Trigger No.009 嵐の夜の静かな対話
我は傍観者、名前はシャルルと申す。今夜、外は猛烈な暴風雨に見舞われている。窓ガラスをたたく激しい雨音と時折闇を切り裂く雷。
そして、我が予感していた事態が・・・起きたのだ。
プツン、と部屋の明かりが全て消えた。今度は主人の不注意により充電切れではない。街全体の昨日が一時的に停止した本物の停電だ。
「うぇー・・・、マジかっ・・・、スマホの電波も微弱これじゃ何もできんじゃん」
主人が闇の中で声を漏らしていた。
板きれ(スマホ)というライフラインを断たれた主人はまるで無人島に置き去りにされた遭難者のようだった。
ふっっっ、情けない、電気が消えたくらいで、すぐもどるだろうに・・・ 世界が滅んだような、この世の終わりみたいな顔にみえるぞ。
我は暗闇の中、本棚の頂上から飛び降り、主人の膝の上にどっしりと着地した。
「おい、主人、画面が光らないなら暗闇をじっと見つめるがいい 不安なのは、『実体のない未来』ばかりを見ているからじゃろう?我のこの温もりは、唯一の真実であり、まぎれもない現実だぞ」
主人は一瞬ビクッとしたが、すぐ我の背中に両手を添えた。
「シャルル お前暗闇でも平気か、こうしてスキンシップしていると安心するよ」
主人の手のひらから、いつもより少し早い心臓の鼓動が伝わってくる。
我はただ、黙って主人の膝の上で丸くなった。
言葉は通じないけど毛並みから伝わる熱だけで十分対話が成立している。
いつもは「下」ばかり向いて機械の奴隷になっているこの主人も、今夜ばかりは、我の生命体に全神経を任ねている。
傍観者として、一体になっている時間は、嬉しいぞ。
「ありがとうなっ・・・、シャルルー」主人がそっと呟く。その声はいつもより、ずっと優しい声だった。
ふうーん、お礼なら言葉じゃなくってさぁーーっ、明日のお皿(飯の器にプラスして)態度で示していただきたいじゃないの。
我は暗闇の中でそっと目を閉じた。
どれだけの時間が経過したのか、パチパチ パッ、と電気が戻った。
"嵐が去るまで我のぬくもりを提供してやろうぞ、朝一番のおやつを期待するぞ、グルグル"
雨音の向こうで主人の穏やかな寝息が聞こえ始めていた。




