68.勇者の手紙
――――魔王討伐から十年後。
「ふーっ、こんなものかしら」
茶色の長い髪をバレッタで止めた女性が、机の前で手を上に大きく伸びをした。
彼女の名前はステラ。勇者ルカの妹である。
魔王討伐の報奨を女王エレオノーラから問われたルカは、妹を王都の学校へ通わせてもらうことを願った。
そして彼女はその後文官となり王都で働く。結婚をし、子どもができ幸せな時間を今は過ごしている。
そんな中彼女は、勇者の物語、つまり自身の兄が魔王と戦った物語がどれも、魔王を倒してハッピーエンドで終わっていることに気づく。
”勇者様は今日もどこかで平和のために戦い続けているのです”で終わる物語。そう、この一節は正しいが間違っている。
彼女は知っている。この偉業の背後には知られざる沢山の人々の涙と苦難の物語があることを。
現実は決して優しくない。物語の後にも現実は続く。それは決して神に選ばれた勇者であってもハッピーエンドになるとは限らない。
魔王を打ち破った勇者、世界の英雄。しかし平和をもたらした勇者は戦いの世界から帰って来ることができなかった。今もどこかで戦い続けている。
ステラは子どもの頃、父と母から兄の活躍を聞くのが大好きだった。兄は度々手紙を送ってきて近況を伝えてくれた。ときには強大な魔族に挑み、ときには遺跡を探検する。そんな子ども心がわくわくするエピソードの数々を聞くのがステラは大好きであった。
しかし、砦村が蹂躙された後に再会した兄は、記憶にある姿とも、思い描いた勇敢な勇者の姿とも異なり疲れ果てていた、沢山の苦難、葛藤、迷いがあったのだろう。良いことばかりが語られた勇者の物語には無い何かが。
そこで勇者と、この戦争を戦った全ての勇敢なる人々の残した手紙と関係者への聞き取りをまとめ、一冊の本にした。それは記録、思い、葛藤、後悔。吟遊詩人が決して描かない本当の勇者の物語。
その本のタイトルは「勇者の手紙」、魔王との戦争の記録。ルカと共に戦った”勇者”たちの記憶。
第六章はこれで終わりです。
次のエピローグで最後になります。
次回更新は7/26予定です。




