最終見学地点
嗚呼、ラムネが食べたい。それが駄目なら綿菓子食べたい。
※
監視室から出た後、ダイゴとニゾウの二人は獄牢内のエレベーターに乗った。
エレベーターの中で、ダイゴは何とはなしにエレベーターのボタンを見て、ある事に気付く。
「あれ?・・・階のボタンが9つ?・・・獄番って、八階までじゃ・・・」
「良い事に気付いたね〜ダイ坊〜」
ダイゴの呟きに、ニゾウは穏やかな笑みのまま言った。
「え?良い事に?」
ダイゴは問う。
「儂等が今から行く場所と、とても関係がある事なんだよ〜、その『9つ目のボタン』はね〜」
ニゾウはそう言うと、その一番下のボタンを押した。
ゴウンッ
音を立て、エレベーターが動き始める。
「・・・ニゾウさん。俺達は、何処に向かってるんスか?」
その無機質な駆動音に、何となく不安になり、ダイゴがニゾウに問うと、ニゾウはにこやかに答えた。
「・・・そうだね〜、まあ簡単に言えば、実戦での戦闘訓練をする為の場所かな〜」
「・・・つまり、筋トレ以外のトレーニングをする場所って事っスか?」
「ん〜、まあダイ坊に理解しやすいように言えばそう言うとこかな〜」
ゴウンッ
ニゾウの応答が終わるのと同時に、エレベーターが音をたて、停止した。
(・・・一体ここは何階なんだ?)
ダイゴはエレベーターの階数を確認する。
(地下一階、か。成る程、だから9つボタンがあったんだな)
そんなことを思っているダイゴに、ニゾウが言う。
「じゃあ行こうか〜。儂等の訓練場へ〜」
「オッス!」
ダイゴがそう返事をすると同時に、エレベーターの扉が開いた。
扉から出る二人。ダイゴは、そこから数歩進んでから、ぐるりと周囲を見渡して、ぽつりと言った。
「・・・ありゃ?・・・何も無い?」
ダイゴの目の前には、獄犬の八階と同じ、黒色の空間が広がっていた。天井部には、点々とライトが設置されており、空間を部分的に照らしている。
そして、ダイゴが言ったように、その空間には、黒い空間と、その空間よりも更に黒い、所々に偏在する影しか無かった。
殺風景という言葉すら、まだ賑やかに感じる程何も無いその空間に困惑するダイゴに、ニゾウが言う。
「ははは〜、ダイ坊〜あの影の部分に近付いてごら〜ん」
「影の部分?」
その言葉通り影の部分の一つに近付くダイゴ。そして、一歩、また一歩と近付いていくうちに、ダイゴは影の中にあるものを発見した。
「・・・扉だ」
それは、影の中に溶ける、黒い扉であった。
周りを見れば、同じような影色の扉
が幾つも有るのが確認できる。
ダイゴは、後ろに着いてきていたニゾウに問うた。
「ニゾウさん、こいつは・・・」
ニゾウが答える。
「これがその訓練の場所に続く扉さ〜。ま〜、開けたら分かるよ〜」
「・・・それもそうっスね」
ダイゴはニゾウの言葉に頷くと、その黒い扉を開けた。
瞬間、ヒュンッと風を切る音が耳に届く。
そして、その鋭い風斬り音と共に、黒い鎖が、凄まじい速度で伸びてくる様子が、ダイゴの視界に入ってきた。
(はい?え、あれ?俺、死ぬ?)
その鎖の勢いに、ダイゴはスムーズに死を覚悟する。が、
その鎖は、ダイゴの顔に叩き込まれること無く、目前で細切れになって宙を舞った。
「え・・・?は・・・!?」
色々と訳の分からない事が起こりすぎて、動揺するダイゴ。その時だった。
「・・・あー、すまねぇ。怪我ねぇか?」
ダイゴに対して、何者かが声をかけてきたのだ。
「え!?いや、大丈夫っスよ!」
反射的にそう返事をして、ダイゴは声の方に意識を向かわせる。するとそこには、
「そうか、良かった。いや、肝を冷やしたぜ。何せ攻撃の射線上に扉があって、その扉が急に開くもんだからよ」
"黒い鎖をシュルシュルと掌に呑み込み"ながら話す黒人の青年と、
「何はともあれ、無事で良かった!組み手で第三者が被害を被るなんて、笑い話にもならんからな!」
そんなことを言いながら腕を組んで笑う、黒髪の青年が居た。
それすら駄目なら杏仁豆腐食べたい。