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クラスにS級美少女がいるけど、A級美少女と仲良くなった話  作者: 砂糖流


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88話 恋は盲目

「俺と付き合ってくれっ! 一目惚れしてさらに好きになった。特に顔が! だから俺と――」


 声を張り上げる田島くんの声がどこまでも響く。が、とっくのとうに学校は終わっていたから他の人に聞かれる心配はない。


 心配するのは本命の告白の方だった。


 その証拠に唯奈さんのいつもの無表情に新たな表情がつくことはない。


 だからと言ってそれだけで断られる確証もなかった。


 人を嫌いになるためには、別に好きな人を作ればいい。

 その人に夢中になっているうちにその嫌いな人は自分の中から綺麗さっぱりいなくなり、最終的に嫌いな人のことは考えすらしなくなる。


 それなら唯奈さんが今、田島くんの告白を受け入れるのは賢明な判断と言えるだろう。


 田島くんは良い人だし、唯奈さんともきっとすぐに仲良くなれる。


 だと言うのに、彼女の口から出たのは了承とは程遠い言葉だった。


「ごめん」


 その謝罪の言葉はしっかりと田島くんの告白を受け入れている証拠でもある。


 つまりそれはこの短期間で唯奈さんが成長したということを意味していた。

 前までの唯奈さんなら冷酷にバッサリ告白を断っていたに違いない。


 彼女がここまで変わったのはきっと——


「私好きな人がいるの」


 顔は無表情なのに声に感情が乗る唯奈さんの言葉は、目の前にいる田島くんの耳を射抜く。


「だから、ごめん」


「そ、そっかー。まぁでも前から色々と断られてたから今更なんだけどさ」


 それでもさすがの田島くんも気づいているようだ。


 今回は今までのものとは違い、正真正銘の断りだと。


「じゃあ俺は行くから」


 それだけ言うと田島くんは、見ていた俺のことを視界にすらいれずにそのまま去っていった。


 気づいていたのかはたまた無視をしたのかは今や知る由もない。


 とりあえず唯奈さんには気づかれずにこの場を去らないと。


 そう考えた俺の耳に聞き覚えのある懐かしい響きがやってくる。


「アッサーもごめん」


 どうやらとっくのとうにバレていたらしい。


 それもそのはず。俺は田島くんの後ろから一部始終を見ていたから、彼女の視界に入っても何らおかしくはない。


 一応バレないように身を隠していたつもりだが、バレてしまっては仕方ない。


 俺は観念するように唯奈さんの目の前に姿を現す。


 唯奈さんの呼び方とそれに謝られた理由。


 それが意味する答えとは――


「私、やっぱり嫌いになれそうにないや」


 本心を言った唯奈さんは顔を俯かせ、微かに息を漏らす。


「そっか」


 今はただ温かい目で彼女を見つめる。


「…………」


 そんな空気の中、しばらく沈黙が続いた。


「私どうしたらいいかな……」


 静かな校舎裏にその一言が木霊する。


 きっと美波ならこういう時、キッパリ切り捨てるか優しく断りの言葉を入れるのだろう。


 でも今は美波の考えじゃなくて、俺自身の考えが必要だ。


 もう美波には頼らずに自分の力で何とかする。


 きっと唯奈さんが求めているのは他の人の言葉ではなく、俺の言葉なのだろうから。


 俺は――


 何一つ声がしない校舎裏に自分自ら音色をつける。


「無理に嫌いになる必要はないと思う」


「…………」


 唯奈さんは無言のまま面を上げて、その悲しそうな顔をこちらに向ける。


「俺がこう言うのも何だけど、無理に嫌いになろうとする方がもっと辛い、と思う」


 一度好きになったら人を諦める辛さは痛いほど知っている。


 感情は自分ではどうにもできないことだ。感情というのは身勝手だ。


「だから好きな時に好きになったらいいし、嫌いになった時に嫌いになればいい――その時が来るまで」


 それは当たり前のことだけど、そんな当たり前が分からなくなるほど恋愛は盲目になる。


 こういうのは時間が解決してくれる。自分の気持ちに整理がつくまで待つしかないのだ。


「だから、無理に嫌いになる必要はないと思う」


 どうしても自分の気持ちに嘘をつくことだけはしてほしくなかった。


 とは言っても、過去に何度もそれをしようとした俺がこんなことを言うのはお門違いかもしれないけど。


 それでも、今はただそれだけを切に思った。


「……ズルいよ。そんなの」


 心なしか表情が少し明るくなった唯奈さんはそう言って俺から背を向ける。


 そして最後に、


「また明日」


 その一言は誰もいない虚空に消えていくが、誰に向けた言葉なのかは一目瞭然だった。


「うん。また明日」


 その言葉に俺も一言、仲直りした彼女に向けて放ったのだった。

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