62.閑話 それぞれの想い
――――魔王城への進軍前夜。
「おーい、もうすぐ締め切るぞー」
とある兵士が隊舎内に声を掛けて回る。
時刻は消灯時間間近。
「おい、待ってくれー。こいつも頼む」
一人の兵士が部屋から顔を出し手を振っている。手には一通の封筒がある。
「はいよ。彼女にか?」
受け取った手紙を収集用の袋に入れながら、渡してきた兵士を茶化す。
「ちげぇよ……お袋に。喧嘩して家飛び出して……ふらふらして結局軍に拾われて。ずっと連絡取って無かったんだ……」
「そうか……」
「今回の行き先は魔族領だろ? 敵は魔王だし……生きて帰れないかもしれないって思ったら急に顔がよぎってさ」
恥ずかしそうに頬をかく兵士。
「確かに預かった。だが必ず帰ってこいよ。そんで直接会ってこい!」
「……分かった。ありがとう」
そう言って二人は別れた。
●○●○●
別の兵士は――――
「兵役中に子どもが産まれてさ。この間の手紙だともう立って歩ってるって言うんだ。オレも今回で兵役が終わるから、お父さんだぞって一杯抱きしめてやるんだ……なのに、魔王だって……? くそっ……」
「なんだ……すまん。オレには何も言えない……これからここを発つオレには……生き残れよ」
「ああ! 必ず!」
二人は握手を交わし別れた。
●○●○●
年若い兵士は――――
「オレ、故郷に彼女を残してきているんだ。軍に入ったのも結婚資金を貯めるためで。今までちゃんとした仕事に就いて無かったから、彼女の親父さん説得するため。だから、絶対帰ってきます。死亡通知と一緒じゃ彼女泣かせちゃうんで」
少しはにかみながら、その若い兵士は笑った。
●○●○●
「もう締め切るぞー。手紙を書くか迷ってるヤツは出しとけ、後悔するぞ」
できるだけゆっくりと歩く兵士。
本来、郵便担当の通信兵は隊舎内の割り当てられた部屋で待っていれば良い。だが彼は手紙が運ぶ人の想いを知っている。だからこうして、出そうか迷っている者たちの背中を押す。明日も知れぬ兵士たちが未練を持たずに戦えるように。
通信部郵便部隊は手紙を届ける。
手紙を受け取った友人、家族、恋人が、歓喜に泣く者、その場に泣き崩れる者……
同じ涙も正反対。
――――手紙は喜び、手紙は悲しみ。
――――手紙は記憶、手紙は想い。
――――手紙は過去、手紙は宝。
今日も手紙は誰かに届く、誰かの思いを包み――――
次回更新は7/5予定です。




