91話 幼馴染
マジか……。
あまりにも予想外だった。確かに杏菜さんは美人だし愛嬌もあるから彼氏がいても何ら違和感はない。けど、あまりにもイメージがなさすぎた。
唯一、美波との距離は近かったが、男子との距離感は一定に保たれていた。
勝手に杏菜さんは恋愛に興味がないと思い込んでいた。
けど、彼女も一人の女の子だ。好きな人がいたとしても何ら違和感は――
「あっ! アサくんっ!」
突然、前の彼女が大きく口を開き、同時に俺のゲームIDが大きな音となり耳に届く。
熟考していた俺の脳は視覚へと意識が集中する。
手を大きく上げ、笑顔でこちらに走ってくる杏菜さんは無論周りから物凄い注目を集めていた。
そしてその後ろには先程まで杏菜さんと話していた男の子がゆっくりと杏菜さんの後をついてきていた。
「アサくん! どうしたの? こんな所で」
「ちょっとした買い物。杏菜さんも何か用事?」
無論、一緒にいる人を見れば大体の予想はつくけど社交辞令で聞いてみる。
「実は美波の誕生日プレゼント買いに来たんだよね」
「え」
予想外の返答に口から一音だけ漏れ出す。
杏菜さんも美波の誕生日プレゼントを買いに来た。それも同い年ぐらいの男の子と一緒に。
唯一、俺たちと違うところはお互いのプレゼントを買いに来てないところだろうか。
その唯一、違うところが今の俺には不思議でたまらなかった。
「アサくんは何プレゼントするの?」
「これだよ――ネックレス」
言いながら購入した袋を見せると杏菜さんは目を輝かせる。
「ネックレス! いいね、可愛い!」
「杏菜さんは何プレゼントするつもりなの?」
「私はコスメかな〜。ほら、最近美波メイク頑張ってるでしょ」
どうやら杏菜さんは初めに俺が悩んでいたコスメをプレゼントするらしい。
そういえば最近美波が知らないうちにみるみる可愛くなっていっていた気がする。
あれはそういうことだったのか。
「もしかしてアサくん気づいてなかったの?」
「お恥ずかしながら」
「後で褒めときなよ。女の子ってそういうの気にしてるんだから」
「うん……って、後で?」
あれ? 杏菜さんには美波と来ていることは言ってないような?
「あのー……その人は?」
先程まで杏菜さんの後ろにいたまだ名も知らない男の子が突然杏菜さんの隣に並んで紹介を促す。
瞬間に先程のコスメエリアでの光景を思い出す。男女のカップルが並んでコスメを選んでいたあの光景。
やっぱりこの二人は――
「あっ、ごめんごめん。紹介が遅れたね――こっちは同じクラスの浅野樹くん。それでこっちが幼馴染の前田春人くん」
両手で分かりやすく紹介してくれる杏菜さん。
杏菜さんの紹介に合わせてお辞儀し合う最中に俺はある単語を頭の中で反芻する。
幼馴染……。
「実は前田くんとはついさっき数年ぶりに再会したんだよね! ホントびっくりしたよ!」
「再会……?」
「うん。そこ歩いてたら声かけられたんだよね。誰かと思ったらまさかの前田くんで驚いたよ」
つまりそれは二人が付き合っていないということを意味していた。けど、俺視点どう見ても彼は――
「二人はどういう関係なの?」
その発言をしたのは、俺ではなくまさかの隣にいる前田さんからだった。
「アサくんとは普通にクラスメイトだったんだけど、ある日ゲームのフレンドってことに気がついてそこから仲良くなったんだよね」
「そうなんだ」
「…………」
そこで少しだけ雰囲気が不穏になる。
まるで何も知らない杏菜さんはこちらに微笑んでいるけど、今の俺にはそれが少し不可解だった。
確かに普段の杏菜さんを知っているなら、何も感じないかもしれないけど、実は杏菜さんは意外とそういうのに気づいていたりする。
ただそれを理解するのが苦手なだけで彼女はきっと他人の考えを汲み取ること自体は長けている。
最近美波も同じようなことを言っていたから間違いない。
だからこそ今、前田さんの気持ちに知らないフリをしている杏菜さんが不思議で仕方なかった。
「そういえばアサくん。時間は大丈夫そう?」
杏菜さんにそう言われ、ふと時間を確認すると既に集合時間が過ぎていることに気がつく。
「あっ。やばい、そろそろ行かないと」
「そっか。私もそろそろ行かないと。美波によろしく言っといて」
「うん」
「あっ。ちょっと待っ――」
立ち去ろうとする杏菜さんに声をかける前田さんだったが、杏菜さんは聞こえてないのか足を止めることはなかった。
何だか初めて杏菜さんの意外な一面を見た気がする。
あの誰にでも優しい杏菜さんが一人の特定の男子には冷たく接する。
クラスの誰かにそれを話してもきっと信じてくれる人はいないだろう。
そんなことを考えながら、俺も集合場所へと足を進めた。




