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勇者の手紙  作者: NoKKcca
第六章
61/71

59.vs.魔王①

第六章、最終章に入ります。

最後までお付き合いください。

 ルカたちは周囲を警戒しながら、治療と休憩を取り体勢を整えた。

 その後、ホールの奧にある扉を開き先に進む。そこは長い通路だった。左右を見渡すと部屋がいくつもあり、壊れたドアから中を(うかが)うと修道士たちの居室だったようである。

 慎重に歩みを進め通路の突き当たりの扉の前に立った。教会の一番奥だ。この扉はしっかり作られていたようでピタリと閉じている。

 恐る恐る扉を開き、中に入るとそこは礼拝堂だった。天井は高く、割れたステンドグラスからは登ったばかりの月が見えた。


「勇者たちよ。よくぞここまで辿り着いた」


 逆光になり顔は見えないが、声がする方を見ると、月を背にして崩れた主神の像に腰掛けている者がいる。圧倒的な瘴気の気配がする。


「……お前が魔王か?」


 ルカが静かに尋ねる。


「うむ、お前たち人類が言うところの魔王というのは我だ」

「「「「!?」」」」


 すんなりと答えた魔王に対し、ルカたちは驚きを隠せない。なぜなら、シルエットから察するにこれまでの魔人と同じく人型で、体格はバルドよりも華奢に見える。ルカと変わらないくらいか?

 魔王というならば、屈強な武人のような姿ではないかと想像していたためギャップがかなりある。

 服装はかつての修道士が着ていた服であろうか? 修道服のような服装をしている。崩れた主神の像に腰掛けていなければ修道士と見間違えるような溶相だ。

 その魔王と名乗った魔人は組んでいた脚を組み変えると、こうつぶやくように言った。


「王である我に剣を突き付けたのだから我の負けか……」

「……??」

「戦争というのはそうであろう? 代表者たる者が敗北を認めれば終わる」


 ルカは魔王が何を言っているのか分からなかった。最後の戦いを覚悟し乗り込んだのにも関わらず、魔王が負けを認めたからだ。

 沈黙が礼拝堂を支配する。


    ●○●○●


 魔王は独白のように続ける。


「我はただ人類の町に行ってみたかっただけだ、あの未知に満ちたあの場所に。だがそのためには我らの力を示す必要があった。戦争をする必要が」

「なぜそんな結論に……」


 ルカは戸惑いを隠せない。


「何故って、元々君たちが軍を率い、我々を攻めたのではないか。我らはただ狩りをしていただけなのに――」

「その狩りの対象に人類は含まれるのでしょうか?」


 眉間にシワを寄せてレミッサが食い気味に問う。


「んっ? ああ、当然入る。狩りというのは糧を得るということであろう? 我らは木の実も動物も、その中に含む人類も含まれる」

「魔物や魔人は?」

「魔に転変した獣は食べられるから狩る。だがそちらの言葉で言う魔物や魔人は狩ったところで魔石? だったかしか出ないであろう。それでは狩りの意味が無い。もっとも魔人同士で戦うこともあるが。我らは強きに従うのが常であるのでな。人類と同じだ」

「…………」


 根本的に考え方が人類と異なる。


「君たちも動物や魔獣を狩り、糧を得ているだろう。それだけじゃない魔物も魔人も。対象が意思疎通ができるかどうかの違いに過ぎぬ」

「それは魔物も?」


 アイシャが神妙な顔で確認する。


「そうだ、これは我の能力だが、魔獣や魔物にも意思があり命令することができる。人類に仲間を殺された恨み。ただ暮らしていただけなのに追われた怒り。(もっと)も、高位の竜のような魔獣は自分の考えを持っているから、我とて命令することはできんがな。その怒りや恨みなどの意思に呼びかけ我は命令を下している」

「つまりは魔物や魔獣の組織だった動きはお前のせいってことか」


 バルドが戦闘態勢を維持しながら言う。


「我はこの能力を持って人類の戦を真似て戦っていたが、我自身には大した戦闘力はない。だから負けたと言ったのだ。我の求めるは戦争の終結であり、死ぬまで戦うつもりはないからな」


 これは本当に講和で決着が付けられるか? と淡い期待をルカは抱く。

「百年前にも我に辿り着いた勇者に戦争の終結を提案したが、結局、再び会うことはなかったな」

「!? 魔王! 炎の勇者はお前が倒したんじゃないのか?」


 やはり炎の勇者は魔王に辿り着いていた。魔王の口から語れた真実に驚くルカ一同。


「我は人類の代表と戦争終わらせるための話がしたいと勇者に伝えた」

「だが炎の勇者は帰って来なかった」


 喰い気味にバルドが鋭く告げる。


「ならば我以外の者が倒したのであろう」


 人ごとのように魔王が言う。


「そんな……他の魔人に停戦を命じれば良かったじゃないか!」

「ん? ああ、そうか。王というのは本来そうか……一つ思い違いをしているぞ勇者。我は魔王だが、それはお前たち人類が勝手に呼んでいるだけに過ぎない。だから我が命令できるのは配下の魔物と魔獣だけだ」

「なっ!?」

「お前たち人類もそれぞれであろう? 戦いを好む者も好まぬ者もいる。同じだ。大部分の魔人はこの北の地でひっそりと暮らしている。人類と戦っているのは戦い自体を好んでいる者ばかりだ。一部魔人の国というものに興味があって、魔王たる我に付き従っている者もいるがな」


 ルカは魔王城の手前で軍と戦っているであろう魔人の言葉を思い出す。

 ――――魔王だって? 大層な名前を付けたもんだね。あんな小心者に。


 あの魔人は魔王の命令で動いていたのではなく、戦いを求めて動いていたのだろう。

 続けて放たれたこの言葉に空気が凍り付く。


(もっと)も次は我も負けぬがな」

「また戦争を起こすつもりか!?」


 ルカが激しく反応して糾弾する。

 魔王は何をおかしなことを、と言っているかのような声音で告げる。


「何を当たり前なことを。 お前たち人類もそうではないか? 何度も何度も戦争を繰り返す。自分たちの正義のために。我も負けたままでいるつもりはない」

「!!」


 停戦は大歓迎だが、再度戦争が起こることが確約された停戦ではたまったものではない。

 ましてや魔王の能力は魔物と魔族を従えるもの、これまでのやりとりから、今日の人類との戦争はほぼ魔王一人で成り立っていたようにも思える。

 ルカは覚悟を決めた。他の三人を見ると皆同じ気持ちのようだ。

 ルカたちの戦意が高まるのを感じたのか、魔王は残念そうな声で開戦を告げる。


「ふむ、やはり戦うしかないのか? そうか……残念だ。では始めようか勇者諸君」


 ここに勇者と魔王の決戦が始まる。

次回更新は6/25予定です。

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