おまけ小説 『追試前日の……救世主?』その2
「何してんの。え……数学?」
「……テスト勉強よ、見れば分かるでしょ。あたしとレイア、追試になっちゃって」
ティファは性格的にあまり物怖じしないタチだし、この間の一件でセイアとも結構話している。仲良く……ではないかも知れないが、二人で話している姿に、すこし心がざわついた。セイアがそれなりにモテるのは、誰よりもアリアがよく分かっている。
「そっか。俺も近いうちに試験受けることになってさ、家だと集中できないからこっちに来たんだけど」
セイアはそう言って、リュックから問題集などを出し始めた。だが、レイアとティファが今まさに問題を解いている最中のノートに何気なく目を遣り、ふと眉をひそめた。
「あのさ、余計なお世話かもしれないけど。問の二番は、その式だと解けないよ」
「え、うそ。これでしょ、だって」
レイアとティファがあたふたしているうちに、セイアはティファのテキストをぱらぱらとめくり、すぐに一か所を指した。
「これ。同じ時期に習ってると思うけど」
「こんなの、あったっけ……」
「三つの辺の長さが分かってる場合は、こっちを使うんだよ。ここの角度を求めるんでしょ」
そう説明しながら、セイアは二人のノートに目を走らせた。だが、徐々にその目が険しくなってきた。
「ちなみに、追試っていつなの?」
「……明日だけど。それが何か?」
「明日⁉二人とも、前に受けたテストって持ってる?問題の傾向と、どこでつまずいたのか見たいから、持ってるなら今すぐ出して」
それを聞いて、レイアとティファは固まった。そりゃあ出したくないだろう、そんなもの。
「い、いや、そんなお見苦しいものをお見せするわけには」
「そ、そうよ。それにセイアも試験があるなら、あたしらなんかに構ってるヒマ、ないでしょ?いいから放っといてよ」
二人は何とか抵抗しようと試みたが、セイアはなぜか、珍しいほどの執念を見せて食い下がってきた。
「俺の試験は二か月後だよ。それで?二人の追試はいつだっけ?」
「……明日です……」
「はい、文句言わないで前のテスト出して。大丈夫、このリスト大学不合格者がプライドをかけて、あと一時間でどうにかするから」
「あんたのそれは、自慢なの、それとも自虐なの……」
レイアとティファはなおもぶつぶつ言っていたが、諦めたらしく、しぶしぶと鞄の中から折りたたまれたテスト用紙を出してきた。百点満点で、レイア二十五点、ティファ二十点。
「二人とも、計算ミスで十点くらい損してる。落ち着いてミスを防ぐだけでもだいぶ違うと思うよ。あとはこの問題だけど」
ざっと見ただけですぐに説明に入るセイアを見て、二人とも一瞬呆気にとられた後、あわててノートに向かった。
何も分からないアリアが横から見ているだけでも、セイアの説明が分かりやすいのが伝わってくる。二人とも最初は戸惑っているだけだったのが、だんだん「ああ!」とか「そういうことね」という呟きが漏れ、表情も目に見えて生き生きしてきた。
(なんだかなぁ……両手に花かよ)
アリアはちょっとつまらない気持ちで、頬杖を突き、少し離れた位置から三人を見守った。
セイアが、自分の友人(ティファもまぁ、そう呼んでも差し支えないだろう)と親しくしているのは、これはこれで嬉しい。だが、自分が仲間外れみたいに思えてしまうのは、学校に行っていないからとか、そういうことでもない気がする。
(セイアはなんで、俺なんかがいいんだろう。レイアとか、ティファの方がかわいいのに)
傍目に見ても、こちらの方がお似合いだと思う。レイアもティファも、小柄で愛らしく、そして自分の可愛さをよく知っている。アリアは、器量こそいいものの、圧倒的に可愛さは足りない。セイアと並ぶと、ただの友人にしか見えない可能性もある。
いつか、セイアの隣には、小さくて柔らかくて、可愛くて優しい子が並ぶんじゃないか。自分とは似ても似つかないような。―――――そんなくだらない悩みが、胸の奥でずっと燻って、消えない。
(器が小さいのは、俺の方じゃん)
小さくため息をつくと、それに気づいたセイアがこちらを向き、目が合った。
「どうかした、アリア?」
「んーん、何でもないよ?」
器用に素早く笑顔を作ると、「そう?」と怪訝そうに言って、セイアは新しい紙を一枚取り出した。さらさらと、思ったよりもきれいな字で一問の問題を書き込むと、レイアとティファにそれを見せるように置いた。
「じゃあ、今教えたことのおさらいで、これを解いてみて。二人で協力してもいいし、テキストを見てもいいから」
そして「俺もちょっと、自分の勉強する。解けたら言って」と言うと、自分のリュックを探り始めたのだが。
「あー……しまった、辞書忘れた」
そう呟いて、肩を落とした。




