Trigger No.002 通信シート(スマホ)は万能ではない
我は、傍観者である。名前はまだ、持ってない。
今日も本棚の最上段から慌ただしく出かける準備をする主人を観察している。
主人は左手に持った「通信・・・(スマホ)」を神棚の鏡のごとく掲げ画面を何やら確認している。
「よし、スマホは持った、モバイル決済・地図OK」
主人は満足そうに頷き、玄関のドアを開けようとした。我は知っとるぞよ、そのまま出かけてはならぬことを・・・。
鼻歌を唄いながら、脱ぎ捨てたズボンのポケットのなかに、薄っぺらな「免許証」という名のカードが置き去りになっておるぞ。
"人間というのは不便じゃのう、光物体があれば安心できると信じすぎているが現実はそんなにそんなにも、甘くわないわい"
と・・・あれあれ、予想通り、五分と経たずに玄関の鍵が開く音がした。
血相を変えて戻ってきた主人は、床に散らばったズボンをひっくり返し、目的のカードを発見、安堵した
「あっぶない、あっぶない、これがないと、車乗れん、身分証明もできないんだよっ」
やれやれ、自分の身分を一枚のカードに委ねなければならないとは・・・。脆弱に同情を禁じ得ない。
我は免許証など、なくとも、どこから見ても、我は我なり、この家の住人である。
「主人さんよ、そんなに、その受信板に依存して、肝心なものを忘れてしまうくらいなら、いっそ俺と一緒に留守番させるのも、良い案じゃなかろうか?そしたら、少しは"上"を向いて歩けるはずじゃぞ」
もちろん、我の提案助言など主人には聞こえないことは、わかっておる。
再び主人はスマホを握りしめて慌てて部屋を飛び出して行った。
静かな鳴った部屋で、我の独り言。
説教をする相手がいなくなったが、我の飯はあるのか?
空になった皿を見つめ、少し大きい欠伸をそそられた。




