エピローグ
――――魔王討伐からおよそ半世紀過ぎ。
ベッドを立て、寄りかかりながらエレオノーラはアイシャに顔を向ける。
「勇者様はどうしてる?」
「ゆっくり暮らしてるわよ、妹夫婦と。あと何故かレミッサも一緒に」
「ふふっ、まだ一緒にいるのですね」
穏やかな表情で元女王は笑みを浮かべる。
「はぁーー、相変わらず何を考えているのか分からないヤツ。それより! あいつ何なの!? エルフでもないのに四十歳くらいから年取らなくなってんだけど! 歳はエレナ様とそんなに変わらなかったですよね?」
あきれた表情のアイシャ。エレオノーラはころころと笑っている。
「ええ、彼女の方が幾分若いけど」
「聞いても『頑張って魔法かけてるんですぅー』とか言うし……なんなのかしら? 本当に人間? 龍の生き肝を喰らったからとか噂されてるし……」
ちょっと真顔になって真贋怪しい噂を思い出すアイシャ。
「……若い頃の彼女を知ってる人は、生き肝を喰らったと聞いても驚かないでしょうね、ふふっ」
昔を懐かしみながら笑っているエレオノーラ。
「バルドはどうしています?」
他の勇者パーティーのメンバーについても尋ねる。
「彼は砦村で相変わらず自警団仕切ってるわよ? 最近腰が痛くて剣が振れないとかぼやいていたわ」
「まぁ、あんなに筋骨隆々とした姿でしたのに」
プレートメイルに身を包み、ぱっと見ルカより勇者っぽい彼の姿を思い出す。
「人間は歳を取るのが早いわよねー」
しみじみとした様子でアイシャは首を振りながら言う。
「あなたは何をしているの?」
「わたし? 私は相変わらず旅をしてるわ。エルフの里に籠もっててもつまらないし。みんなのところにもちょいちょい遊びに行ってメッセンジャーみたいにもなってるわ」
「それは……それは楽しそうね」
エレオノーラはシワが目立つようになった目を細める。
「私は結局、ほとんどこの王都から出ることはできなかった。みんなと一緒に旅をしてみたかったわ……」
アイシャは真面目な表情に戻して。
「本当にいいの? ルカと最後に会わなくて? レミッサと一緒に担いで来るわよ?」
「いいのよ、もうお別れは済ませたから。それに王都に呼んでも、あと十年くらいは生きるかもしれませんよ? ふふっ。ごほっ、ごほっ」
アイシャは慌ててエレオノーラの背中を摩る。
「勇者はまだ元気そうだから、最後にわがまま言ったらいいのよ」
「こんなにやつれてしまった私を見てほしくはないわ。でもその代わり……」
一通の手紙をアイシャに手渡す。
「これを勇者様にお願い」
「……分かったわ。必ず届ける。返事もらってくるからそれまで死ぬんじゃないわよ?」
茶目っ気にウインクするアイシャ。
「ふふっ。少し疲れたから休ませてもらうわ」
「お休みなさい。いい夢を」
アイシャはエレオノーラが眠りにつくのを見届けて私室を後にした。
●○●○●
その後、フェルティラ王国の大輪の華と呼ばれた元女王エレオノーラは静かに息を引き取った。
葬儀には勇者ルカを始め大勢の人々が集まり彼女の死を悼んだ。
その棺には勇者が送り続けた手紙と、いつも一輪だけ入れ続けた沢山のドライフラワーが共に入れられ彼女を彩った。
これにて完結です。
初めて書いた物語だったので拙いところも多かったかと思いますが、一つの物語を完結まで辿り着けることができて良かったです。




