92話 メイクと服装
数分遅れて集合場所へ行くと、美波は案の定スマホをいじりながらそこで待っていた。
すると同時にスマホが震える。
どうやら美波がスマホをいじってる理由はそういうことらしい。
『今どこいるの?』
心配したようなメッセージで更に申し訳なくなる。
俺はさっさと美波の方へ歩み寄り、声をかける。
「ごめん、美波。遅れ――」
「遅い」
到着早々、メッセージとは正反対の冷たい表情で言われる。
「ごめん。さっき杏菜さんと会ってさ」
「杏菜と?」
すぐさま機嫌を取り戻した美波は顔をしかめながら、俺の左手にあるプレゼントの入った袋を見つめる。
俺は中身がバレぬように後ろへ持っていき、さっきのことを話す。
「ここに来る前、杏菜さんと前田さん? っていう男の人がいてさ」
「杏菜が男の子と? 唯奈ちゃんじゃなくて?」
「うん」
そう言うと、美波はプレゼントの入った袋に関心をなくし、新たな情報に関心を抱く。
反応からしてどうやら美波も何も知らないようだ。恐らく杏菜さんのことが好きな前田さんのことを。
「杏菜にそれっぽい噂は一切聞いたことないし……もしかして彼氏? いやいや、杏菜に限ってそれはない……それなら――」
何やら独り言を呟いている美波の反応からして、相当イレギュラーなことらしい。
確かに俺も杏菜さんのそういう噂は聞いたことがない。
「美波も何も知らないの?」
「うん……いや、もしかして……」
「何か思い出した?」
「いや、なんでもない」
美波は俺から視線を逸らすと、一瞬だけ思考する仕草を見せる。
絶対になんでもないことない。
今の間は確実に何かある。
「それで樹、プレゼント何買ったの?」
「ネッ――って、何どさくさに紛れてプレゼント知ろうとしてんだよ」
「えー、いいじゃん。減るもんじゃないし」
「ダメ。当日の楽しみが減る」
「えー、ケチ」
「ケチって……」
唇を尖らせる美波を見て今更になって先程の杏菜さんの発言を思い出す。
『最近美波メイク頑張ってるでしょ』
美波の唇には確かにさりげなく薄紅色が施されていて、眉毛も綺麗な線を描いている。
意識した瞬間に、昔との変化が急激に分かり始める。
それでも俺は美波がメイクにどれだけ時間をかけてるのかは分かりそうになかった。
だからせめて、
「ごめん。美波」
「遅れたことはもう大丈――」
「じゃなくて。メイクのこと」
「え?」
「気づけなくてごめん」
「…………」
美波は突然俯いて、せっかくメイクされた顔を隠すようにそっぽ向いてしまう。
「もしかして誰かから聞いたの?」
「実はさっき杏菜さんから教えられた」
「……バカ」
今、美波の頬が赤く染まってるのはメイクのせいなのか照れているのか区別するのは容易だった。
さすがにその違いぐらい今の俺にも分かる。だからこそもっと弄りたくなってしまった。
「もしかして服も……?」
日頃から負かされている俺は、ここぞとばかりに気合いの入った美波の服にも触れてみる。
「あんまり調子に乗んな……」
途端に美波の声音が変わる。が手で服を隠そうとする仕草がそれを否定していた。
どうやら効果抜群のようだ。
「絶対ボコしてやる……」
主語がない美波の発言は恐らくゲーセンのことである。
「蜂の巣にしてやる……」
じゃないと今から俺はリアルで大きな弾丸を撃ち込まれることになってしまう。
「早く行くよ」
「はいはい」
その後、俺たちは約束通りいつものゲーセンへ寄って格ゲーを嗜んだ。
結果は俺の勝利となったが、内容はかなりいい対決で熱い試合となった。
最後までお読み頂きありがとうございます。
午前7時投稿。投稿はこの時間帯になると思います。
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