表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/45

おまけ小説  『追試前日の……救世主?』その1

 中央国行きが決まって、二日後。アリアは印刷会社での仕事を終え、大きく伸びをした。この二日は業務の引継ぎや職場の整理などに追われ、なかなかに忙しかった。会社にいられるのも、あと三日。


 すぐにでもS・Sに連れて行こうとするラトスに対し、アリアはどうしてもきちんとした形で会社を退職したくて、何とか少し猶予をもらえるよう説得した。結果、会社のことも含め諸々の整理期間ということで、与えられたのが一週間。その間も、通勤などで外出する場合は必ずワープを使うように厳しく言い渡された。窮屈な気もするが、自分の不注意で危険な目に遭ったのは事実なので、文句は言えない。


 アリアの退職後、人員補充として、アリアの窃盗グループ時代の仲間であるディアが新しく会社に入ることが決まった。キャティアに入ってもらう可能性も考えたのだが、妙にコミュニケーション能力が高く要領もいいキャティアに比べ、ディアはなかなか新しい仕事を見つけずらい。真面目で人当たりのいい性格ではあるので、社長にもその辺りをアピールし、無事採用となった。ほとんど日雇い労働のようなもので食いつないでいたディアにも感謝され、アリアとしても安心して職場を去ることができる。


 社長からは「わしから話を振っといてなんだが、寂しくなるよ。また顔を見せてくれ」と言われ、うっかり泣きそうになった。実際はまだあと三日あるし、泣いている場合でもない。


(後は、お世話になったところに挨拶かな)


 そんなことを考えつつ、ワープで『アルテミス』まで戻った。店舗の中、ちょうど出入り口の扉の前あたりに、ふわりと着地する。


「ただいま」


 帰ってすぐに、店の様子がいつもと違うことに気付いた。今日は平日で、開店までまだ時間がある。シルヴィアはキッチンで仕込みに入っているが、彼女の他にも二人ほど、店内に人がいた。その二人は、店の中央のテーブル席を陣取り、ノートやテキストを目一杯に広げて、難しい顔を突き合わせている。レイアと、ティファだ。


「おかえりアリア、お疲れ様」

 シルヴィアに声を掛けられたので、テーブル席を指差しながら、小声で彼女に聞いてみた。


「何、あの珍しい組み合わせ」

「私もよく分かんないんだけどね。二人とも、学校からまっすぐここへ来たみたいよ。『すみませんけど場所貸してください!』って……まぁうちもまだ開店前だし、構わないけど」


 そんなことを二人でこそこそ話していると、レイアがテーブル席から「アリアおかえりーっ。お邪魔してるわよ」と声を掛けてきた。ティファも片手を挙げている。どうやら話しかけても大丈夫らしいので、彼女たちのテーブルに移動し、空いている席に座った。


「何してんの、二人で。っていうか、この二人で行動することとか、あるんだ?」

 そう言うと、ティファがむっとした表情のまま、アリアの方へ顔を向けた。


「仕方ないでしょ。今回の数学のテスト、追試になっちゃったのが、あたしとレイアだけなんだから。ウチは弟どもがうるさくて、勉強になんないし」

「そうそう。明日追試なんだけど、ぜんぜん分かんなくて、ほんとヤバくて。この際だから、二人でテスト勉強しよう!って、珍しく意見が一致してねー」

「偉いよね、あたしたち。仲悪いのに協力してテスト勉強とか、学生の鏡じゃない?」


 アリアは「ふーん」と言うと、それ以上のコメントは差し控えて、しばらく二人の『テスト勉強』なるものを、邪魔しないように見守った。

 だがどうにも、これが功を奏しているようには見えない。二人とも分かるところは少なく、しかも同じ個所について同じくらいの理解があるように見える。そして、圧倒的に範囲の広い『分からない』部分については、二人とも同じように、全く分からない。


「ここって、なんでこうなるの?この公式でいいんでしょ?」

「そのはずだけど……ごめん、ぜんぜん分かんない」


 二人で勉強しようという趣旨は分かるし、何なら少し微笑ましくもある。だが、これは残念極まりない。


「……サラとかさ、誘えなかったの?」


 あまりの惨状に、つい口を挟んでしまった。レイアとティファはキッとした目になると、そろって険しい顔を向け、アリアにとげとげしい言葉を投げてきた。


「サラなんて!知ってる?あの子、数学は学年二位とかなのよ?あんなポヤ~ンとした顔してるくせに!追試なんか、受けるはずないじゃない!」

「勉強もできて、かわいくて、彼氏までできちゃって!許すまじ、サラ!」


 そして、微妙に話がずれてきた。アリアは二人の勢いにたじたじとなりつつ「そうじゃなくて」と話を元に戻した。


「教える人がいた方がさ、効率がいいってこと。このままだと、永遠に分かんないじゃん」

 アリアの言葉を聞き、二人はハッとしたように顔を見合わせた。どうやら、そこには考えが及ばなかったらしい。そして、何やら微妙に慌てだした。


「いや?こういうのは自分たちで解決してこそ、実のある学習になると思うのよね?何でもすぐ人任せにするんじゃなくて」

「そ、そうそう。あんな彼氏持ちの裏切り者の力を借りなくても、あたしたちだけで何とかしてやるわよ、これくらい!」


 しかし高飛車にそう言い放ったすぐ後で、「あー……でも確かに、サラかぁ……あの子優しいから、お願いすればいくらでも教えてくれただろうに……」と二人でがっかりと肩を落とした。


「何よぅー……そんなこと言うなら、アリアが教えてくれればいいじゃない!」

「いや、無理に決まってんだろ。俺、九九がギリギリなんだけど」


 わちゃわちゃとそんな言い合いをしていると、ふいに出入口の扉を開く音が響いた。


「お邪魔しまーす……あれ、ティファ?……と、レイア、だっけ?」


 まさかのセイアだった。ティファはともかく、レイアは本当にチラリと顔を見たくらいのはずなのに、ちゃんと名前と顔が一致していることに驚く。セイアは軽くシルヴィアに挨拶をすると、重そうな麻のリュックを背負ったまま、三人のいるテーブルに近付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ