Trigger No.001 スマホの奴隷観察
我は傍観者である。名前はまだ贈呈されていないが、この部屋のヒエラルキーに於いて、我が頂点に君臨していることだけは確かだ。
頂点とは部屋で一番高い「本棚三段目」から下界を見はらしている。
ふと視線を落せば、主人が「通信シート(スマホ)」を握りしめて眉間に深いシワを出没させている。
人間というのは実に不思議な生き物だ。小さなシートに、光が点滅する中、自分の価値や、見知らぬ人の怒り、明日への不安がすべて詰まっていると信じ続けている。
主人の首は、本来なら持ち備えているはずの"アーチ"を失くしている。
"ストレートな首"カッコイイ名称だ。日中俯き、「下」を向く生活をしているからだ。
我のように、窓の外・流れる雲の変化・形、天井を這う小さな蜘蛛の行方に、宇宙の真理などに興味のカケラもないのだ。
「あぁっ・・・また通知が 一言余分なんだよ、なんでだろうな」
主人が独り言をつぶやいた。
画面の向こう側の誰かに心を乱され、呼吸を浅くしている。
傍観者の目から見れば、そんなもん、画面上のシナリオの羅列に過ぎないというのに。
・・・・おっと、思索が過ぎた。高尚な哲学も腹が減っては、ただの空論である。
「おぉーぃ、主人、哲学の時間は終わりだ、俺の飯はまだかいな?」
我は、あえて高い場所から飛び降りずその場所で、ニャーオゥと鳴いて見せた。主人は一瞬、はっとし、通信シート(スマホ)の呪縛から解き放たれ、ようやく"上"を向いたのだ。
「ごめん、ごめん、こうこんな時間、今用意するよ、猫ちゃん」
主人がよろよろと立ち上がり台所へ向かい、我はゆっくり欠伸をした。
下ばかり向いて自分を見失っている愚かな同居人をこれからも、"上"から導いてやろう。まずは皿に盛られる飯、吟味のはじまりだ。




