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その18

 皆でパンケーキを食べた後、アリアはシャワーを浴びて、セイアと出かけるために身支度を整えた。いろいろと頭の中が混乱している最中ではあるが、せっかくセイアが来ているのだから、今のこの時間を楽しみたい。


 いつまでいられるのか尋ねたところ、北国の日付が変わる頃には帰る、という返事だった。年末にセイアがダーツの賞品として獲得した映画チケットがあるので、今日は映画を見よう、という話に落ち着いた。


 女の子らしい服を着た方がいいのかとも思ったが、そもそも年末に来たワンピース以外の女物を持っていない。諦めて普段通りの服を着て階下に降りていくと、セイアは先ほどのテーブル席に座ったまま、何やらラトスと真剣な顔で話し込んでいた。


「お、これからデートか。じゃあなセイア、今の話よく考えとけよ」


 何の話をしているのか尋ねる隙も与えず、アリアの姿が見えたとたんに会話を打ち切って、ラトスは席を立った。別に男同士の話に口を挟む気もないが、何だか気になる。


「何話してたんだよ」

 答えないだろうな、とは思ったが、案の定、セイアは曖昧に笑みを浮かべただけだった。


「大したことじゃないよ。あ、シンシア様は中央国(セントラル)に帰ったよ。また来るってさ」


 ふうん、と言って、ラトスの方をちらりと見た。彼はカウンターに寄りかかるようにして、キッチンにいるシルヴィアに何か話しかけている。


「行こうか」


 セイアに軽く肩を叩かれ、『アルテミス』を出た。キッチンで仲良く語らう二人から「行ってらっしゃ~い」と和やかに見送られる形になった。


「付き合ってるんだってさ、あの二人」


 店を出た後、一応セイアにも情報を共有しようと思ってそう報告したのだが、返ってきたのは微妙な苦笑だった。


「あー…さすがにそういうの鈍感な俺でも分かるよ。だって隠す気ゼロじゃん」

「まぁ、確かに。でもさぁ、なんかちょっと仲良すぎないか?」


 拗ねたような口ぶりでそう言ってしまってから、少し慌てた。昨夜、シルヴィアに「応援してる」とか言ったくせに、どの口がそんなことを言うのか。

 セイアはそんなアリアの微妙な内面を知ってか知らずか、


「いいじゃん、幸せそうでさ。俺も早く彼女できないかなー」

 そんなことを言って、チラリとわざとらしくアリアの方を見た。


「………催促、してる?返事」

「んー?何のこと?」


 隣りを歩くセイアはずっと、呆れるほどに機嫌がいい。アリアもセイアに会えて嬉しかったが、彼ほど浮かれた気分にはなれなかった。先ほど突然明らかになった母親のことや、一昨日のようにまた誰かと鉢合わせるんじゃないかという不安で、うまく笑顔が作れない。


(そもそもこんなの、どこから見ても普通にカップルだよな。花火デートの件もあるし……これで付き合ってないとか、どう言い訳しても不自然だろ)


 だが、映画を見終わった頃には、そんなモヤモヤした気持ちは吹っ飛んでいた。

 結論から言うと、ものすごく面白くて、ものすごくくだらない映画だった。『手に汗握る冒険活劇!』という触れ込みだったはずだが、なぜか開始五分で館内は大爆笑。


 主人公である配達員の中年男性が、配達途中に出会う様々なハプニングをクリアしてミッションをこなすという単純なストーリーなのだが、起こるハプニングが全て度を越していて、ハラハラするどころか笑いしか生まない。主人公が終始真顔で、何が起きても「なるほど、そいつはアメージング」と呟くセリフも絶妙におかしい。


 ほとんどぶっ通しでゲラゲラと笑ったおかげで、些細な悩みはどうでもよくなった。上映後のシアターでは何人か知り合いにも会ったが、わりと自然な流れで「友人」としてセイアを紹介することもできた。それ以上突っ込まれることもなく、とりあえずホッとする。


「あー笑ったー。頭からっぽになった気がするー」


 シアターを出ると、セイアはそう言って大きく伸びをした。


「からっぽはまずいだろ、おまえめちゃめちゃ頭いいのに。忘れてたけど」

「いや、忘れないで。そこは大事なとこだから。俺のアイデンティティーに関わるから」


 日曜日の昼下がりのシャキの町には、のんびりとした空気が流れていた。二人で映画の登場人物の物真似などしながら『アルテミス』へ向かっていたが、アリアはふいにあることを思い出した。


「ごめん、シルヴァに買い物頼まれてたんだった。ちょっと買ってくる」

「え、じゃあ俺も一緒に行くよ」

「いやいいよ、先に行ってて。すぐに行くから」


 ついてこようとするセイアを何とか振り切り、アリアは『アルテミス』と反対方向へ足を向けた。一緒に映画を見ておいて今更だが、更に商店街で仲良く買い物とか、どうにも気恥ずかしい。知り合いも多いし、商店街のおばちゃん……年配女性たちは遠慮がないから、冷やかされること間違いなしだ。


(……それに、一緒に買い物とかしたら、まるで新婚みたいじゃん)


 そんなことを思いつつ一人顔を赤らめながら、買い物を済ませた。急いではいたものの、頼まれたものがそれなりに多く、何軒かの店で購入することになったので、思いのほか時間がかかってしまった。

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