表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/45

その14

 シンシア・ルーンは、ラトスと共に幼い頃のアリアの面倒を見てくれた魔術師だ。ちなみに彼女はセラディ・ソーサラーズ『紅魔』の地位に就いている。


 彼ら二人の他に、ファイア・ローラン―――『翠魔』と呼ばれる男性魔術師―――がいたのだが、彼は四年前にある事件で他界した。アリアはそれがきっかけで、自ら彼らの保護を離れる決意をしたのだ。またこんな風に再会できるとは、少し前まで思ってもいなかった。


「シンシア様は、ここまでどうやって来たんですか?」


 少し大きめの声で話しかけると、シンシアはすぐにこちらを向いた。


「そりゃ、ラトスに二人乗りで連れてきてもらったんだよ。だってずるいだろ、あいつばっかり西国に来てアリアに再会して、それどころか素敵な彼女まで作ってさ」

「やだそんな、あんまり言わないで」


 ラトスと付き合っていることを打ち明けたばかりのシルヴィアは、どことなく恥ずかしそうにしている。だが、良くも悪くも開けっ広げな性格のシンシアは、基本そういうことには無頓着だ。それはまあいいのだが。


「じゃあ、ラトス様も来てるんですか?それとももう帰った?」

「いや、何だか警察に用があるとかで、そっちに寄ってからにするってさ。多分もうじき来ると思うよ」


 ふーん、と呟きながら(警察って、何の用だろう)と思った。だが、そんな考え事をする間もなく、ふいにガチャリと音がして、店の扉が大きく開いた。


「こんちはー。……お、悪いなアリア、休みの日に」


 噂のラトスの登場だ。左脇に、何やら薄い包みを抱えている。とび色の短髪、粗削りの男らしい顔立ちをした彼は、アリアに向かって少しだけ笑みを浮かべ、片手を挙げた。だがすぐに、何か思い悩むような陰のある表情になり、そのままテーブル席の方まで歩いていくと、シルヴィアの隣の席にどさりと座った。


「どうかしたの?警察に行ったって聞いたけど、何かあった?」

「いや……まぁちょっと、また後でな」


 シルヴィアとラトスの話し声が、キッチンまで聞こえてきた。チラリとアリアの方を見るラトスの視線が気になるが、あえて気付かないふりをした。何かあったのは間違いなさそうだが、自分から首を突っ込まない方がいい気がする。


「ラトス様もパンケーキ食べますかー?」

「おー、食う食う。多めに焼いてくれ」


 了解、と言いながら、新たに粉や卵や牛乳を追加して生地を増量した。付き合っていると認識した上で、改めてカウンター越しにシルヴィアとラトスを見ると、確かに距離感がとても近い。シンシアはそんな二人にも遠慮せずあれこれと話しかけるので、三人ともずっと以前からの知り合いのように見える。


 大人たち、特に女性二人はアリアの昔話などで勝手に盛り上がっているので、アリアはパンケーキの作成に集中することにした。


 フライパンにバターを引くと、それだけでいい香りが辺りに漂う。牛乳を多めにして生地を伸ばし、薄いパンケーキを焼いては次々に皿に乗せた。好みでシロップを掛けられるように甘さを控えた、ごく家庭的なパンケーキだ。


 生焼けにならないよう、焦げないよう、注意しながら火加減を見ていると、再びドアの開く音がした。何となくそちらに視線を走らせ、そこに立つ姿を見て、ちょっと慌てた。


「こんにちは……お邪魔します。あれ、お取込み中ですか?」

「あらセイア、こんにちは!大丈夫よ、どうぞ入って入って」


 セイアだ。昼過ぎの約束の割には、少し早くないだろうか。キッチンのアリアの方を見て少し笑いかけた後、彼は改めて挨拶をしながら、大人たちの集うテーブル席の方へ向かった。それを見たアリアも、一度フライパンを火から下ろし、急いで彼の後を追った。


 セイアはシルヴィアとはもちろん、ラトスとも面識がある。初めて顔を合わせるのは、シンシアだけだ。ここはアリアが紹介をする場面だろう。


「シンシア様、おれの友人のセイア・バトルです。セイア、こちらはシンシア・ルーン様。セラディ・ソーサラーズでは紅魔って呼ばれてて、小さい頃おれが世話になった人」


 セイアはごく自然に感じよく「初めまして」と挨拶をしたが、それに対するシンシアの反応は周囲の予想のはるか斜め上をいった。彼女は勢いよく立ち上がると、いきなり手を伸ばしてセイアの髪をくしゃくしゃにかき混ぜた。


「なるほど、君が噂の『北国(ノース)の悪魔』か!ラトスに聞いてはいたけど、まさかこんなにかわいい男の子だとはなぁ。噂はあてにならないな」


 声がでかい。しかも、こうやって並んで立つと、シンシアはセイアよりも少し身長が高い。セイアは笑顔を浮かべたまま硬直していた。無理もないだろう、どう考えてもこんな風に笑いながらする話ではない。悪気がないのは分かるが、それでも。


「シンシア様、あの、そういう話はちょっと」

「どうしたアリア。そうか、あんたのいい人なんだっけ?あの小さかったアリアに恋人がいるなんて、何だか不思議な感じだな」

「……あ、あの、そういう話もちょっと……まだ、恋人とかいう訳じゃ……」


 清々しいほど空気を読んでもらえない。わざとからかっているなら怒っていいだろうが、そうではないのでタチが悪い。しどろもどろになったアリアに代わり、隣で一足先に立ち直ったセイアが、穏やかな口調で答えた。


「そうですね、まだ恋人って訳じゃないです。俺はできるだけ近いうちに、そうなりたいと思ってますけど」


 それを聞いて、大人三人は「おぉー!」とどことなく嬉しそうにどよめいた。シルヴィアに至っては、ぱちぱちと小さな拍手までしている。


(何だよそのリアクションは)


 パンケーキもうすぐできますから、と言い置いて、急いでキッチンに戻った。フライパンをもう一度火に掛け、生地を流し込んだが、動揺して不格好な形になってしまった。修業が足りない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ