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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第六章
63/71

61.戦いの果てに

 魔王が黒い粒子となって溶けていくのを、最後の一片まで見送ったルカは再び座り込みそのまま倒れ込んだ。

 最上級の勇者魔法を放った後遺症による倦怠感と体力の限界であった。 直ぐ隣にはバルドも肩を押さえて座り込んでいる。


「ルカさーん、バルドさーん。ご無事ですか?」

「何とかね」


 前衛と比較して直接的な怪我は少ない後衛の二人が足早にやってきた。

 ルカは寝たまま首だけ振り返り答えた。


 ルカもバルドも大小の切り傷刺し傷等々、全身怪我だらけだ。特にバルドは盾を使って直接体を打つけていたこともあり、あちこち打撲や出血をしている。

 それをレミッサが慣れた手つきで治療していく。治す過程で痛みも生じているが、二人ともあまりにクタクタで為すがままにされている。


「ルカ、大丈夫?」

「うん、もう平気。クタクタだけどね」


 アイシャが前室に置いておいた物資から水筒を持ってきて差し出す。

 彼女自身も魔王の魔法攻撃であちこち浅く切り裂かれているが、大事はないようだ。


「うぎゃーっ!」

「暴れないでくださーい!」


 バルドが悲鳴を上げる。比較的重度の怪我を治療されたようだ。

 そんな声を聞きながら、ルカは水筒の水で喉を潤すと、生き残ったと安堵の溜息をついた。


    ●○●○●


「一緒に来た軍は大丈夫だろうか……」


 ようやく落ち着いてきたルカは残してきた軍のことが心配になってきた。

 バルドは治療が終わり、今度こそ精も魂も尽きた表情で転がっている。

「大丈夫ではないでしょうね……上手く撤退できれば……かろうじて」

「でも挟み撃ちにされなかったってことは、押さえ込んでくれてたってことですよねー」


 アイシャが神妙な顔で悪い想像を告げる。

 一方でレミッサは良い方向で考えているようだ。


「とにかく合流を急ごう!」

「少しは労って……優しくして……」


 ルカが疲れた体に鞭を打ち立ち上がったその脚をバルドが掴んだ。バルドはまだ転がっている。


「ほら、もうひと頑張り! 行くよ!」


 ルカが手を引っ張って立たせようとするが、体格で負けてる上にプレートメイルを着用しているバルドは動かない。


「はぁ……お前昔から強引なところあるよなー」


 ようやくぼやきながらルカに肩を借り立ち上がる。


    ●○●○●


 ――――魔王城手前の草原地帯。


 辺りは既に陽が沈み薄暗くなっている。


「くっ、これは!」

「ダメですー……亡くなってます……」


 草原はどこもかしこも焼け焦げ、おびただしい数の兵が倒れていた。

 レミッサが近くで倒れている兵に駆け寄り確認するも既に息はなかった。

 状態を見ると雷に当たったような焼け焦げた痕がある者や、鋭利な物で切り裂かれた者など致命傷になった原因は様々であった。


「誰か! 生きている人はいないか!」


 歩みを進めながら生存者を探す。

 すると遠くに動く影が見えた。


「おおーい!」


 ルカは大きく手を振る。

 するとこちらに気づいたようだ。


「勇者様方が帰って来たぞ!」


 少し丘になっていた向こうから沢山の兵士たちが駆けてきた。

 ほとんどの者が包帯を巻くなど怪我をしている。中には片腕の先が無い者や杖をついている者もいる。


「あぁ……」


 全滅はしていなかったとルカから安堵の声が漏れる。

 こうしてルカたちは再び連合軍と合流したのであった。


    ●○●○●


 ――――連合軍の簡易司令所が置かれている天幕。


「おぉ……勇者様。生きて再会できて何よりです。魔王は?」


 少し涙ぐみながら司令官が握手を求める。

 深く頷きそれに応えながらルカはこれまでの状況を尋ねる。


「倒しました。あれからどうなったのです? 襲撃してきた魔人は?」

「やりましたね……」


 司令官は人差し指で涙を飛ばしながら真剣な顔になった。


「まずは伝令を出しましょう! 人類の勝利です。おい! 急ぎ中央司令部に伝令!」

「はい!」


 嬉しそうに控えていた兵は天幕を出て行った。

 兵が出て行ったのを確認すると、司令官は顔を強張らせ悔しそうに話し始めた。


「それで勇者様と別れてからなのですが……我々の力では精々敵をいらつかせるのが精一杯でした……それにも関わらず全兵力の半分以上を失い、残った者も重軽傷者多数の状況です」


 悔しそうに握りこぶしを握る司令官。

 連合軍は勇敢に戦った。端から倒せる敵とは思っていなかった。ただ勇者たちの下に行かせない、ここに釘付けに出来れば良いと。

 しかし、実際は魔法兵による波状攻撃を加えても人数差を押しつけても、魔人をいらつかせる程度であった。

 反対に魔人からの攻撃は苛烈で、いざ魔法が放たれれば黒き雷撃に打たれ黒焦げの死体ができあがる。接近戦を仕掛けるも、相手は瘴気を(まと)っただけの素手にも関わらず、頑強なプレートアーマーを突き破り容易く命を刈り取る。

 とにかく遅滞戦術を取るしかなかったと言う。


「兵力が半減し、()も撤退かと考えた時、突如ヤツは去って行ったのです。近くにいた兵が聞いたところによると、舌打ちと共に『魔王のヤツやられちまったのかよ』と言っていたそうです。そうして我らは生き残ることが出来たのです」

「良かった……僕たちの戦いで皆さんを救うことが出来て……」

「はい、勇者様のおかげで全滅を免れることが出来ました。本当にありがとうございました」


 司令官は深々とルカたちにお辞儀をした。そして頭を上げると声高に言った。


「さあ、胸を張って帰りましょう! 凱旋です!」


 その後、生存者の治療と死者の埋葬をした一同は、墓前に整列し黙祷を捧げた。


(あなた方の勇気、忘れません)


 ルカはそう心の中で告げ踵を返した。

次回更新は7/2予定です。

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