はじめてのしゅっきん
何か今朝から体調が優れません。鼻水が出るし喉は痛いし微熱はあるし。風邪でしょうか。
「すんまっせええええええぇぇぇぇぇぇん!! 遅れたっス!!!」
あの後、キーオと別れたダイゴは、第四部隊待機室に入るが早いか、精一杯の謝罪の気持ちを込めたスライディング土下座をかました。が、
「朝からうっせーぞ糞ハゲ。死ねもしくは息絶えろ」
「何そのどう足掻いても死亡の選択肢。我生存ルート所望す、って、あ……」
無情にも飛んできた死刑宣告に慈悲を乞うダイゴだったが、宣告者の姿を確認して言葉を失う。
「……おはようございますっス。アッシュさん」
その声の主である白髪の少女、アッシュは、気怠そうに待機室のソファーの上に寝転っていた。
そんなアッシュを目の前に、ダイゴは思う。
(昨日の事もあるしな……)
生前のダイゴの人生は、それはそれは幸せな人生であった。個性的で優しい家族と親友に囲まれて育ち、大きな病気や怪我をする事も無く、学校で虐められる事も無かった、そんな平和な日常を送っていた。
たまに、家族や親友と喧嘩をしたこともあったし、祖母、巨代に何度も半殺しにされたりもした。だが、それでも幸せな人生だった、とダイゴは胸を張って言える自信があった。
そんな幸せで平和な人生を生きたダイゴにとって、第三者である目の前の少女の昨日の血濡れの姿は、とても衝撃的であった。
(……正直、この世界で会った人の中で、この人が、アッシュさんが、一番怖ぇ……)
ダイゴは、目の前の少女に対し、昨日自分を殺そうとしてきた緑髪の少年、ゼイン以上の恐怖を、機能を自分殺した大男以上の恐怖を、じくじくと感じていた。
アッシュに対する恐怖で、ダイゴは口を開く事が出来ない。彼女も口を開かず、ただただソファーに寝そべっている。
沈黙が待機室を包んだ。
そんな沈黙を破るように、待機室の扉が開き、間延びした声が聞こえてくる。
「すまないね〜。ちょっと賽の河原の用事が長引いちゃって遅れちゃったよ〜」
声の主は、第四部隊隊長であるニゾウだった。その姿を見るなりダイゴが頭を下げる。
「おはようございますっス! ニゾウさん!!」
「お〜、お早うダイ坊〜。今日も一日頑張ろうね〜」
「オッス!!」
ニゾウの優しい言葉を受け、笑顔になるダイゴ。先程まで職場の先輩に恐怖を抱いていたのが嘘の様だ。
その時、アッシュが口を開いた。
「……そういやぁ、まだゴリラが来てねぇな。何やってんだあいつ」
「あ、マリオさんならそろそろ来ると思うっス!」
ダイゴはマリオの「乙女の戦い」という言葉を思い出し、言った。というか、このハゲ「ゴリラ→マリオ」という至極失礼な変換をナチュラルに行っている。一宿一飯の恩人に随分な仕打ちだ。
「あっそ。んじゃあ、今日はサレム一人が休みか」
「え? サレムさんお休みなんスか?」
ダイゴはニゾウに問う。ニゾウは答えた。
「そうだよ〜。獄犬ではそれぞれ部隊ごとに個人レベルで休暇が決まっててね〜。うちの部隊は水曜日はサレ嬢、木曜日はマリ坊、金曜日はアシュ嬢、土曜日は儂、日曜日は第四全員が休みで、月、火曜日は全員が出勤だよ〜」
それを聞いてダイゴは驚く。
「……週休2日って……意外とホワイトなんスね」
「あははは〜、そりゃあ曲者揃いの獄犬全員が休みを求めて反乱でも起こせば、この建物が消し飛ぶからね〜」
「た、建物が……!?」
ダイゴは、まだ見ぬ他の隊員達に思いを馳せて恐怖する。
そんな時、待機室の扉が開き、マリオが入ってきた。マリオは室内にニゾウの姿を確認すると、流れるように彼に謝罪を始める。
「ごめんなさいニゾウさん、髭剃り、っじゃなくて乙女の戦いに手間取って遅刻しちゃったわ!」
「良いさ〜。斯く言う儂も遅刻しちゃったしね〜」
「ゲヘヘ! 俺もっスよ!」
「あ〜、じゃあ第四の野郎共は今日全員遅刻してきたと言う訳だ〜」
「あら! ニゾウさん、私は乙女よ! 全く、失礼しちゃうわ!」
「あら〜、こいつぁ〜うっかりだね〜」
「「「あはははははは!」」」
そう言って笑い合う男共の声にアッシュは上半身を起こすと、こめかみに青筋を立てながら言った。
「笑い事じゃあ無いだろうが馬鹿野郎共……。ニゾウさんも、隊長なんだからしっかりしてくださいよ」
「いや〜ごめんよアシュ嬢〜。次から気を付けるよ〜」
ニゾウが頭を掻いてすまなそうに言う。アッシュはその様子を見ると、再びソファーに寝転がった。
そう言えば、風邪ひいた時は首に葱を巻けば治るとドリフの大爆笑で見たことが有るんですが、果たして本当でしょうか?




