43.vs魔人
戦況は混沌としていた。
散発的に魔人から飛んでくる魔法。当たれば一度に四~五人もの兵士が吹き飛び、当たり所が悪ければそのまま戦闘不能になってしまう。
ルカも勇者魔法を防御に振り、魔人からの攻撃を防ぐ。
ルカの攻撃への参加が減ったことにより、勢いを取り戻した魔物が攻勢を強める。
ドゴォッ!――――
「うらぁっ! 待たせたなルカ!」
「バルド!」
後ろから助走を付けてシールドバッシュの体勢で突っ込んできたバルドが魔物の前線に突っ込む。身体強化の魔法を自身に施した渾身の一撃により敵の前衛が吹き飛ぶ。
「えいっ! 私もいますよー」
バーンッ!――――
その崩れた前線にレミッサの爆炎魔法が突き刺さり、天を突くような炎が上がる。
「レミッサ、もう大丈夫なの?」
「大丈夫ですけど、攻撃魔法は今ので打ち止めですー」
シュッ、シュッ、シュッ――――
バン、バン、バン――――
「まだまだ来るわよっ!」
アイシャが魔法付与した矢が敵に突き刺さり爆発する。
今の攻撃で少し間を取ることができた一団は体勢を立て直す。
「勇者様! ここは我らで抑えます! 領主館に行ってください!」
前線の指揮に当たっていた将官が叫ぶ。
「分かりました! 魔人を抑えます! みんな行くよ!」
「おう!」
「分かったわ」
「はい」
「お供します」
ルカ一行とマイズ率いる十人ほどの帝国兵が走りだす。
先頭はバルド。その後ろにルカが控え、勇者魔法の発動を準備する。
【貫け、聖なる奔流】
「やあっ!」
ゴオゥ――――
ルカが中級の勇者魔法を放つ。剣から光の奔流が吹き出し前を走るバルドを追い越すと、魔物の前線に突き刺さり一直線に突き抜けた。後に残るのは魔物が消し飛んで開かれた一本の道。その一本道を先頭をバルド、左右を帝国兵で固めた勇者一団が駆け抜ける。
魔物たちも呆気に取られたのか動き出しが鈍い、その隙を突いて勇者一団は魔物の軍勢を突破することに成功した。
接近してくる勇者一団に狙いを定めたのだろうか、魔人から攻撃は先ほどより頻度が上がる。
始めの何発かをバルドが盾で弾くが、そのうちにルカの範囲防御魔法が完成した。
【守れ、聖なる領域】
パシン、パシン、パシン――――
走る一団を覆う光の幕が魔人からの攻撃を弾く。
そのままの勢いで街を駆け抜けた勇者一団は、とうとう領主館に辿り着いた。
バンッ!
乱暴に領主館のドアを開き中に入る。
「ヤツは二階か?」
バルドは中に入ると注意深く周囲を見渡し、後続に合図を送った。
先ほどの攻撃は二階のバルコニーからであった。魔人は二階に居るだろう。
「行こう!」
ルカの言葉に一同は首肯し、ホールにあった階段を登り二階に着いた。
●○●○●
魔人は逃げも隠れもせず、領主の執務室の窓の前に立っていた。領主であるファトムも執務机に座っている。
「ようこそ、初めまして勇者殿」
「…………」
鷹揚とした仕草で胸に手を当てて一礼する魔人の男。
ファトムは静観するようにこちらを見ている。
「っ! ルカです。あなたは魔人……?」
いきなり人類の言葉と礼をもって迎えられたルカは驚きを隠せない。しかし、気を立て直すと魔人と思われる男に問いかけた。
「うむ。人類の呼び名で言えば私は魔人だろう。名はウンブラと言う」
相変わらず殺気を全く感じない。しかし、油断ならない強大な気配がする。
「何故この街を奪った?」
会話ができるのであればと思い、問いかけを続けるルカ。
「奪った? それは認識の齟齬だな。私は何も支配していない。攻めてきたから反撃しているに過ぎない。そもそも先に街を奪おうとしたのは人族の賊軍だ。その賊を倒した礼に、滞在させてもらっているだけ。私は人類の街に興味があったのでな」
「それは事実なんですか、領主?」
マイズが領主ファトムに尋ねる。
「事実だ……追放処分を受けた前領主が逆恨みで賊を集めて攻めて来おった。内通者もおり、街が陥落寸前のところにこの魔人、ウンブラがやってきて賊は全て始末しおったのだ。その礼にこの街に滞在を許している」
ファトムは深く頷き経緯を説明した。
「では、この魔人は人類に仇なす者ではないと?」
「いや……魔人は人類も食べ物と見なす。ワシは襲ってきた賊共を人身御供にし、領民たちへの手出しを防いだ……」
マイズとファトムのやりとりを静かに聞いていたウンブラが口を挟む。
「しかし理解できんな、人類が人類を殺すのは許すのに、何故魔族が殺すのは許せない?」
屋敷の窓のそばに立ち外を見ながら語りかけてくる。殺気は全く感じられない。
「あやつらは何が違う?」
ウンブラが街を見下ろしながら言う。
眼下の街では、乗り込んできた軍が街を制圧している。一部で制圧と称し一般市民にまで剣を振るうなど蛮行も行われている様子が見えた。
兵の中には税が納められず、その代わりとして兵役に強制的につかされているならず者もいる。そういった者たちはこの混乱に乗じて、略奪など鬱憤を晴らしているようであった。
ルカが窓の外を見て理解した瞬間、一緒に乗り込んだ兵士たちに叫ぶ。
「なっ! 敵は魔族だ、敵を間違えるな。ここはいいから今すぐ止めさせろ!」
「しかし勇者様…………」
「ここに居ても守り切れない、余波で死ぬぞ!」
強い言葉で兵士たちを追い出しながらも、窓際に佇む魔族に相対する。 勇者の言葉であろうと彼らは蛮行を止められないだろう。ルカたちは独自に動く権利を与えられたが、兵士たちに対する命令権など無いのだから。
兵士たちにとってこの街の住民は、魔族に与した神への裏切り者という認識だ。それも自らの行為を正当化させる言い訳になっている。
「戦うつもりかね?」
「魔物を退いて撤退しないのであれば……」
少し楽しそうな表情で振り返りながらルカに問いかけるウンブラ。
戦意が上昇しているのをルカは感じた。
「ならば仕方が無い。今代の勇者の力も見ておきたいしな」
一気にウンブラから瘴気が溢れ圧力が強まった。
「くっ! (どうする……? ここじゃ戦いづらい)」
ここは領主の執務室。領主であるファトムもまだ自席に座っている。
ルカはウンブラに斬りかかる。その切っ先を腕に纏った黒い瘴気で受け止めるウンブラ。そのまま鍔迫り合いになると、ルカは身体強化を強めウンブラを大きく吹き飛ばし、窓を破って街の中に戦いの場を移動した。
ガシャーン――――
突然降ってきた魔人とルカを見て兵士たちは泡を食う。
「死にたくなければ、さっさとこの場を離れろ!」
あらかた魔物は討伐できたのであろうか? 制圧に乗じて金目の物を物色していた兵士たちも、泡を食って逃げ出す。
【放つ、聖なる光の槍】
レミッサが放った神聖術による攻撃が着弾するが、ウンブラは腕を軽く払っただけでそれらを打ち消してしまった。
「あんまり効果なさそうですねー」
「だったら物理はどうだ!」
横合いから追いついてきたバルドが盾ごと体当たりして剣で切りつける。しかし、吹き飛びはするも剣撃は瘴気を纏った腕で受け止められてしまう。
「くそっ! 素手なのに固ぇ!」
大きく剣をもう一度振り抜くと大きく後ろに退きルカの隣に立った。
「レミッサ! あんた神官でしょ? 魔人には何が効くのよ?」
魔法を付与した矢で牽制しつつアイシャがレミッサに尋ねる。
「えー、魔人ってほとんど記録残ってないんですよね。魔物と同じく瘴気でできてるんでしょうから神聖術が一番効くとは思うんですけど……あんまり効いている感じありませんねー。やっぱり勇者魔法でしょーか?」
聖杖を振り何種類かの神聖術を放ちながらも、あまり効果が無いことにゲンナリしているレミッサ。
「ふん、邪魔だな」
バリバリバリ、ドカーン――――
ウンブラが横に腕を振ると、黒の奔流が横薙ぎに放たれ周囲の建物に突き刺さった。人諸共全てが吹き飛ぶ。
ルカたちはバルドの守りが間に合い何とか無事であったが、周囲は建物が倒壊する土埃に包まれていた。
「半端ねぇな! くそっ!」
バルドの盾には横一線に跡が付いていた。
キンキン、キーン――――
黒き閃光を脅威と見たルカは接近戦に持ち込む。
上段切り、下からの切り上げ、横一閃、隙を与えないように連撃を加えるがウンブラは難なくついてくる。
一度大きくウンブラを吹き飛ばすとルカは一度後ろに下がり息をついた。
「硬いっ!」
ルカと入れ替わる形でバルド、アイシャ、レミッサで攻撃を加えるが、あまり効果は見られない。
「ならっ!」
【纏え、聖なる刀身】
ルカの剣を光が覆い本来の刀身を1.5倍に拡張した。
「えいっ、やぁぁっ!」
ウンブラを押さえ込んでいたバルドと入れ替わる形で横一線、剣を振り抜く。ウンブラは腕で剣を押さえようとする。その結果は先ほどまでと違い、光を纏った剣はウンブラの左腕の肘から先を消し飛ばした。
「くうっ。これが勇者の力か……」
ウンブラは無くなった左腕の肘を右手で押さえ、大きく後ろに距離を取った。
初めてダメージを与えることに成功したようだ。
腕の切断面からは瘴気が黒い霧のように漏れていたが、しばらくするとそれは止まった。しかし、腕は直ぐには再生しないようだ。
「ふむ……まあいいだろう……勇者よ! 今日はこのくらいにしておこう! さらばだ!」
そういうとウンブラは大きく跳躍し建物の屋根伝いに去って行った。
次の攻撃に備えていたルカたちはそれを見送るしかなく。初めての魔人戦はここに終わりを告げた。
魔人の去ったフリグスの街は、占拠していた魔物は帝国軍の奮戦により次第に数を減らし、最終的に奪還されたのであった。
次回更新は4/29予定です。




