練り、どれ程鍛練を積めるか』だね〜。・・・だから、『てめぇの可能性を愚直に信じて、てめぇの闘策を愚直に練って、てめぇの心身を愚直に鍛え続けた』ショウ坊は、『あれ位』じゃあ折れないよ〜」


 ニゾウはそう言って、顎で戦闘の場を示した。ダイゴはその場に視線をやる。

 依然、ショウタロウは鎖の中だ。外からは、ショウタロウが一体どうなっているかを伺い知ることは出来ない。


 しかし、そんな状況下で、突然有利な筈のマイティの表情が歪んみ、何と自分から『鎖群を退かせた』。

 鎖の河が退き、ショウタロウの姿が見える。その顔は、先程のマイティの様な不敵な笑みを浮かべていた。


「え!?ど、どうして・・・?」

 目の前で起こった現象に、ダイゴは目を疑う。しかし、そんなダイゴにニゾウが言った。

「ダイ坊〜。マイ坊の鎖を良く見てごら〜ん」

「く、鎖をっスか?わ、分かったっス・・・!?う、嘘ぉ!!?」


 マイティは、退かせた自分の鎖を見て、苦々しく呟いた。

「・・・マジかよ。全部『蹴り結ばれて』やがる・・・」

 その鎖の殆どが、まるで子どもに玩ばれた裁縫の糸の様に、がんじ絡めになって丸まっていた。


 衝撃の光景に、ダイゴは愕然としながらニゾウに問う。

「に、ニゾウさん・・・。い、一体今何が起こったんスか・・・?」

 ニゾウは言った。

「・・・マイ坊の鎖がショウ坊を飲み込んだ時、ショウ坊は咄嗟に何本かの鎖を避けていたんだ〜。それでも、全ての鎖を避けきる事は出来ない、だからショウ坊は、その鍛練によって培われた俊足の蹴りで、残りの鎖の軌道を逸らしたんだ〜」

「え、いやでも、それじゃああんな散々弄くった後の糸屑みたいにはなんないんじゃ無いっスか!?第一、一回避けた所であの鎖、絶対ホーミングしてくるっスよ!?」

 ニゾウの説明に対し、ダイゴはそう反論した。が、

「そうさ〜。確かに、あの鎖は追尾してくる。・・・故に、『あんな事』になったのさ〜」

「え!?ど、どういうことっスか!?」

「簡単だよ〜。追尾により後方から襲ってきた鎖の軌道を回し蹴りで逸らし、その状態から更に追尾してきた鎖の軌道を、蹴りにより再び変える。そうやって軌道を変えられた鎖が、別の軌道を変えられた鎖との衝突や交差を繰り返すことで、最後はあんな愉快な形になったのさ〜」

 ニゾウが笑う。その横で、

「・・・原理は、何となく分かったっス。・・・でも、それを実際に、・・・しかも、あんな速さでやるなんて・・・」

 

 ―人間業じゃねぇ―ダイゴは思わず息を飲んだ。

 

「・・・相変わらず、器用な野郎だなぁテメェはよ」

 しかし、当のマイティは別段動揺する素振りを見せることも無くそう言うと、がんじがらめになっている鎖をうねうねと動かし、ものの数秒でほどいた。かなりの切り替えの早さである。


「ははは!お前にそう言って貰えて嬉しいぞ!・・・だが、これで終わりでは無いだろう?なあ、マイティ」

 そんなマイティの態度にショウタロウは笑いながらそう言い、再び構える。

「・・・へへっ」

 その様子に、マイティも嬉しそうに笑い、そして、


「っっったりめーだろうがあああ!!」


 慟哭と共に、鎖を再び掌からショウタロウに放った。


 放たれた鎖は一本。先程の数多の鎖群より、ショウタロウに向かう速度が更に早い。

 しかし、

「馬鹿の一つ覚えでは俺には勝てんぞ!マイティ!!」

 そういうと、ショウタロウはその場から再び『消失』し、刹那にマイティの目前に『出現』した。


「っ!」

 マイティは、鎖を戻す間も無く、掌から鎖を出したまま両手を胸の前で交差し、防御の体勢に入った。腹には既に鎖が巻いてあるので、防御は胸だけで十分という寸法だろう。

 

「どるぁっ!!!」

「ぐふっ!?」

 しかし、そんな守りなど眼中に無いように、ショウタロウはマイティの腹を右足による蹴り上げを放つ。


 鎖のお陰でダメージは軽減したものの、その衝撃は殺しきれなかったらしく、マイティの体が宙に浮く。

「まだまだァ!」

 ショウタロウはそう言うと、その場から、浮いたマイティ目掛けて上段にローリングソバットを放った。

「ごぶふっ!?」

 マイティの体が更に宙に浮く。心なしか、ダメージが少し入った様だ。その顔が苦痛に歪む。

 しかし、ショウタロウの攻撃は続く。

「とぉっ!!」

 掛け声と共にショウタロウはその場から跳躍し、その勢いのままマイティの顔に、再び膝蹴りを決める。

「ぐぼぁっ!!」

 マイティの顔が上向きに跳ねる。止まりかけていた鼻血が、マイティの鼻から再度噴出し、空中に赤い霧を掛けた。


 その噴き上げられた血よりも高く、ショウタロウはまだ残っている跳躍の運動エネルギーに任せて宙に舞い上がる。

「次ィ!!!」

 ショウタロウは、そのままオーバーヘッドキックの要領で、上空からマイティを斜め下に蹴り落とした。

「ぶぐぉっ!」

 床に叩き付けられ、呻くマイティ。ショウタロウの連撃の前に、成す術無しである。


(・・・ショウタロウさんのあの足さばきといい、機動力といい、・・・・・・マイティさん、かなりピンチじゃねぇか・・・?)

 目の前の攻防を見て、そんな思いを抱くダイゴ。

「マイ坊なら心配ないよ〜。あの子もショウ坊と同じくらい日々鍛えているからね〜」

 ダイゴの心情を察し、ニゾウが言う。

 そんなニゾウにもう慣れたのか、その事自体には別段驚く事無く、ダイゴが言った。

「そ、そうは言ってもっスね・・・。・・・マイティさんの必殺技も、結局ショウタロウさんには効果なかったっスし・・・」

 だがニゾウは涼しい顔。依然として穏やかな雰囲気を崩す事無く、言った。

「大丈夫だよ〜、ま〜見てな〜」

「で、でも・・・!」

 これじゃあ一方的なリンチじゃねぇか、そんな思いを胸に抱きながら、ダイゴは心配そうな視線を転がっているマイティに向けた。


 依然滞空中のショウタロウは、そんなまな板の上の魚の様な状態のマイティを見下ろして、叫んだ。

「さあ!お前ばかりが必殺技を使うのは不公平なのでな!!俺も鬼札を切らせてもらうぞ!!」


刹那、空中にてショウタロウは両膝を自らの胸の前まで来るぐらい深く曲げた。それは一見地味な動きであったが、しかしその動きが次の瞬間に惨劇を生むことを、ダイゴはその場で予感していた。


「必殺!!!!」


 力を溜めるように目いっぱい身体を縮ませて、絞り出すような声を出すショウタロウ。そして、次の瞬間に莫大なエネルギーの塊が産声を上げた。




英雄(ヒーロー)キック》





 子どもがヒーローごっこで使うような技名を叫びながら、右足一本をマイティの方向へ突き出したのである。その単純な一動作を、しかしダイゴの目が捉えることは無かった。


 その動作がダイゴの目に映るより早く、―ヒュン―という鋭い風切り音がダイゴの耳に届くより速く、ショウタロウの右足がマイティの腹に突き刺さっていたからである。


「がっ・・・はっ・・・」


 瞬間、マイティが吐血する。どうやら内臓系に尋常ではないダメージを負ったらしい。ショウタロウの蹴りの破壊力の前に、もはや腹に巻いた鎖のさらしは、全く防御物として機能していないようだった。

「っ!!!!!」

 思わず顔を背けようとするダイゴ。



 その時だった。



「・・・ク、クク・・・」


 マイティの喉から、血と共に、乾いた笑いが溢れて垂れたのだ。


「クク、クカカッ、カハハハッ!ギャハハハハハハハハッ!!!」

 漏れるような弱い笑い声は、しかしだんだん勢いを増し、終いには爆笑と言っても差し支えの無い激しいものとなった。


 それを見て、ショウタロウは一瞬、怪訝な顔つきになるが、直ぐに何かを察したらしく、素早くマイティから離れようと足に力を込める。


 しかし、


「・・・・・・つーかまーえた」

 それよりも速く、先程伸ばされたまま放置されていたあの一本の黒鎖が蛇の様にうねり、ショウタロウの脚を絡めとった。


 

「ぬぉっ!?」

 鎖に脚を捕られ、思わず動揺するショウタロウ。

 その隙を見逃す事無く、マイティは床に倒れている状態のまま、その鎖を生やしている左掌から、更に三本の鎖を追加で生やして、ショウタロウの残りの手足を縛り、その緑のジャージを纏った体を宙に浮かせた。


「・・・形勢逆転、だな」

 マイティはフラフラと立ち上がり、不敵に笑う。

「・・・で、どうするんだマイティ?このまま縛った状態で、俺が音を上げるのを待つか?」

「はっ、ご冗談。テメェがコレぐらいで音を上げねぇことなんざ、俺が一番良く分かってるっての」


 マイティは、右掌から一本の黒鎖を生やし、それを握る。


「だからこうする」


 そして、その鎖を鞭の様にしならせて、ショウタロウの顔面を殴打した。


「ぐがぁっ・・・!!」

 ショウタロウの顔が跳ね、口から血飛沫が吹き出た。

 その赤い液体の中に、数本の歯が確認できる。どうやら今の一撃で折れたようだ。


 しかし、そんなショッキングな光景を前にして、マイティは眉ひとつ動かすことなく言った。

「・・・さて、じゃあ歯が全部お釈迦になるまで打ちまくるか」


 外野のダイゴが耳を疑う前に、マイティの右腕が目にも止まらぬ速さで鎖を振り始める。


 メギャッバキャッベキッグシャッボグッギャッゴッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ


 鎖が薙ぐ。鎖がかち上げる。鎖が下ろされる。鎖が掻く。鎖が抉る。鎖が断つ。鎖が砕く。


 マイティが鎖を一振りするごとに、ショウタロウの肌に赤い蛇が這ったような痕が付き、その痕に沿って血が溢れ出る。

 

「に、ニゾウさん!!止めましょう!!こ、このままじゃあマジで・・・!!」

 ―死人が出る―そう思わざるを得ない目前の惨劇に、ダイゴが叫ぶ。


 しかし、そんなダイゴの悲鳴とも言える絶叫とは裏腹に、突然ショウタロウの口角が吊り上がり、


「ブフゥゥゥッ!!」


 口からマイティの眼球目掛けて、血を吹き掛けた。


「うぐっ!?」

 突然視界を奪われたことで、ショウタロウを拘束する鎖の力が弱まる。


「今だ!!」

 瞬間、ショウタロウは右脚に渾身の力を込めて、そこに絡まった鎖を引っ張った。


「うおっ!!?」


 それによって鎖の生えた腕を鎖ごと引っ張られ、体のバランスを崩すマイティ。


 そんなマイティの顔を、ショウタロウは右脚を今度は渾身の力を込めて前に突き出して蹴り抜いた。


「がはあっ!!!」


 マイティが吹っ飛ぶ。その際、鎖から力が抜け、ショウタロウの拘束が解けた。


「ぬぅ・・・!」

 その場に膝を着くショウタロウ。既に何本か骨は折れ、身体のいたるところに裂傷が出来ていた。


「げはぁっ・・・!!」

 対するマイティのダメージも相当のものだった。さっきの一撃で歯と鼻の骨は折れ、更に今までの度重なる腹部への蹴りにより肋骨が折れ、内部の臓器に突き刺さっていた。




 しかし、

「・・・きひっ、ぎひひひ!!良いねぇ!やっと愉しくなってきやがったあああ!!!!」

 そう言って、マイティが口から大量の血を吐きながら笑う。

「同感だぞマイティ!!さぁ、組み手は始まったばかりだ!!!互いに存分に命を削って、存分に凌ぎを削ろうじゃあないか!!!!」

 全身から血を滲ませながら、ショウタロウも笑った。


 二人とも目は爛々と輝き、楽しくて愉しくて仕方が無いといった様子だった。

 




「いくぞォォォォォォ!!!!マイティイイイィィィ!!!!」

 咆哮と共にショウタロウは跳び上がり、両足を曲げる。

「来いやぁぁぁああアアアア!!!!ショウタロオオオォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

 呼応するようにマイティも慟哭し、両手を広げて鎖を生やす。


 二人は同時に叫んだ。


「「必殺!!!!」」





英雄(ヒーロー)キック》


絞殺行軍(チョーク・マーチ)

 

 



 緑と黒が、互いを塗り潰さんと空中にて衝戟する






 かに思われたその時だった。







 突如、"床が隆起し"、二人の間に聳えたのだ。


「「っ!!?」」


 ショウタロウは咄嗟に空中で体勢を換え、後ろに脚を突きだすことによって反対方向へ慣性力を発生させて勢いを殺し、隆起した床に衝突することなく地面に着地する。


 マイティも反射的に鎖を全て腕の中に引っ込めた後、『地獄(インフェルノ)』の扉の方を向いて言った。

「・・・どうされました、ヒクソン隊長」


 マイティが見つめるその方向に、ダイゴも眼を向ける。

 するとそこには、

「ガーハハハハ!!!!!!!!相変わらず戦闘時と通常時との活気の違いが凄まじいのだなぁマイティ!!!!!!!!」

 身には黄色いワイシャツと白いズボンを、体には鎧のような分厚い筋肉を纏い、焦げ茶色の短髪とちょび髭に小麦色の肌をした身長210cmほどの大男が、豪快に高笑いをする姿があった。

 






 


 


 

 



 


 


 

 

 

 

 

 

 

 



ライダーキックは理論ではなく魂で放つものだと思います。

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