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その26

 事務室を出て玄関に向かい、その光景にちょっと驚いた。

(雪………)


「すまんアリア、ひきとめて。こんな天気になるんだったら、早めに帰すんだった。大丈夫か?わしでよければ送るぞ」


 暗い空から、白いふわふわしたものが次から次へと落ちてくる。時折強い風が吹き、頬の辺りを冷たく掠める。


「平気だよ、どうしてもの時はワープも使えるし」

「そうか?じゃあ気を付けて帰るんだぞ。さっき言ったことは、あまり気にしなくていいからな。焦らずゆっくり考えなさい」

「うん。社長も気を付けて。ココア、ご馳走さま!」


 そう言って、できるだけ元気そうに会社を後にした。だが、少し歩いてからふと空を仰いだ時、幻想的に舞い落ちる白い破片にふと現実感をなくし、立ち止まった。

 足元にも、うっすらと雪が積もっている。この町で雪が降るのは、とても珍しい。一年に一度、多くて二度ほど。全く降らない年もある。


(将来、かぁ……)


 上を向くアリアの髪に、頬に、まつ毛にも、白いものが降りてくる。冷たいその感触に、ゆっくりと目を閉じた。


 ずっとこのままでいられないのは、どこかで分かっていたような気がする。でも、もっと先だと思っていた。アリアは、考えなしの無鉄砲みたいに言われることも多いが、本当は人並みに臆病だ。考えなければ、動くことができる。立ち止まると、考えてしまう。


 ラトスがセラディ・ソーサラーズへ誘ってきてくれたことは、良く考えれば好機なのだろう。ここで思い切って違う世界へ飛び込んでいくことができれば、すべてが変わるのだろうか。いろいろな過去から手を離して、新しい未来へ。ラトスやシンシアが付いているのだから、何も怖いことはない……そう、頭では分かっているのだけれど。


『将来の設計図に、彼を入れてやる気はないのかい?』


 ふいに、先ほどの社長の言葉が耳に蘇り、締め付けられるように胸が痛んだ。セイアが描いているのは、どんな未来なんだろう。そこに、アリアもいるのだろうか。存在する余地が、あるのだろうか。


「好きだよ、セイ」


 薄く目を開いて、小さく呟いたその声は、雪と風に消され、はるか遠くまで飛ばされていった。いつか、ちゃんと本人に伝えられたらいいと思っていた。でももう、叶わないかもしれない。


 ため息をついて、目をこすり、ゆっくりと歩き出した。残業したうえに社長と話して、すっかり遅い時間になってしまった。帰り道はいつもよりも暗く、雪のせいか人通りも少ない。


(寒いなぁ。やっぱり、ワープで帰った方がいいかな)


 そんなことを思いつつ、周囲を見回しながら歩みを進めた。そして、その道の先に、街灯の下に立つ一人の少女の姿を認めた。


 彼女は、道の端のすでに閉まっている本屋の軒先に立って、降りしきる雪を凌いでいる。黒っぽい薄手のコートを羽織ってはいるが、どことなく寒々しい。最初見つけた時は知らない子かと思ったが、近付いてみると見知った顔であることが分かった。


 ここは、そ知らぬふりで通り過ぎた方がいいのだろうか。だが、それにしては距離が近い。

 アリアが悩みつつもすぐそばまで行くと、彼女の方から「こんばんは」と声を掛けてきた。


「……ティファ、何やってんのこんなところで」


 向こうから声を掛けられたので、戸惑いつつもアリアがそう返すと、彼女――――ティファは、硬い表情のまま答えた。


「待ってたの、あんたのこと。ずいぶん遅かったのね」

「まぁ、いろいろあって。結構待ってた?雪、積もってるけど」


 ティファの肩や髪にも、うっすら雪が載っている。青ざめた頬も、いかにも寒そうだ。

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