その17
「え、集合写真?神魔様の?」
「ファイア様だけじゃないんですね。うわラトス様、わっかい!かっこいいですね」
アリアが目を瞬かせる横で、驚いたようにセイアが声を上げた。あまりお世辞を言ってるように聞こえないのは、彼の人柄のなせる業だろう。ラトスもまんざらではなさそうな顔をしている。
「そういえば、こんなのも入ってたなぁ。四大神魔の就任記念で撮った写真だよ。ファイアの写真集だけど、これだけは特別に全員の写真を入れたいっていう話があってな。俺が、この時……十八か。今のセイアと大して変わらないのか、そりゃ若いよなぁ」
広間のようなところで撮られた写真だった。集められた四人の若者は、格式高いガウンのような重厚な服を着ている。白を基調とした中に、それぞれにちなんだ色をアクセントに入れていて、いかにもセレモニーのための衣装という印象を受けた。
青魔であるラトスは明るい群青のズボンを身に付け、翠魔であるファイアは鮮やかな翡翠色を襟にあしらっている。そして紅魔のシンシアは、豊かな胸元を真紅のビスチェで飾り、華やかな笑顔を見せていた。
「シンシア様はあまり変わらないですね。変わらずに、おきれいです」
「君は案外口がうまいなぁ。気を付けた方がいいぞ、アリア」
「いや、セイアの言う通りですよ。ラトス様は老けたけど、シンシア様はあんまり変わんないです」
「今、明らかに一言多いヤツがいたな。シンシアが昔から老けてた可能性もあるぞ」
そんな話をしつつも、アリアには気になることがあった。写真には、四人の若い魔術師たちが写っている。見開きのページの右から、シンシア、ファイア、ラトス。ではこの、一番左側の女性は誰だろう。
ストレートに近い長い亜麻色の髪を背に波打たせ、琥珀色に光る丸い大きな瞳。彼女の白いガウンの裾からは、水仙のような柔らかな黄色のスカートが覗いている。
美人だ。優しく微笑むその整った顔立ちには、なぜか懐かしさを感じる。だが記憶にない。
「誰ですか?俺の知らない人ですよね」
アリアが彼女を指差し、ラトスとシンシアを見比べながら尋ねると、二人は複雑な表情で顔を見合わせた。
「……見たことないか。そうか、そうだよな。隠してるつもりはなかったが、積極的に写真なんか見せなかったもんなぁ」
ラトスは呟くようにそう言うと、軽くため息をついた。しばらくそのまま黙っていたが、やがて諦めたように口を開いた。
「彼女は、ステア・コーダ。……黄魔だよ、見ての通り」
「えっ……コーダって、まさか」
「まぁ、そのまさかだな。おまえを生んですぐに亡くなった、おまえの母ちゃん」
思わず立ち上がり、穴のあくほど写真の中のきれいな笑顔を見つめた。シンシアのような派手さはないが、明るいオーラのある女性だ。髪も瞳も顔立ちも、見れば見るほど自分とはかけ離れている。
「……俺には、全然似てない気がしますけど」
「そうだな。おまえは親父さんの方にそっくりだから」
「待ってください。じゃ、俺の母親は神魔だったってことですか。父親って?」
混乱して、勢いのままに尋ねると、ラトスとシンシアは再び顔を見合わせた。これ以上話したくなさそうな雰囲気を感じる。
隠してるつもりはなかった、と先ほどラトスは言ったが、それは多分嘘だ。まだ何かある。
「……親父さんのことは、あとで追々話す。すまんな、おまえの出生はあまり一言で語れないんだ。ステアのことも、こんな形で知らせるつもりはなかった」
こんな写真が入ってるの、忘れてたもんなぁ。ラトスはそう言って、軽く頭を掻いた。
「あのな、アリア。頼むから一度、S・Sに来てくれないか。肝心なところをはぐらかされて不満だろうが、正直、ここで俺やシンシアの口から話すのは荷が重い。ただでさえ、ホラみたいな話なんだ。材料を揃えて、順序だてて話さないと、おそらく信じてもらえないと思う」
アリアが戸惑っていると、ラトスの後を引き継いで、シンシアが一歩前に出た。
「私からも頼む。そのために今回、ここまで足を運んでるんだ。アリアが生きていることが分かって、すでにセラディ・ソーサラーズは動き出している。本当は無理にでも連れて来いと言われているけれど……私たちはアリアの意志を尊重したいから」
「……………」
二人の声も表情も、いつになく真剣だった。アリアは何を言うこともできずに、ラトスからシンシアへ、そして写真へと視線を転じた。
(この人が、ステア・コーダ。セラディ・ソーサラーズの黄魔で、おれの、母親……)
ずっと、自分はただの孤児だと思っていた。身元が分からない子どもの魔術師を、たまたま慈悲深い神魔たちが保護してくれたのだと。そうではない、ということが今はっきり分かった。
これまで自分に隠されていた秘密が、明かされようとしている。そのためには、セラディ・ソーサラーズの本部がある中央国へ赴くことが条件となる。
自分がずっと地面だと信じていたものが、水面だと言われたような気持だった。固いと思い込んでいた足元は不安定に揺れ、波打ち、アリア自身まで飲み込まれてしまいそうだった。
「少し、考えさせてください。すみません……急な話で、付いていけなくて」
写真の中で笑うステアを見つめながら、やっとの思いでそれだけ言った。シルヴィアとセイアの心配そうな視線が、なぜか遠くに感じられた。
* * *




