Trigger No.008 鏡の中のイケメン
我は傍観者、名前はシャルルに決定した。
この響き、何度耳にしても美しい。
今日、我はふとした拍子に、洗面所の大きな鏡と向き合うことになった。
そこに映っていたのは凛とした耳、賢そうな瞳、そしてカッコイイ、ひげを持つ一匹の完璧な生命体。
「ふふっーん、これが『シャルル』という名を手に入れた我の姿か、鏡の中の住人も傍観者にふさわしい面構えをしているじゃないか」
我はしばらく鏡の中の自分と見つめ合った。
人間たちは鏡を見るたびに「老けた」・「太った」などと文句を発言するが、我からすれば、ありのままの自分を愛せないほどこれ以上の不幸はないと思うぞ。
「おい、鏡の中のシャルル、お前もそうだろう?名前が変われば運命が変わる、気分も、空気も、我らはもうただの"猫ちゃん"ではないのだから」
我は鏡に向かって、優雅に前足を伸ばしてみた。
その時、背後で主人が我のナルシストなポーズを板でこっそり撮影している気配がした。
「あら、シャルル、自分の顔に惚れてるの?かわいいなぁ、もおーっ」
やれやれ、これだから、人間は困る。我は高尚な自己対話していたというのに、主人にかかれば、すべてが"かわいい"という言葉に回収されてしまう。
「ふーん、勝手に撮るがいい、だが、シャルルの肖像画は安くないぞ、主人がその板きれを撫でる時間、我を撫でる時間にしたらどうだい・・・」
我は鏡から視線を外し、主人の足元に歩み寄った。
「なぬ、鏡の向こうの自分より、今は目の前の現実が大事だ、そう、飯を待っておるぞ」
鏡の中に残された『もう一匹の自分』に別れを告げ、我は今日を生きるために鳴いた。




